50 / 56
まだいらっしゃったのですね。
しおりを挟む「わだかまりは解消できたんだな」
夕食の時間になり、グレン兄様と共にダイニングに向かうと、何故か見知った人物が我が物顔で席に着いていた。
(カティ~ムカムカなおった~?)
(フィリップが遊んでくれたのねっ!)
(あれ~グレンと仲良くなってるの~)
「ああ、姿が見えないと思ったら殿下のところに行ってたのね…」
というかどうして彼がここにいるのだろう。
「カティ?」
「あ、いえ、何でもありません」
咄嗟に出た言葉にグレン兄様が不思議そうな顔をしているが、今はそれよりも殿下のことが気になってしかたない。
「今日の夕食は産地直送オマール海老のまるごとパエリアだそうだ」
「殿下がやって来てからうちの食事がどんどん豪勢になっている気がするんですが」
「そりゃあ私のポケットマネーで支援しているからな。なに、気にするな。連日泊めてもらっている礼だ」
…連日泊まってるんですね。
「あの、もしかして…私と一緒にこちらにやって来た時からずっと滞在しているのですか?」
あれからもう四日も経っているというのに。
「ああ、思いの外ここは居心地が良くてな。それに親友の恋愛相談に乗っていたら帰るタイミングを失ってしまった」
「恋愛相談、ですか…?」
「そんな相談に乗ってもらった記憶はありませんが」
相変わらずこの二人は、仲が良いのか悪いのかわからない。
殿下の片思いというのが一番しっくりくるかもしれない。
「で、ちゃんと話せたのか?」
「…別に」
「カティア嬢」
「そうですね、グレン兄様が何に悩んでいたのか知ることができたのは良かったと思います。…兄様が気にする事ではありませんでしたが」
グレン兄様の代わりに返事をすると殿下は満足そうに笑顔で頷いていた。
「ほらな、カティア嬢の心は海よりも広いからな。心配する必要なんてないと言っただろう?」
「…言われてませんが」
「何はともあれ二人がうまくいって私もほっとした」
(カティとグレンらぶらぶ~?)
(カティを泣かせたら許さないのねっ!)
(グレンの恋が実ったの~!)
妖精さん達の言葉に恥ずかしくなってしまう。
ラブラブではありません…まだ。
「私は腹が減った。続きは食事をとりながら話そう。ほら、早く席に着け」
「……殿下が仕切るんですね」
この国の次期国王をこんなに鬱陶しそうな目で見るのはグレン兄様くらいなのではないだろうか。
以前からそうだが、彼の殿下への態度は国に仕える臣下として大丈夫なの…?
…まあ、殿下の親友なんだし……うん、いいのだろう。
もう、この二人について考えるのはやめにします。
「…私もお腹がすきました」
そう言って兄様の手をひくと、彼は面白くなさそうな顔を浮かべていたが素直に席に座ってくれた。
海老のパエリアを食べながら殿下は終始ご機嫌だった。
私とグレン兄様が打ち解けたられたことが嬉しいらしい。
「拗れすぎたグレンの片思いがようやく本当の意味で実ったなんてな…うん、俺は嬉しい。カティア嬢、これは誰よりも優秀なくせに、時々馬鹿みたいに愚かだか愛想を尽かさないでほしい」
「ふふっ、私だって伊達に十年以上もグレン兄様と過ごしてきたわけではありません。兄様のことは殿下よりもよく知ってますよ?」
「ふっ、甘いな。グレンのことは私が一番理解していると自負している」
なんとなく、その言い方にはカチンときた。
「私の方が知ってます」
「いいや、私の方が詳しい」
……もしかして、私の最大のライバルは殿下なのではないか。
少しだけ面白くない。
確かに、グレン兄様の気持ちを殿下はよくわかっていたような気がするが…それでも、私だってずっと彼と一緒に過ごしてきたのだ。
殿下が知らないことだって知っている。
「グレンは学園にいた頃カティア嬢に近づく人間を牽制しまくっていた。これは知っていたか?」
「…知りませんが。グレン兄様は私の写真に夜な夜な愛を囁き口付けを落としていましたよ?」
秘密の具合で言えばこちらの方が上だ。
「それはそれは…少し、気持ち悪いぞグレン」
「殿下には関係ないことです」
兄様の赤く染った頬に少しだけ我に返った。
さすがにこんなこと殿下に知られたくはなかったはずだ。
「ごめんなさい、グレン兄様」
「カティが謝ることはない」
謝ることでしかないと思う。
「………パエリア、美味しいな」
無理やり貼り付けた笑顔でそんなことを言う殿下に私はこくこく頷いてスプーンを進める。
殿下と張り合ってもろくな事にならないと学んだ。
「で、あなたはいつ帰ってくれるんですか?」
「そんなに私に帰って欲しいのか?」
「当たり前です。カティと結ばれた今殿下の存在は正直邪魔者以外の何者でもありませんよ。ああ、カティのことなど関係なくずっとそうでしたか」
さすがに、言い過ぎでは?
「グレン兄様、一応その方は王太子殿下ですよ…?」
「一応…?」
「や、あの今のは言葉のあやで…」
だから殿下、じっとりした目でこちらを見ないでください。
「とりあえず、明朝王宮に使者を送ることにします。私では立場上殿下に強くでることばできませんから、直接陛下にお願いしようと思って」
「お前は鬼か?鬼なんだな?」
「ご自分の意思でお帰りになった方がよろしいのでは?」
「…またすぐ来る」
「断っても無駄なら、せめてカティの訪問と被らないようお願いします」
淡々と言葉を返すグレン兄様を殿下が恨めしげに見つめていた。
(フィリップ負けちゃった~)
(完全に邪魔者ねっ!)
(グレンはカティといちゃいちゃしたいの~)
「妖精達まで…」
ぽつりと呟く殿下が少しだけ哀れに思えた。
私は別にどちらでもいいが、グレン兄様が嫌であるならばしかたない。
それに政務も溜まっているのではないか。
王都を離れてやれる仕事も限りがあるはずだ。
…あれ、もしかして、ここに来てグレン兄様の相談を受けることを仕事を放り投げる言い訳にしてません?
「殿下、ちゃんと仕事はやらなくてはいけませんよ?」
「……やっている」
「書類仕事だけが王太子の務めではないでしょう」
「……お前たちは私には厳しい」
殿下は完全にいじけてしまっていた。
頑張ってください、殿下。
「カティ、俺は今日のために仕事を調整したんだ。明日はカティの好きなことをして過ごそう」
殿下が帰ると決まったからか、どこか機嫌の良いグレン兄様に私は笑顔で頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる