兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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嫁入り

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学園を後にした私は着の身着のまま、グレン兄様の待つカワイティルに馬車を走らせた。


やっと卒業したと思ったら、なんだかどっと疲れてうとうとしてしまう。


いつの間にか眠っていた私が次に目を覚ました時には、馬車はもうカワイティル領に入っていた。


「なんだか、来る度自然豊かになってない?」


車窓から見た景色は、初めて来た時なんかとは比べ物にならない程豊かになっていて

それはきっと兄の努力も大きいが、明らかに以前のカワイティルでは決して育つことの無いような植物や、湧き水なんかも湧いてしまっている。



(カティ~僕らいっぱいサービスした~)

(カティが嫁ぐとこなんだから当然ねっ!)

(もう心配いらないの~)


ふわふわと頭上を飛び回る妖精さん達の声が聞こえて苦笑を浮かべてしまう。



本当に、私に甘いんだから。



(ありがとう、みんな)


これでグレン兄様も少しは楽になるかもしれない。

もちろん、この土地を任されたことはグレン兄様の過去の行いに対する罰のようなものでもあったが、彼はもう十二分に大変な思いをしていたので少しくらいズルしたっていいんじゃないかな。


…なんて、私も大概甘いのかも。



そうしてリシャール侯爵邸にたどり着くと、馬車はゆっくりと止まった。



「カティ、おかえり」

「グレン兄様…外で待っててくれたんですか?」


「ああ、早くお前の顔を見たかった」



熱に浮かされたような甘い表情でそんなことを言う兄様にこちらの方が照れてしまう。

…顔が熱い。


私の手をとると、彼はスマートに屋敷の中にエスコートしてくれる。



「…本当に来てくれたんだな」


リビングのソファに対面するように腰をかけた私達。

先に口を開いたのはグレン兄様だった。



「どういう意味ですか?」

「カティが俺を選んでくれたことが未だに信じられない…」


「この後に及んでまだそんなうじうじしたこと言ってるんですか!?」


この男は、本当に…



「いや、悪い、カティのこと信じてないわけじゃないんだ」

「もうっ、私はちゃんとグレン兄様のことを愛して、一緒になりたいと思ってここにやって来たんですよ?」


「幸せすぎて、怖いくらいだ」


瞳をうるませてそう言うグレン兄様は、私を見つめ蕩けるような笑みを浮かべる。



「カティ、左手出して」

「…?どうぞ」


大人しく手を差し出すと、グレン兄様がポケットから光るものを取り出し、すっと私の指に通す。


…指輪だ。

シンプルなシルバーのリングに、小さくとも質の良いダイヤモンドが数粒散らしてある可愛らしいものだった。



「…幸せにするから、結婚してくれ」

「ふふっ、何回求婚するんですか」


「こういうのはちゃんと、それなりの準備が整ってからすべきだったんだ。…それで、返事は?」


ぎゅっと眉間に皺を寄せて、強ばった表情で尋ねてくる彼。



「喜んで、以外の答えがあるとでも?」

「っ、ああ、無いな」


グレン兄様は立ち上がってこちらのソファに移動すると、横からぎゅっと私を抱き寄せる。


心地よくてその胸に額を擦り付けると驚いた様に小さく震える気配を感じた。



「カティ…」

「はい…んっ」


名前を呼ばれ顔を上げると、スっとグレン兄様の綺麗な顔が近づき、その形のいい唇が私のものと重なる。

久しぶりのキスは本当に一瞬の出来事だったが、触れられた熱がじわじわといつまでも残っているように感じた。


「カティが世界で一番大切だ」

「…っ、ありがとう、ございます」


「顔が赤いな」

「いちいちそんなことを言わないでください!」


彼は嬉しそうな笑い声をもらしていた。


…なんだか、グレン兄様が幸せそうならどうでも良くなってしまうから不思議だ。



「カワイティルは貧しくて民も皆神を信仰する習慣なんてなかったんだが」

突然そんなことを言い出す彼に、不思議に思って首を傾げる。


「…?はい」


国民のほとんどが宗教を重んじるこの国では珍しいことだが、それ程この場所に余裕がなかったということが窺える。



「カティが俺を受け入れてくれた時、俺はまず教会をつくったんだ」

「教会、ですか?」


「ああ…結婚式を、挙げてみたかった」

「っ…!?」


えっと、乙女なんですか?グレン兄様。

照れたようにそっぽを向く彼。


最近グレン兄様を可愛いと思うことが増えたような気がする。

過去の私達からすると嘘みたいな話だ。


それがなんだか互いのことをちゃんと理解し始めているようで嬉しい。



「結婚式、挙げましょう…できないかなって思ってたので私も嬉しいです。ありがとうございます、グレン兄様」

「…喜んでくれて良かった」


彼はにっこりと瞳を細めて私を見つめていた。



「その、そろそろグレン兄様はやめてほしいんだが」

「え?」


「俺はもうカティの兄じゃない…結婚したら夫になるんだぞ」


そんな言葉に少しだけ恥ずかしくなってしまう。


確かに、いつまでもグレン兄様だなんて、あんまり良い呼び方じゃない。



「…ぐ、グレン、様?」

「っ、ああ…様は別にいらないけどな」


「さすがにそれは…勇気がいりますから」


お互いぽぽぽっと頬を染めてもじもじしてしまった。

自分で呼ばせたくせにどうしてあなたまで照れてるんですか…



「俺がカティを、誰よりも幸せな花嫁にする」

「もう私は幸せですよ…?」


返事を返すとグレン兄様は泣きそうな笑顔を浮かべてもう一度強く私を抱きしめるのだった。


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