兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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覚悟

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「できるできないという話より、まずは二人が何を望んでいるのか話し合った方が良いのではないか?まあ、グレンの方は明確に意思が決まっているようだが」


項垂れるグレン兄様と、どこか気まずさを感じる私に、殿下がそんなことを言った。


「カティア嬢は、どうしたいんだ?」


殿下の問いかけに、グレン兄様が不安げに私を見つめる。



「私は…」


ここまで自分の気持ちを整理することなく、漠然とした感情で動いていた。

改めてそんなことを聞かれるとうまく説明できない。



私は、これからどうしたいのだろう。



「わかりません…」

「はぁ、お前はこの期に及んで…」


殿下を呆れさせてしまったようだ。



「では、カティア嬢…今日は何をしにここに来た?」

「それは、グレン兄様をぶっ飛ばしにです」



「…ぶっ飛ばしに来ていたのか」

微妙な表情を浮かべてグレン兄様が呟く。



そうだ。

私は確かにグレン兄様をぶっ飛ばしにわざわざこんなに遠くまでやってきたのだ。



グレン兄様のことなんて放っておけば良かったのに。


どうしても、会って、気持ちをぶつけたかった。

しかし、いざ彼を目の前にすると有言実行に振りかざした拳以外では、まともに感情を表現することすらできていなかった。



「…グレン兄様のこととなると、私は自分の気持ちがよくわかりません」


「乙女心は複雑だと言うことか」

「意味がわかりませんわ、殿下」



そう言えば、ユーリから言われたっけ?


私がグレン兄様のことを好きなのだと。



好き、か。



「私は人を好きになったことなんてありませんから、名言はできません。ですが、グレン兄様の言葉を借りるなら……私だって、兄様のそばにいたいです」



これが人を“好き”になるということだと言うなら、悪い気はしない。

今も昔も、何をされても、私はグレン兄様を嫌いになったことは一度もなかった。



「カティ…?本気で言ってるのか?」


私の言葉に一番驚いていたのはグレン兄様だった。

見開かれた大きな瞳は今にも雫が零れ落ちそうなほど潤んでいる。



「その言葉が嘘だったら…俺はもうショックで立ち直れない。本当なのか、カティ」


「ええ、自分でもはっきりと名前を付けられないほど曖昧な感情の中で、あなたと一緒にいたいという思いだけは本物です」


離れてから約一年。

公爵家での暮らし、ユーリや殿下と過ごすたわいない日常は、私には勿体ないほど満ち足りた毎日だったが、やはり何かが足りなかった。


その足りないピースが彼だと気づくまでに長い時間がかかったけれど。



「カティ、俺も…俺もカティと一緒にいたい」

「それは先程聞きました」


グレン兄様に、嬉しそうにパタパタと揺れる子犬のしっぽが生えているような幻覚が見えてきそうだ。

へにゃりと甘い笑みを浮かべる彼は本当にあの暴君グレン兄様なのだろうか。


少し印象が変わりすぎているように感じる。



それだけ本心を隠して生きてきたということなのかもしれない。



「グレン兄様は、私のことが好きなのですか?」


最後にグレン兄様とお別れをした日、同じようなことを聞いた気がする。

あの時は嫌になるくらい明言を避けていたが、今の彼ならどう答えるのだろう。


少し気になった。




「ああ、好きだ。愛してる…ずっと、ずっとカティにこの気持ちを伝えたかった」


「…そう、ですか」


返した返事は驚くほど震えていた。


私は確かに彼の言葉を嬉しいと感じている。


家族の情なんかよりずっと甘くて、胸が高鳴るようなこの気持ちをなんと呼ぶのだろう。


それが、恋とか、愛とか…とにかく、目の前のグレン兄様と同じ気持ちだったらいいなと思った。



自然と口元に笑みが浮かぶ。



「私、覚悟が決まりました」



「覚悟?」

「へえ、聞こうか、カティア嬢」




「グレン兄様が王都に入れないのなら、私がここに移住するしかないようですね」


私の言葉に二人は目を見開き、しばらく言葉も出ないといった様子だった。



「これはまた、大胆な選択だな?」

「我ながら思い切った決断だと思います」


もちろん、不安がないわけではない。



「ですが、グレン兄様とのわだかまりが解消された今…誰にも咎められず兄様のそばで、共に支え合いながら生きていきたいんです」


「……カティ」

「何か文句でもありますか?」


自分の口から出た思いのほかくさいセリフに照れ隠しで喧嘩腰になってしまった。

ご愛嬌だろう。



「あるわけない…だけど、ここは以前より随分発展したとはいえ、まだまだ課題は山積みだ。王都で暮らしていたカティに不便な生活を強いることになる…正直、後悔しない選択とは思えない」


この期に及んでこの人はうだうだと何を言っているのか。

グレン兄様って結構面倒な性格してる。



「兄様だって王都育ちのボンボンでしょう!私だってこれくらい乗り越えてみせます。どうして不安を煽るようなことをおっしゃるんですか!私がやっぱり止めるって、素直に王都に戻ったら満足なのですか?」


「っ、嫌だ!そばにいてくれ!」

「………どっちですか」


ほらまた殿下がげんなりと白けた視線を送ってきているじゃないですか。



「うっ…カティには大変な思いをさせるかもしれない。だけど、俺が絶対カティを守るから…俺のそばにいてください」

「ええ、喜んで」


私は満足げに、にんまりと口角を上げた。

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