兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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まだいらっしゃったのですね。

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「わだかまりは解消できたんだな」


夕食の時間になり、グレン兄様と共にダイニングに向かうと、何故か見知った人物が我が物顔で席に着いていた。



(カティ~ムカムカなおった~?)

(フィリップが遊んでくれたのねっ!)

(あれ~グレンと仲良くなってるの~)



「ああ、姿が見えないと思ったら殿下のところに行ってたのね…」


というかどうして彼がここにいるのだろう。



「カティ?」

「あ、いえ、何でもありません」


咄嗟に出た言葉にグレン兄様が不思議そうな顔をしているが、今はそれよりも殿下のことが気になってしかたない。



「今日の夕食は産地直送オマール海老のまるごとパエリアだそうだ」

「殿下がやって来てからうちの食事がどんどん豪勢になっている気がするんですが」

「そりゃあ私のポケットマネーで支援しているからな。なに、気にするな。連日泊めてもらっている礼だ」


…連日泊まってるんですね。



「あの、もしかして…私と一緒にこちらにやって来た時からずっと滞在しているのですか?」

あれからもう四日も経っているというのに。


「ああ、思いの外ここは居心地が良くてな。それに親友の恋愛相談に乗っていたら帰るタイミングを失ってしまった」


「恋愛相談、ですか…?」

「そんな相談に乗ってもらった記憶はありませんが」


相変わらずこの二人は、仲が良いのか悪いのかわからない。

殿下の片思いというのが一番しっくりくるかもしれない。



「で、ちゃんと話せたのか?」

「…別に」


「カティア嬢」

「そうですね、グレン兄様が何に悩んでいたのか知ることができたのは良かったと思います。…兄様が気にする事ではありませんでしたが」


グレン兄様の代わりに返事をすると殿下は満足そうに笑顔で頷いていた。


「ほらな、カティア嬢の心は海よりも広いからな。心配する必要なんてないと言っただろう?」

「…言われてませんが」


「何はともあれ二人がうまくいって私もほっとした」


(カティとグレンらぶらぶ~?)

(カティを泣かせたら許さないのねっ!)

(グレンの恋が実ったの~!)


妖精さん達の言葉に恥ずかしくなってしまう。

ラブラブではありません…まだ。



「私は腹が減った。続きは食事をとりながら話そう。ほら、早く席に着け」

「……殿下が仕切るんですね」


この国の次期国王をこんなに鬱陶しそうな目で見るのはグレン兄様くらいなのではないだろうか。

以前からそうだが、彼の殿下への態度は国に仕える臣下として大丈夫なの…?



…まあ、殿下の親友なんだし……うん、いいのだろう。

もう、この二人について考えるのはやめにします。



「…私もお腹がすきました」


そう言って兄様の手をひくと、彼は面白くなさそうな顔を浮かべていたが素直に席に座ってくれた。



海老のパエリアを食べながら殿下は終始ご機嫌だった。

私とグレン兄様が打ち解けたられたことが嬉しいらしい。



「拗れすぎたグレンの片思いがようやく本当の意味で実ったなんてな…うん、俺は嬉しい。カティア嬢、これは誰よりも優秀なくせに、時々馬鹿みたいに愚かだか愛想を尽かさないでほしい」

「ふふっ、私だって伊達に十年以上もグレン兄様と過ごしてきたわけではありません。兄様のことは殿下よりもよく知ってますよ?」


「ふっ、甘いな。グレンのことは私が一番理解していると自負している」


なんとなく、その言い方にはカチンときた。


「私の方が知ってます」

「いいや、私の方が詳しい」


……もしかして、私の最大のライバルは殿下なのではないか。

少しだけ面白くない。


確かに、グレン兄様の気持ちを殿下はよくわかっていたような気がするが…それでも、私だってずっと彼と一緒に過ごしてきたのだ。

殿下が知らないことだって知っている。



「グレンは学園にいた頃カティア嬢に近づく人間を牽制しまくっていた。これは知っていたか?」

「…知りませんが。グレン兄様は私の写真に夜な夜な愛を囁き口付けを落としていましたよ?」


秘密の具合で言えばこちらの方が上だ。


「それはそれは…少し、気持ち悪いぞグレン」

「殿下には関係ないことです」


兄様の赤く染った頬に少しだけ我に返った。

さすがにこんなこと殿下に知られたくはなかったはずだ。



「ごめんなさい、グレン兄様」

「カティが謝ることはない」


謝ることでしかないと思う。



「………パエリア、美味しいな」


無理やり貼り付けた笑顔でそんなことを言う殿下に私はこくこく頷いてスプーンを進める。


殿下と張り合ってもろくな事にならないと学んだ。



「で、あなたはいつ帰ってくれるんですか?」

「そんなに私に帰って欲しいのか?」

「当たり前です。カティと結ばれた今殿下の存在は正直邪魔者以外の何者でもありませんよ。ああ、カティのことなど関係なくずっとそうでしたか」


さすがに、言い過ぎでは?


「グレン兄様、一応その方は王太子殿下ですよ…?」

「一応…?」

「や、あの今のは言葉のあやで…」


だから殿下、じっとりした目でこちらを見ないでください。



「とりあえず、明朝王宮に使者を送ることにします。私では立場上殿下に強くでることばできませんから、直接陛下にお願いしようと思って」

「お前は鬼か?鬼なんだな?」


「ご自分の意思でお帰りになった方がよろしいのでは?」

「…またすぐ来る」

「断っても無駄なら、せめてカティの訪問と被らないようお願いします」


淡々と言葉を返すグレン兄様を殿下が恨めしげに見つめていた。


(フィリップ負けちゃった~)

(完全に邪魔者ねっ!)

(グレンはカティといちゃいちゃしたいの~)



「妖精達まで…」


ぽつりと呟く殿下が少しだけ哀れに思えた。



私は別にどちらでもいいが、グレン兄様が嫌であるならばしかたない。


それに政務も溜まっているのではないか。


王都を離れてやれる仕事も限りがあるはずだ。



…あれ、もしかして、ここに来てグレン兄様の相談を受けることを仕事を放り投げる言い訳にしてません?



「殿下、ちゃんと仕事はやらなくてはいけませんよ?」

「……やっている」

「書類仕事だけが王太子の務めではないでしょう」



「……お前たちは私には厳しい」



殿下は完全にいじけてしまっていた。


頑張ってください、殿下。



「カティ、俺は今日のために仕事を調整したんだ。明日はカティの好きなことをして過ごそう」


殿下が帰ると決まったからか、どこか機嫌の良いグレン兄様に私は笑顔で頷いた。


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