53 / 56
嫁入り
しおりを挟む学園を後にした私は着の身着のまま、グレン兄様の待つカワイティルに馬車を走らせた。
やっと卒業したと思ったら、なんだかどっと疲れてうとうとしてしまう。
いつの間にか眠っていた私が次に目を覚ました時には、馬車はもうカワイティル領に入っていた。
「なんだか、来る度自然豊かになってない?」
車窓から見た景色は、初めて来た時なんかとは比べ物にならない程豊かになっていて
それはきっと兄の努力も大きいが、明らかに以前のカワイティルでは決して育つことの無いような植物や、湧き水なんかも湧いてしまっている。
(カティ~僕らいっぱいサービスした~)
(カティが嫁ぐとこなんだから当然ねっ!)
(もう心配いらないの~)
ふわふわと頭上を飛び回る妖精さん達の声が聞こえて苦笑を浮かべてしまう。
本当に、私に甘いんだから。
(ありがとう、みんな)
これでグレン兄様も少しは楽になるかもしれない。
もちろん、この土地を任されたことはグレン兄様の過去の行いに対する罰のようなものでもあったが、彼はもう十二分に大変な思いをしていたので少しくらいズルしたっていいんじゃないかな。
…なんて、私も大概甘いのかも。
そうしてリシャール侯爵邸にたどり着くと、馬車はゆっくりと止まった。
「カティ、おかえり」
「グレン兄様…外で待っててくれたんですか?」
「ああ、早くお前の顔を見たかった」
熱に浮かされたような甘い表情でそんなことを言う兄様にこちらの方が照れてしまう。
…顔が熱い。
私の手をとると、彼はスマートに屋敷の中にエスコートしてくれる。
「…本当に来てくれたんだな」
リビングのソファに対面するように腰をかけた私達。
先に口を開いたのはグレン兄様だった。
「どういう意味ですか?」
「カティが俺を選んでくれたことが未だに信じられない…」
「この後に及んでまだそんなうじうじしたこと言ってるんですか!?」
この男は、本当に…
「いや、悪い、カティのこと信じてないわけじゃないんだ」
「もうっ、私はちゃんとグレン兄様のことを愛して、一緒になりたいと思ってここにやって来たんですよ?」
「幸せすぎて、怖いくらいだ」
瞳をうるませてそう言うグレン兄様は、私を見つめ蕩けるような笑みを浮かべる。
「カティ、左手出して」
「…?どうぞ」
大人しく手を差し出すと、グレン兄様がポケットから光るものを取り出し、すっと私の指に通す。
…指輪だ。
シンプルなシルバーのリングに、小さくとも質の良いダイヤモンドが数粒散らしてある可愛らしいものだった。
「…幸せにするから、結婚してくれ」
「ふふっ、何回求婚するんですか」
「こういうのはちゃんと、それなりの準備が整ってからすべきだったんだ。…それで、返事は?」
ぎゅっと眉間に皺を寄せて、強ばった表情で尋ねてくる彼。
「喜んで、以外の答えがあるとでも?」
「っ、ああ、無いな」
グレン兄様は立ち上がってこちらのソファに移動すると、横からぎゅっと私を抱き寄せる。
心地よくてその胸に額を擦り付けると驚いた様に小さく震える気配を感じた。
「カティ…」
「はい…んっ」
名前を呼ばれ顔を上げると、スっとグレン兄様の綺麗な顔が近づき、その形のいい唇が私のものと重なる。
久しぶりのキスは本当に一瞬の出来事だったが、触れられた熱がじわじわといつまでも残っているように感じた。
「カティが世界で一番大切だ」
「…っ、ありがとう、ございます」
「顔が赤いな」
「いちいちそんなことを言わないでください!」
彼は嬉しそうな笑い声をもらしていた。
…なんだか、グレン兄様が幸せそうならどうでも良くなってしまうから不思議だ。
「カワイティルは貧しくて民も皆神を信仰する習慣なんてなかったんだが」
突然そんなことを言い出す彼に、不思議に思って首を傾げる。
「…?はい」
国民のほとんどが宗教を重んじるこの国では珍しいことだが、それ程この場所に余裕がなかったということが窺える。
「カティが俺を受け入れてくれた時、俺はまず教会をつくったんだ」
「教会、ですか?」
「ああ…結婚式を、挙げてみたかった」
「っ…!?」
えっと、乙女なんですか?グレン兄様。
照れたようにそっぽを向く彼。
最近グレン兄様を可愛いと思うことが増えたような気がする。
過去の私達からすると嘘みたいな話だ。
それがなんだか互いのことをちゃんと理解し始めているようで嬉しい。
「結婚式、挙げましょう…できないかなって思ってたので私も嬉しいです。ありがとうございます、グレン兄様」
「…喜んでくれて良かった」
彼はにっこりと瞳を細めて私を見つめていた。
「その、そろそろグレン兄様はやめてほしいんだが」
「え?」
「俺はもうカティの兄じゃない…結婚したら夫になるんだぞ」
そんな言葉に少しだけ恥ずかしくなってしまう。
確かに、いつまでもグレン兄様だなんて、あんまり良い呼び方じゃない。
「…ぐ、グレン、様?」
「っ、ああ…様は別にいらないけどな」
「さすがにそれは…勇気がいりますから」
お互いぽぽぽっと頬を染めてもじもじしてしまった。
自分で呼ばせたくせにどうしてあなたまで照れてるんですか…
「俺がカティを、誰よりも幸せな花嫁にする」
「もう私は幸せですよ…?」
返事を返すとグレン兄様は泣きそうな笑顔を浮かべてもう一度強く私を抱きしめるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる