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さようなら
しおりを挟む学園の卒業式は粛々と執り行われた。
思えばこの学園での三年間、いろんな事があり、私の環境も随分と様変わりしてしまった。
つらいことも多かったけれど
それでもやはり、この学園で得たものは私にとってかけがえのないものも多い。
「カティ、卒業おめでとう」
校門の前でぼんやりと物思いにふけっていると、そんな優しい声が聞こえた。
振り返ると、少したれ目がちな瞳をいっそう垂らして、優しい笑みを浮かべたユーリが立っている。
それはどこか儚げで、しかし何か決心がついたような、そんなさっぱりとした笑顔だった。
「ユーリも、おめでとう」
「式が終わったらさっさと帰っちゃうんだもん。もう少し余韻とかないの~?」
「しんみりしちゃいそうだったから」
口元に苦々しい笑みを浮かべてそう言うと、ユーリは少し困ったように眉を下げた。
「それでも、最後の挨拶くらいさせてよ」
「ごめんなさい…」
改めて考えると自分は酷く薄情なことをしてしまっていると思った。
ユーリにグレン兄様とのことを伝えて以来、私たちの間に微かな気まずさがあったことは確かだけど、それを理由に素知らぬ顔で彼の前から姿を消すなんて到底許し難い行為だ。
「カワイティル、行っちゃうんでしょ?」
「…うん」
「はぁ、社交界でもなかなか会えなくなるのに、ちょっと冷たいんじゃないの~?」
「そうね、最低だったわ」
素直に謝罪の言葉を述べると、彼は一瞬だけ泣きそうな表情を浮かべて、そっと口を開いた。
「これで本当にさよならなんだから、最後くらい話をさせてよ」
震えるくらい切ない声が胸に響く。
私は黙ってこくりと頷いた。
「カティが初めてだったんだ。誰かといて幸せだって思ったのも、ずっと一緒にいたいと思ったのも。カティは僕にとってすごく大切な人。僕の大切な友達」
「うん、私も。ユーリは初めてできた私の友達よ。ユーリのおかげで私は自分やグレン兄様とちゃんと向き合えたの。ユーリが私を大切にしてくれたから、私も自分の置かれた境遇を諦めずにいられたの」
ユーリが幸せを教えてくれたから、私は欲張りになることができた。
大切な友達も、誰からも疎まれ傷つけられることの無い人生も…愛しい人も。
全部全部諦めきれない私を作ってくれたのは、間違いなくユーリだった。
「ユーリのおかげで、私は今幸せよ」
そのヘーゼルの瞳をじっと見つめてそう言った。
私の気持ちは、ちゃんと伝わっただろうか。
「そっか、幸せなんだね…カティ、君は本当に、たくさん頑張ったんだね。僕はカティのことを誇りに思う。僕のこれからの幸せも全部全部カティにあげたいくらいだ…」
「…バカ。ユーリの幸せなんていらない。これから先、あなたに会うことなんてほとんどないと思う。だけど、いつかあなたが幸せになったところをこの目で見ることができたら、私はそれだけできっとすごく幸せな気持ちになるわ」
ユーリの想いを受け取ることができなかった私がこんなことを言う資格はないけれど…
誰よりも優しいユーリには、誰よりも幸せな未来を歩んで欲しかった。
「なら僕と一緒だ。しかたないから…僕だってカティに負けないくらい幸せになっちゃうよ?僕とカティで勝負だね~」
「ええ、負けないわ」
悪戯っぽく口角を上げるユーリに対抗するように意地悪な笑みをはりつける。
「…私、ユーリに出会えてよかった」
ぽろりと一筋の涙が頬を流れ落ちた。
瞳から感情が零れてしまったような、そんな自然な涙だった。
「泣くほど思い入れのある僕のこと振っちゃって後で後悔しても知らないよ~?」
「ふふっ、後悔しないように頑張るわ」
「カティ、今までありがとう」
「こちらこそ、あなたには本当に感謝してる。ありがとうユーリ」
自然と差し出された手にそっと右手を重ねる。
最初で最後の握手だった。
なんだか照れくさかったけれど、ユーリの温かい手からたくさんのパワーをもらった気がして嬉しかった。
「さようなら、僕の初恋の人」
「…ええ、またね、私の大切な友達」
もう一度だけ微笑みあって、私達は背を向けて歩き出すのだった。
ユーリの人生に少しでも多くの幸福が降り注ぎますように。
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