その悪役令嬢はなぜ死んだのか

キシバマユ

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一章 異世界転生(人生途中から)

25 出国

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 土手の下で17人の治療をした私は魔力切れでそのままぶっ倒れた。
 当たり前だ。重体、重傷患者を40人以上治療したのだ。ぶっちぎり自己最高記録だった。
 根性で最後まで治療をやり切りぶっ倒れた私は、あの場にいた看護師さんの付き添いでタクシーに乗せられ、あの場所から少し離れた街のホテルに運ばれた、らしい。私は気がつけばベッドの上で、念のため部屋の椅子に座って私が起きるのを待っていてくれた看護師さんに聞いた話だ。
 そして今はまだ怠さの残る体で一人ベッドの上でぼんやりしている。

 (さて、どうやってウィルド・ダムに行こう。列車は使えなくなっちゃったし)

 徒歩、はありえない。となればバスを乗り継いで行くしかないだろう。
 あぁでも……

 (疲れた。眠すぎる。とりあえず今日は寝よう)

 私は夕食も食べず着替えもせず__そもそも着替えは列車に置き去りだ。身につけていた貴重品しか持ち出せなかった__ひたすら眠り続けた。



 目が覚めたのはまだ朝の早い時間だった。
 前日の疲れが残っている感じはない。これが若さか、としみじみ思う。
 しかしさすがにお腹は減った。

 (この宿って朝食付き? ないんだったらどこかで買えるのかしら?)

 そもそもホテル代は自腹だろうか。そこもちょっと気になるところだ。
 私は部屋を出て階段を下りた。1階は受付と食堂になっていて、私がキョロキョロしていると人がちょうどキッチンから出てきた。

 「おはようございます。あの、ここって朝食出ますか?」
 「出せますよ! 列車事故に遭われたお客さんですよね? その方たちは鉄道会社から宿泊費や食費が出るらしいですよ。大変でしたね。どうぞどうぞ食べて行ってください!」

 宿の店主だろうか。気の良さそうな話しやすいおじさんだったので、私はウィルド・ダムまでの行き方を聞くことにした。

 「それなら国境検問所行きの長距離バスが週に何回か通って、確か今日も便がありますよ! 時間は7時過ぎのはずだから……あぁっ、もう出る準備をした方がいいですね!」

 この人に聞いて正解だった。

 (あんまりここに長居しないほうがいいわよね。あの事故で私は目立ちすぎたし。新聞にでも載ろうものなら、また以前の私を知ってる人が現れて厄介なことになりかねない。早くこの街を出よう……)

 私はお礼を言って部屋に戻り、ベッドを整えてわずかな手荷物をまとめ再び1階に戻った。

 「ありがとうございました。部屋の鍵ここに置いておきます!」

 先ほどのおじさんは奥のキッチンにいるようだったので声だけかけて出ようとした時、

 「これ、どっかで食べて!」

 おじさんが包みを持ってキッチンから出てきた。

 「パンとかサンドウィッチとかを入れておきました。今あるものでちゃちゃっと作ったやつだから大したものじゃないですが」
 「そんなっわざわざありがとうございます!」

 お辞儀の文化はないからぎゅっとハグして気持ちを伝えた。

 「このお代もレイルウェイズ社に請求するからお気になさらず。では良い旅を!」



 私は長距離バスに乗り再びウィルド・ダムを目指した。
 バスは森を抜け、何もない砂地を走り、度々休憩と乗客の乗降車のため道路沿いにある街で止まった。私はバゲットを海が見えるベンチで食べ、サンドウィッチは街を見下ろす高台で食べた。
 そうしてバスは走り続け、35時間後に国境検問所へ着いた。
 何もない灰色の箱のような検問所に入るとすぐに入国審査のカウンターが2つ見えた。
 右側にいるのは熊だった。獣人だろう。頭部は動物そのままで、カウンターから見える体は体格のいい人のようで服を着て座っている。
 左側はウサギの獣人のようだ。その人の方は前に一緒に本屋を探したオオカミの獣人みたいに人の姿に近い。

 (どっ、どっちに並ぶべき!?)

 入国審査を待っている人自体少ないが、見た感じ熊の人の方に並んでいる人数の方がちょっとだけ少なく見えた。

 (気持ちは分かる。だってちょっと怖い……)

 初めて見る動物に近い獣人。獣人は全員があの『オオカミの人』みたいな姿じゃないことも知らなかった。
 けれど私はこれからこの国で暮らすんだ。だったら熊だから怖いなんて言っていられない。
 私は右側に並んだ。
 すぐに自分の番は回ってきた。ここの入国審査、思ったより早い。

 「旅券」

 出せということだろうか?
 私はそう理解して旅券を出した。
 審査官は受け取って、パラパラっと中を検めて『次』と言いながらすぐに旅券を返した。
 私はそれをしまって先に進んだ。

 (入国、できた……?)

 てっきり旅の目的は? とか滞在日数は? とか聞かれると思っていたのに拍子抜けだ。
 私はそのまま国境検問所の扉を出てウィルド・ダムの地を踏んだ。
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