11 / 73
一章 異世界転生(人生途中から)
11 治療魔法師試験の実習
しおりを挟む
治療魔法師の国家試験は筆記と実習の両方をパスしなければならない。
私は先日筆記試験の合格通知をもらい、今日からはここハールズデンの市立病院での3カ月間の実習が始まる。そこで指導医から合格を貰えば晴れて魔法治療師となれるが、落ちた場合は学校もしくは見習い先の病院で1年間学び直しとなる。
私はハリス先生から必ず受かってくるようにと厳命されているので受かるしかない。
(よしっ、頑張ろう!)
バスに乗って初めてきたその病院はやはり大学病院だけあって大きかった。外観は日本で例えると明治時代あたりに建てられたようなモダンな感じだ。さらに具体的に例えるならテレビで見た神戸大学のキャンパスに似ている。
私は緊張が少し緩んで、院内をキョロキョロしながらたどり着いた魔法診療科の医局の扉を叩いた。
「おはようございます。実習で来ましたナオ・キクチです。よろしくお願いします」
この見た目でジルタニア風ではない名前はややこしいので普段はナオで通しているが、ここではきちんとナオ・キクチと名乗る。どうせ名前はもう把握されているのだから隠しようもない。
医局は普通の会社のように机が並んでいて(ただし机はもちろん木製)医師が5人座っていた。その中の一人が立ち上がり私を迎えてくれた。
「やぁ、実習生くんだね。今年はウチの医局に3人入ってくるからちょっと待ってね__っと来たようだね」
振り返ると同年代の男女2人が入ってくるところだった。
「君たちも実習生だね。それでは改めまして。君たちの指導医になるジル・ハーヴィーだ。よろしくね」
黒髪が艶やかなアラフォーくらいの美人だ。
「君たち3人はこれから3カ月の実習を共にする仲間だ。軽く自己紹介でもして打ち解けるといい」
促され誰から話し始めるかの攻防が目線で交わされたので、ここは1番の年長者(精神的に)が行くべきだろうと私が手を挙げた。
「ナオ・キクチです。学校には行っていなくてこの街の診療所で見習いをしながら受験しました。事故か何かにあったみたいで去年の春より前の記憶がありません。よろしくお願いします」
出自や年齢さえ聞かれても答えられないので、あらかじめ伝えておくことにした。しかしそのせいでその場の空気はアイスブレイクどころか南極レベルに凍ってしまった。
「いや、よろしくって。大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。日常生活は大抵問題ないわ」
「おっおう。まぁ、なんだ。お大事に? ……そうだ自己紹介。俺はジェイミー・マティック。スミートンズ医大の魔法診療学科から来ました」
スミートンズというのはここロドス州の最南にある街だったはず。ジルタニア全土は覚えていないが、ロドス州とその周辺の地理にはだいぶ詳しくなった。
栗色の髪をバシッとキメた少し派手な印象を受ける青年だ。
やっぱりみんな医大出身なのかなぁ、なんて私は思いながら最後の1人を見た。
「私はミシェル・トンプソンです。地元もここでハールズデン医大から来ました」
プラチナブロンドの儚かわいい系の女子もやっぱり医大から来ていた。診療所の見習いの自分は果たして実習をクリアできるのか__
「まず今週は私と一緒に外来に入って見学。来週からは救急外来で実際に治療にあたってもらいます」
(救急!?)
驚いたのは私だけだったようだ。他の2人を見ると表情を変えず頷いているだけだった。
どうやら知らなかったのは私だけらしい。
(そりゃそうよね。学校で実習の内容も聞いてるはず。なんでハリス先生は教えてくれなかったんだろ)
昨日私は先生に『実習では何をするのか』と聞いたのだけど、『まぁここでの診療とそう変わりませんよ』と言うだけで詳細を教えてくれなかった。
先生も治療魔法師になる時は実習をしたはず……。もしかして今はどうやっているのか知らなかったから教えられなかったとか?
