兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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婚約

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「ということで、グレン兄様」

蕩けるような甘い瞳で私を見つめている彼に、私はニコリと微笑んで言葉を続ける。


「マリアンヌ・トリスタン男爵令嬢との関係を、私が理解出来るよう簡潔に述べてくださいませ」


「トリスタン…?」


私がここまでやって来たもう一つの目的だった。



あれだけ私に執着し、私を苦しめてきたグレン兄様が、私をあっさりと忘れて他の令嬢と婚約したという話を問いただしにきた。

…正直不愉快な気分だった。


私への想いはそう簡単に消してしまえるものだったのかと。



「婚約なんて、してない」


グレン兄様はムッと唇をとがらせてそう言った。



「では、どうしてあの男爵令嬢はわざわざ私に兄様との婚約を知らせに来たんですか?」

否定されてほっとしたものの、もやもやして語調が強くなってしまう。


「トリスタンの次女だったか、三女だったか…それが俺に好意を抱いていることは知っている。この領へ援助してくれているバート家と親類になってしまったことであまり無下にはできないのを良いことに婚約者面をしているだけだろう」


ため息をついてそう言うグレン兄様は、心底面倒くさそうに眉間に皺を寄せた。



「…カティに接触してきたのは、俺の愛しい相手にマウントでもとっておきたかったんだろう」

「っ…」


愛しい相手なんて、どうして平然とそんな恥ずかしい言葉が言えるんだろう。

いたたまれなくなって視線をそらすと、完全に目が死んでいる殿下と視線がかち合った。


…なんか、すみません。



「はぁ…だが、このまま放っておけばますます調子に乗るのではないか?カティア嬢が苦しむことになるかもしれないぞ」

「殿下に言われずともわかっています」


不機嫌なまま殿下にそう返す彼の肝の座り方はどうなっているのだろう。

…忘れがちだけど王太子殿下ですよ?



「ああもう!だったら解決策を考えろ」

「言われなくとも考えております」


淡々とそう返すと、兄様は徐に私をじっと見つめた。


形の整った唇がそっと開き、言葉を紡ぐ。



「カティア……俺と…結婚してくれないか」


「結婚…?」



「ほう、まさか親友のプロポーズに立ち会うことになるとは思わなかったな」


驚いて固まる私の耳に、殿下の愉快そうな声が耳に入った。



「カティが俺と結婚してくれたら、トリスタンだってもう強引に迫ることもできなくなる。あちらは男爵、公爵家とは家格も段違いだ」

「…トリスタン男爵令嬢を退けるために私に結婚を申し込まれたのですか?」


「違うぞ!すまない、俺の言い方が悪かった……トリスタンなど付け入る隙がないくらい、カティをしっかり俺のものにしたいんだ」

頬を赤く染めて彼がそう言う。


……グレン兄様は、こんなに可愛い人だったのか。

ここにきて、彼の新たな一面をたくさん見ている気がする。



「そうですね、どうしましょう」


ついついからかいたくなって悩んでいる素振りを見せてしまう。


「……やっぱり、俺と結婚なんて嫌か?」


あっという間に潤いを持ち始める彼の瞳が、綴るように私を見つめる。



「ふふっ、嫌なんかじゃありません。グレン兄様ともう一度家族になるのも悪くありませんね」

「本当か…?俺と結婚してくれるのか!?」

「だからそう言っています。グレン兄様は結構疑り深い方ですね」


「だって…信じられない…カティが俺なんかと」


なんだかグレン兄様の人柄をやっと今少しずつ理解でき始めた気がする。


根本的に自分に自信が無いタイプだこの人。


「はぁ、グレン兄様は容姿も並外れて整っていらっしゃいますし、領地経営の手腕も見事です。学園にいた時だって文武両道を極めていらっしゃいました。貴族令嬢の憧れの的でしたのに、どうしてそう自分を卑下なさるのですか」


「……他の貴族令嬢なんて関係ない。俺はカティが自分を選んでくれるなんて有り得ないと思って生きてきたから…どうしても、これは自分にとって都合の良い夢を見ているんしゃないかと疑ってしまうんだ」


グレン兄様の世界は私中心にでも回っているんだろうか。

そんな錯覚すら覚えてしまいそうだ。



「本人がグレン兄様が良いと言っているんですから信じてください」

「……ああ、信じる。これが夢だろうと構わないくらい、俺は今幸せだ」


それは信じれていませんよ、グレン兄様。



「とにかく、私はグレン兄様と結婚致します!未来の国王が証人です!いいですね、お兄様?」

「あ、ああ…」

「おめでとう、やったなグレン。こじらせ続けた初恋がようやく叶ったな」


グレン兄様を無理やり納得させることができたようだ。


さてと、



「では、そろそろ王都に戻りますね」

一呼吸置いて、私はそう言葉を切り出した。


「っ、どうして!やはり結婚してくれるというのは…ここで共に暮らしてくれるというのは、冗談だったのか…?」


「どうしてそうなるんですか。違いますよ。結婚するとは言いましたが、今すぐにというわけにはいきません。学園を卒業するまで待ってください。準備だっていろいろ必要なんですからね?とりあえず今は、婚約ということでよろしいですか?」

着の身着のままやって来た状態でここに永住するとでも思ったのだろうか。


「……だが、もう離れたくない」

「うっ……我慢してください」

「もう夜も遅いし、今から帰るのは危険だ」


それは…一理あるかも。


「では一泊だけ泊まってもいいですか?」

「おっ、グレンとお泊まり会か。これはいいな。特別に一晩中お前の恋話にでも付き合ってやるとするか」


大の男が恋話なんて口にするのはむず痒いからやめてほしい。

しかも王太子が。



「殿下には離れを用意します。カティは俺の寝室でもいい…」

「いいわけないでしょう。客間の準備をお願いします」



…明日は学園をお休みするしかないようだ。

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