10 / 12
第10話 彼女を辞めた私を、元カレが珍しそうに見てきます
しおりを挟む暖かくて柔らかい何かに触れて夢乃は目を覚ました。明るい日差しがカーテンの隙間から差し込んでいて、彼女の目の前にあるものを浮かび上がらせる。
整った顔。
いつもはビシッと決めてる前髪が柔らかく波打って朝日にキラキラしてる。
——鷹田……さんっ!?
別々に寝てたはずなのに!
と思って飛び起きると、夢乃が寝ているソファにもたれるようにして鷹田が眠っていた。
「顔が近い……鷹田さん、起きて! なんでここで寝てるんですか?」
「ん……あ、夢乃……おはよう」
「おはようございます——じゃない! ベッドで寝てくださいっ」
「……」
夢乃のそばで寝ると良く眠れる、と言いたい鷹田であるが甘えているみたいで言えない。それに昨夜飲んだ薬のせいか頭がぼうっとしていた。
「ほらほらどいてください。まずは洗濯しますよ!」
——夢乃ってこんなに威勢が良かったっけ?
そんな見たことない彼女もかわいい、と思いながら鷹田は床に散らばっていた脱ぎ捨てたワイシャツや部屋着を洗濯機へ運ぶ。
夢乃は手際良く洗剤と柔軟剤を入れるとスイッチを入れた。この洗濯機の注水の音も久しぶりだ。
「洗濯してる間に、朝ごはん食べましょう」
「……うん」
「どうしました?」
「いや、なんか新鮮だなって」
「なにが?」
——夢乃にリードされるのが。
って言ったらすごく複雑な顔されそうだから、鷹田はグッとこらえて「別に」とだけ答える。
「?」
夢乃が不思議そうな顔をするが、すぐに気を取り直してキッチンへ向かって行く。
昨夜の買い出しで冷蔵庫の中は充実している。
——朝はトースト派だったよね。
夢乃はつい鷹田の好みを思い浮かべてハッとする。
——違う違う! 私が食べたいの!
こんがり焼いたトーストとカリカリのベーコンと黄色が鮮やかな目玉焼き。真っ赤なトマトをサッと切って添える。
買い置きの珈琲豆をガリガリと挽くと懐かしい香りがした。フィルターをセットしてドリップすると濃い琥珀色の雫が落ちる。集まった雫が黒く香り豊かな珈琲になる。
「ほら、鷹田さんも運んで」
「え? あ、うん」
夢乃の料理姿に見惚れていた鷹田は慌ててトレーに乗せられた朝食を運んでいく。しかし夢乃は「なんか見張られてるな」くらいにしか思っていない。
「いただきます」
夢乃がちら、と鷹田を見るとゆっくりとトーストを口に運んでいる。昨夜は雑炊を食べていたから、急に食べても胃が驚くことはないだろう。
——うん、今日は全然胃に優しくないメニューだったな。ま、いいか。
鷹田の胃の心配したくせに、次の瞬間には自分を誤魔化す夢乃である。一方の鷹田はフィルターでもかかっているのか、夢乃の食事姿すら輝いて見える。
——あ、ジャム塗ってる。なんて愛らしい……。
目の前の夢乃を堪能しようとしていると、その妄想を破るように夢乃が口を開いた。
「食べ終わったら部屋の掃除してください。私は食器の片付けをします。そのあと作り置きを作っておきます」
「あ、洗濯物は自分で片付けて」と付け加えられて「うん」と返事をしたものの、今までの夢乃との違いに内心驚愕する。
今までの彼女はせっせと鷹田の身の回りのことをしてくれていたのだ。だから週末に遊びに来れば部屋を片付けてくれたし、手料理も当たり前に作ってくれていた。
——もしかして、俺、甘えてた?
それとも自分が夢乃のことをよく見てなかったのか?
あんなにいつも一緒にいたのに、こんなにしっかりとした夢乃を見たのは初めてのような気がした。
目が覚めるような清々しさ。
鷹田は夢乃を愛おしそうに見つめた。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】あなたの『番』は埋葬されました。
月白ヤトヒコ
恋愛
道を歩いていたら、いきなり見知らぬ男にぐいっと強く腕を掴まれました。
「ああ、漸く見付けた。愛しい俺の番」
なにやら、どこぞの物語のようなことをのたまっています。正気で言っているのでしょうか?
「はあ? 勘違いではありませんか? 気のせいとか」
そうでなければ――――
「違うっ!? 俺が番を間違うワケがない! 君から漂って来るいい匂いがその証拠だっ!」
男は、わたしの言葉を強く否定します。
「匂い、ですか……それこそ、勘違いでは? ほら、誰かからの移り香という可能性もあります」
否定はしたのですが、男はわたしのことを『番』だと言って聞きません。
「番という素晴らしい存在を感知できない憐れな種族。しかし、俺の番となったからには、そのような憐れさとは無縁だ。これから、たっぷり愛し合おう」
「お断りします」
この男の愛など、わたしは必要としていません。
そう断っても、彼は聞いてくれません。
だから――――実験を、してみることにしました。
一月後。もう一度彼と会うと、彼はわたしのことを『番』だとは認識していないようでした。
「貴様っ、俺の番であることを偽っていたのかっ!?」
そう怒声を上げる彼へ、わたしは告げました。
「あなたの『番』は埋葬されました」、と。
設定はふわっと。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる