兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

文字の大きさ
52 / 56

さようなら

しおりを挟む


学園の卒業式は粛々と執り行われた。

思えばこの学園での三年間、いろんな事があり、私の環境も随分と様変わりしてしまった。


つらいことも多かったけれど


それでもやはり、この学園で得たものは私にとってかけがえのないものも多い。



「カティ、卒業おめでとう」

校門の前でぼんやりと物思いにふけっていると、そんな優しい声が聞こえた。

振り返ると、少したれ目がちな瞳をいっそう垂らして、優しい笑みを浮かべたユーリが立っている。

それはどこか儚げで、しかし何か決心がついたような、そんなさっぱりとした笑顔だった。


「ユーリも、おめでとう」

「式が終わったらさっさと帰っちゃうんだもん。もう少し余韻とかないの~?」


「しんみりしちゃいそうだったから」


口元に苦々しい笑みを浮かべてそう言うと、ユーリは少し困ったように眉を下げた。


「それでも、最後の挨拶くらいさせてよ」

「ごめんなさい…」


改めて考えると自分は酷く薄情なことをしてしまっていると思った。

ユーリにグレン兄様とのことを伝えて以来、私たちの間に微かな気まずさがあったことは確かだけど、それを理由に素知らぬ顔で彼の前から姿を消すなんて到底許し難い行為だ。



「カワイティル、行っちゃうんでしょ?」

「…うん」


「はぁ、社交界でもなかなか会えなくなるのに、ちょっと冷たいんじゃないの~?」

「そうね、最低だったわ」


素直に謝罪の言葉を述べると、彼は一瞬だけ泣きそうな表情を浮かべて、そっと口を開いた。



「これで本当にさよならなんだから、最後くらい話をさせてよ」


震えるくらい切ない声が胸に響く。

私は黙ってこくりと頷いた。


「カティが初めてだったんだ。誰かといて幸せだって思ったのも、ずっと一緒にいたいと思ったのも。カティは僕にとってすごく大切な人。僕の大切な友達」

「うん、私も。ユーリは初めてできた私の友達よ。ユーリのおかげで私は自分やグレン兄様とちゃんと向き合えたの。ユーリが私を大切にしてくれたから、私も自分の置かれた境遇を諦めずにいられたの」

ユーリが幸せを教えてくれたから、私は欲張りになることができた。

大切な友達も、誰からも疎まれ傷つけられることの無い人生も…愛しい人も。

全部全部諦めきれない私を作ってくれたのは、間違いなくユーリだった。


「ユーリのおかげで、私は今幸せよ」

そのヘーゼルの瞳をじっと見つめてそう言った。

私の気持ちは、ちゃんと伝わっただろうか。


「そっか、幸せなんだね…カティ、君は本当に、たくさん頑張ったんだね。僕はカティのことを誇りに思う。僕のこれからの幸せも全部全部カティにあげたいくらいだ…」

「…バカ。ユーリの幸せなんていらない。これから先、あなたに会うことなんてほとんどないと思う。だけど、いつかあなたが幸せになったところをこの目で見ることができたら、私はそれだけできっとすごく幸せな気持ちになるわ」

ユーリの想いを受け取ることができなかった私がこんなことを言う資格はないけれど…


誰よりも優しいユーリには、誰よりも幸せな未来を歩んで欲しかった。



「なら僕と一緒だ。しかたないから…僕だってカティに負けないくらい幸せになっちゃうよ?僕とカティで勝負だね~」

「ええ、負けないわ」


悪戯っぽく口角を上げるユーリに対抗するように意地悪な笑みをはりつける。



「…私、ユーリに出会えてよかった」


ぽろりと一筋の涙が頬を流れ落ちた。



瞳から感情が零れてしまったような、そんな自然な涙だった。



「泣くほど思い入れのある僕のこと振っちゃって後で後悔しても知らないよ~?」

「ふふっ、後悔しないように頑張るわ」




「カティ、今までありがとう」

「こちらこそ、あなたには本当に感謝してる。ありがとうユーリ」


自然と差し出された手にそっと右手を重ねる。

最初で最後の握手だった。


なんだか照れくさかったけれど、ユーリの温かい手からたくさんのパワーをもらった気がして嬉しかった。



「さようなら、僕の初恋の人」

「…ええ、またね、私の大切な友達」



もう一度だけ微笑みあって、私達は背を向けて歩き出すのだった。



ユーリの人生に少しでも多くの幸福が降り注ぎますように。


しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

処理中です...