兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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家族

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グレン兄様は私のいるベッドの横にスツールを運んで腰を下ろした。


「俺はカティに愛されたいと切望する一方で、本当に愛されてしまうことが怖かったんだと思う」

ぽつりぽつりと呟くように言葉を続ける彼。


「愛される喜びを知ってしまったら…俺はきっとカティに憎まれることに耐えられない」


それは私が彼を憎んでしまうことが決まっているような言い草で思わず首を傾げる。


「どうして私がグレン兄様を憎まなければならないんです?今までのことだったらもう…」

「違うんだ」

彼は悲しげな表情で私の言葉を遮る。



「カティには俺を憎む権利がある」

「どういう意味ですか…?」

「……」


私の言葉に、グレン兄様は何かを耐えるようにしばらく黙って、それから意を決したように口を開いた。



「カティの母親を殺したのは、俺の母親だ」


「っ、え…?」


思いがけない言葉に驚いて目を見開くと、グレン兄様は今にも消えてしまいそうなそんな儚い笑みを浮かべていた。


まるで何もかも納得して、私が彼を拒絶しても仕方ないというような姿に…少しだけ悲しくなった。



「俺の実の母親が、カティから永遠に大切な存在を奪ったんだ」

「…そうですか」



___記憶の中の母は、いつも笑っていた。


家庭をかえりみない父の分まで、たくさんの愛情を注いでくれた母。



母が死んで、すぐに新しい家族ができた。


だけど義母も義妹も心底私を疎んでいて、唯一優しくしてくれたグレン兄様も気がつけば別人のように冷たくなっていて…


正直どれほど自分の運命を呪ったかわからない。

母が恋しくて泣いた夜だって数えきれない。



「あの人は、処刑されたのですよね」

「ああ、既に刑を執行された」


淡々とそう言うグレン兄様。



「…つらくは、ないのですか?」

「あの女にとってただの若気の至りでできてしまった俺はただ自分が楽をするための駒だったからな。大した思い入れもない」


「父や…エクルとも離れ離れになって、」


「もともと前侯爵とは血の繋がりもない上にただ仕事を押し付けられていただけだ。エクルは…カティに構いっきりの俺をみてやけに執着するようになったが、以前はあの女以上に俺に対してまるで自分の所有物のような振る舞いをしていた。そんな人間たちをどうして慕うことができる…」


乾いた笑いを零してそう告げるグレン兄様に、なんとなく彼の本質を見た気がした。


彼は誰かに愛情を注がれたことがあるのだろうか。



思えば、愛を知らない彼が、私を信じられないのも当然のことだ。



「…だったらもう、グレン兄様の家族は私だけです」

「カティ?」


「だったら、母が亡くなったことはグレン兄様とは何の関係もありません」


元より、親の罪を子が被るなんておかしい話だ。

そうであるなら断罪された父や義母、義妹の罪は私の罪だということになる。



「でも…」

「グレン兄様も…私から家族を奪うのですか?」


随分と卑怯な言い方だ。

それでも、縋り付きたい程には、私はグレン兄様を必要としていた。



「俺は、カティから何も奪わないっ…与えられるものなら、なんでも与えたい…カティの願いは、俺が全部叶えてやりたいんだ」

「だったら、グレン兄様をください」


「っ、俺なんかでよければ…貰ってくれ」


真剣な瞳でそんなことを言うから少しだけ笑ってしまった。



「なんだか、グレン兄様が私に嫁いでくるみたいな言い方ですね」

「…カティと一緒にいれたらなんでもいい」


グレン兄様の蕩けるような甘い瞳と言葉にみるみるうちに自分の頬が染まっていくのがわかる。


ずるい。


私ばかりドキドキして、本人は平然としているんだから。



本当に私のこと好きなのだろうか。

…好きなんだろうなぁ。


自信を持ってそう言える程には、彼の一つ一つの言動が私に愛を伝えていた。


妖精さん達がいなければきっと私は、彼が自分のことを心底憎んでいると勘違いしていたはずだ。

以前のことを簡単になかったことにできる程私の心は広くない。


だけど、それでも、彼は失われた私の信頼を取り戻そうと努力してくれている。


その事実が、私の心を慰める。



「カティ、愛してる」

「…私もグレン兄様のこと、好きです」


素直に愛を語れるほど、純粋な気持ちではなかった。


だけど、私は芽生え始めたばかりの温かい気持ちを、彼と共にゆっくり育てていきたい。


気が付くとグレン兄様は静かに涙を流していて、そんな彼が少しだけ愛しかった。



「案外、泣き虫ですよね」


私がそう言うと彼はズズっと鼻をすすって必死に涙をこらえる。


「慰めてあげましょうか?」


きょとんとする彼をぎゅっと抱きしめ、その広い背を優しく叩いてやる。

グレン兄様の体に少し力が入って、どこか落ち着かない気配を感じた。


…なんだか、可愛いかもしれない。



「カティ、ちょっと…これは…」

「嫌なんですか?」



「幸せすぎて…死にそうになる」

「死んではダメですよ?」


一層むぎゅむぎゅしていると、苦しそうな呻き声が聞こえる。

そこまで強い力はこめていないから、どうやら精神的なもののようだ。


しかたない、そろそろ解放してあげることにする。



「顔が真っ赤ですよ」

「…しかたないだろう」


グレン兄様は相手からこられると弱いのかもしれない。良い事を知った。



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