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第九話:任務

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 いくら騎士団に否があろうとも権力によって握り潰すというのはよく聞く話である。



 今回の場合も最悪いきなり首を飛ばされてもおかしくはない事案だ。だからこそ、アレンもディーネも警戒を怠らずエリーと対峙していた。



 それにエリーも部下の二人から話は聞いているだろう。かなり湾曲された話を。



 しかし、それでありながら目の前の女性は怒りの感情を表すことなく、冷静にこちらの言い分を聞こうとしている。



 アレンはその態度にいくらか好感を抱きつつ、この店で起こったことを事細かに説明した。その間、エリーは特に表情も変えず、口を挟むことなく、真っ直ぐとアレンの目を見て聞いていた。



「なるほど……今回の件はこちらに否がありそうね。団長として謝罪します。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」



 そう言って、エリーは深々と頭を下げる。その行動に二人は驚いた。



 アレンが言った言葉を全くと言っていいほど疑わずに、さらに騎士団長ともあろう人物が田舎町の平民に頭を下げるなど聞いたことがなかった。



 アレンは思わず声をかける。



「おい、いいのかよ。俺が自分の都合の良いように話しているだけかもしれないぞ。それに団長がそんな簡単に頭を下げていいのか」



 エリーは頭を上げ、



「私はまだまだ未熟だけど人を見る目はあるつもりよ。少なくとも相手が嘘をついているかどうかなんて、目を見れば分かる。あなたを嘘は言ってない。対してあの二人は目が淀みまくり。どちらが悪いかなんて明白よ。それに否があるならば謝罪するのは当然だわ。団長であろうがそれは関係ないし、むしろ団長であるからこそ、真摯に謝罪するのが当たり前でしょ」



 何か不思議なとこがあるのかと言わんばかりに、アレンの目をみつめる。その目をアレンは直視できなくなっていた。



 エリーという人物と話しているとやはり彼女が頭をよぎる。



『エレナ……』


 ディーネもまた同じ感覚を覚えていた。だからこそアレンが気になる。アレンの心の揺さぶりが見て取れるようだった。その姿を見ることが辛くなりディーネが代わりにエリーに話しかける。



「エリーさん、私も店主も特に気にしていませんから。むしろ少しやり過ぎたかなって反省しているくらいで」



 すると、今までの張り詰めた空気を壊すようにディーネに笑いかけ、



「いえ、あの二人には足りないくらいだわ。私からもきつくお灸をすえてやらなきゃ。まぁ、これから炎の精霊サラマンダーが現出されるといわれているマグニー火山に向かうから気が立っているのも分かるんだけどね……あっ、これは極秘任務だった。内緒で」



 エリーは人差し指を自分の唇に当てる。


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