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第二話:雑貨屋エレール

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 そして二年後……



「アレン、やっと起きましたね。朝食できているから早く食べてくださいね」



「あぁ」



 真っ直ぐに伸びた長く淡い青色の髪で、見た目では二十代後半に見え、透明感がある絶世の美女がそう言うと、リビングに向かうアレンとすれ違うようにアレンの部屋に入っていく。



「もぅ、アレン。またシャツ脱ぎっぱなしで床に置いて! あー、昨日着ていたズボンも! いつもちゃんとまとめて籠に入れていてくださいって言っているでしょ」



 女性はぶつぶつと小言を言いながら、手慣れたように部屋に散らばった衣類をまとめている。ついでに読みっぱなしにしている本なども棚に並べていく。



「ディーネ。母親じゃあるまいし、いちいちそんなことしなくていいよ」



「駄目です! 只でさえ湿気が多いのですからすぐカビが生えてしまいますよ。それにアレンは放っておくとすぐ家をゴミ屋敷にするじゃないですか」



「あーはい、はい。勝手にやっちゃってください」



 このやり取りは自分に分が悪いと思ったのか、そうそうに諦め、朝食が並べられたテーブルに座る。



 アレンはボサボサの髪を直そうと左手で髪をかきながら、ディーネが作ってくれたパンと卵を焼いただけの簡単な朝食を黙々と食べている。部屋から洗濯物をまとめて戻ってきたディーネがアレンのなかなか元に戻らないボサボサの髪を撫でると不思議と奇麗にまとまった。



「おっ、いつもありがと」



「いえいえ、それよりも急いでください。そろそろ時間ですよ」



「分かっているよ。ほんと母親みたいだな」



「私としては母親より嫁の方が嬉しいのですけどね」



「ぶふっっっ」



 ディーネの一言に思わずアレンは口に水を含んだまま咳込む。ディーネはそれを見て、クスクスと満足そうに笑い、籠に入ったシャツに目を移す。



『アレン……まだあの時の夢を……』



 ディーネもこの町でアレンと共に二年間過ごしてきた。アレンが心に闇を背負いながらも必死で生きていることを知っている。いつかその苦しみから解放してあげたいが、その役目は決して果たせない自分にやきもきしていた。



「よし、そろそろ開店するか」



 アレンは水で口の中のパンを流し込み、食器を台所に運ぶ。



 ディーネははっとして、明るく答える。



「はい! すぐ行きます」



 アレンは外に出る扉の鍵を開けて、家の中にしまっておいた一枚の木でできた看板を外に出した。

 その看板には……



【冒険に役立つ雑貨屋エレール 営業中】



 と書かれていた。

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