まぁ考えてもいまさらだ。
こうして3カ月の実習生活が始まった。
私は先日筆記試験の合格通知をもらい、今日からはここハールズデンの市立病院での3カ月間の実習が始まる。そこで指導医から合格を貰えば晴れて魔法治療師となれるが、落ちた場合は学校もしくは見習い先の病院で1年間学び直しとなる。
私はハリス先生から必ず受かってくるようにと厳命されているので受かるしかない。
(よしっ、頑張ろう!)
バスに乗って初めてきたその病院はやはり大学病院だけあって大きかった。外観は日本で例えると明治時代あたりに建てられたようなモダンな感じだ。さらに具体的に例えるならテレビで見た神戸大学のキャンパスに似ている。
私は緊張が少し緩んで、院内をキョロキョロしながらたどり着いた魔法診療科の医局の扉を叩いた。
「おはようございます。実習で来ましたナオ・キクチです。よろしくお願いします」
この見た目でジルタニア風ではない名前はややこしいので普段はナオで通しているが、ここではきちんとナオ・キクチと名乗る。どうせ名前はもう把握されているのだから隠しようもない。
医局は普通の会社のように机が並んでいて(ただし机はもちろん木製)医師が5人座っていた。その中の一人が立ち上がり私を迎えてくれた。
「やぁ、実習生くんだね。今年はウチの医局に3人入ってくるからちょっと待ってね__っと来たようだね」
振り返ると同年代の男女2人が入ってくるところだった。
「君たちも実習生だね。それでは改めまして。君たちの指導医になるジル・ハーヴィーだ。よろしくね」
黒髪が艶やかなアラフォーくらいの美人だ。
「君たち3人はこれから3カ月の実習を共にする仲間だ。軽く自己紹介でもして打ち解けるといい」
促され誰から話し始めるかの攻防が目線で交わされたので、ここは1番の年長者(精神的に)が行くべきだろうと私が手を挙げた。
「ナオ・キクチです。学校には行っていなくてこの街の診療所で見習いをしながら受験しました。事故か何かにあったみたいで去年の春より前の記憶がありません。よろしくお願いします」
出自や年齢さえ聞かれても答えられないので、あらかじめ伝えておくことにした。しかしそのせいでその場の空気はアイスブレイクどころか南極レベルに凍ってしまった。
「いや、よろしくって。大丈夫なのかよ?」
「大丈夫。日常生活は大抵問題ないわ」
「おっおう。まぁ、なんだ。お大事に? ……そうだ自己紹介。俺はジェイミー・マティック。スミートンズ医大の魔法診療学科から来ました」
スミートンズというのはここロドス州の最南にある街だったはず。ジルタニア全土は覚えていないが、ロドス州とその周辺の地理にはだいぶ詳しくなった。
栗色の髪をバシッとキメた少し派手な印象を受ける青年だ。
やっぱりみんな医大出身なのかなぁ、なんて私は思いながら最後の1人を見た。
「私はミシェル・トンプソンです。地元もここでハールズデン医大から来ました」
プラチナブロンドの儚かわいい系の女子もやっぱり医大から来ていた。診療所の見習いの自分は果たして実習をクリアできるのか__
「まず今週は私と一緒に外来に入って見学。来週からは救急外来で実際に治療にあたってもらいます」
(救急!?)
驚いたのは私だけだったようだ。他の2人を見ると表情を変えず頷いているだけだった。
どうやら知らなかったのは私だけらしい。
(そりゃそうよね。学校で実習の内容も聞いてるはず。なんでハリス先生は教えてくれなかったんだろ)
昨日私は先生に『実習では何をするのか』と聞いたのだけど、『まぁここでの診療とそう変わりませんよ』と言うだけで詳細を教えてくれなかった。
先生も治療魔法師になる時は実習をしたはず……。もしかして今はどうやっているのか知らなかったから教えられなかったとか?
まぁ考えてもいまさらだ。
こうして3カ月の実習生活が始まった。
10
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる