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ちゃんと謝りたい
しおりを挟む(((ふっふっふ~)))
応接間に、そんな軽快な笑い声が聞こえた。
声の主はもちろん頭上で私達の成り行きを窺っていた妖精さん達だ。
(グレンぶっ飛んでた~)
(当然の報いねっ!)
(僕らが力を貸したの~)
力を、貸した…?
なんとなくわかってきた気がする。
(カティすっきりした~?)
(這いつくばって良い様ねっ!)
(だっさいグレンにはお似合いなの~)
グレン兄様には寛大な妖精さん達が珍しく悪い笑顔を浮かべている様子に苦笑がもれる。
いくら彼のことを気に入っていたとしても、私に対するグレン兄様の態度については良く思っていないこともあったのだと思う。
「なるほど、カティア嬢が化け物じみた力を発揮したのは、全て妖精の協力のおかげだということか」
殿下が納得したようにそう言う。
彼らを見つめるとまるで、褒めて?とでも言いたげにニマニマと口元を緩めていた。
(私のためにありがとう、みんな)
…だけどそういうことは先に言ってくださいね。驚いちゃうから。
「……妖精?」
グレン兄様が不思議そうな顔をする。
殿下、失言です。
妖精の存在なんて知らないグレン兄様はなんのことなのかわかっていない様子だ。
彼の中では未だに私は怪力女なんだろうな。
「気にしないでください、グレン兄様」
「…?」
「それより、怪我が軽いようなら私としっかりお話しましょう」
「あ、ああ…」
強引に話題を変え、未だ地べたに這いつくばったままのグレン兄様の手を取りそっと起き上がらせる。
軽く引いただけで彼は勢いよく飛び跳ねるように立ち上がってしまった。
………まだ、怪力のままなの?
(妖精さん、もういいから!)
(((え~面白かったのに~)))
このままではいつか絶対に誰かに怪我を負わせてしまう。
もしくは誰かを消してしまうことになるかもしれない。
それだけは避けたい。
縋るような瞳で彼らを見つめると、妖精さん達はむうっと唇を尖らせたが、渋々了承してくれた。
私は学生鞄から筆記用具の入ったポーチを出し、その中から一つのペンをとる。
そして、グッと握ってみた。
………良かった、折れない。
妖精さん達が怪力を元に戻してくれたことを確かめ、一安心する。
「とりあえず、座って話しませんか?」
私達三人はようやく落ち着いてソファに腰を下ろした。
妖精さん達のおかげで、話題は逸れたものの、この場の雰囲気は少し和んだように感じる。
グレン兄様だけは未だ混乱している気もしなくもないが。
「…先程は冗談めかして立ち去ると言ったが、私は本当にここにいてもいいのか?二人でつもる話もあるのではないか?」
気を利かせてそう言う殿下に小さく首を振る。
「私はグレン兄様のことになると冷静さを欠いてしまう面があるので、第三者が隣にいてくれた方が落ち着いていられるんです」
「感情を抑え込まずに吐き出すことが必要な時もあるぞ?」
「…泥沼に陥りそうなので」
思うに、グレン兄様も私と同じ傾向にあるように感じる。
この場合は、誰かが一線引いて見守ってくれていた方が良いだろう。
「うーん、なら、同席させてもらおう」
「ありがとうございます」
私は殿下にお礼を言って、目の前に座るグレン兄様に向き直る。
さて、何から話したらいいのか…
頭を悩ませていると、先に口を開いたのはグレン兄様だった。
「…ちゃんと、謝りたい」
ぽつりとそう呟く。
「謝罪は先程頂きましたが?それに、しっかりぶっ飛ばさせてもらいましたし」
「あれは、カティの言葉を復唱しただけに過ぎなかったから…俺は自分の言葉で謝りたい」
「…自分の言葉で、ですか?」
「カティに言われて、気づいた。俺は今までこんな自分がカティに謝罪して、優しいカティがもしも俺のことを許してしまったらと、不安で仕方なかったんだ。それは、自分の罪が到底許されるべきでないということも理由の一つだけど、本当は…カティが俺を許して、俺を忘れて前に進んでしまうのが怖かったから」
話し続けるグレン兄様の顔がどんどん下を向き、俯いていく。
震える声は、これが彼の本心なのだとありありと語っていた。
「離れても、結局俺はカティから忘れられるのが怖くて…憎しみの対象としてでも、ずっとカティの心に居座っていたかった」
哀れな人だと思った。
「グレン兄様、私はあなたの気持ちが全く理解できません」
「…理解できるわけがない」
本心をさらけ出しているくせに、突き放すような言葉を口にする彼に少しムッとした。
「いい加減、私だってグレン兄様のことを理解したいのですが」
「………理解なんてしたらカティにもっと嫌われる」
………なんだこの人。
思わず白けた目を向けてしまった。
「………こんな歪んだ感情、カティに知られたくない」
ぽそぽそと蚊の鳴くような声で話すグレン兄様は過去一番の面倒くささだった。
「グレン兄様の頭のおかしさならもう十二分にわかっているつもりです!」
「………俺は、頭がおかしいって思われてたのか?」
彼はパッと顔を上げて、心底ショックを受けたような表情でそんなことを口にする。
「殿下……もう一発いっといた方がよろしいですかね?」
「俺に聞くな、やりたいならやれ」
さすがの殿下も呆れているのか、特に反対をすることもなかった。
さすがにあれだけぶっ飛ばされた後にもう一発というのは可哀想なのでやめておくが、それくらいイライラしたということはわかって欲しい。
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