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第十三話:出発

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「さぁ、出発しましょう」



 ハイキングに出かける前に子供のようにディーネは右手を高々と真上に挙げた。



 外に出ると、町にはまだ誰一人として外に出ておらず、静かな朝だった。



「日の光を浴びるのは久しぶりな気がするな」



「そうですねぇ。アレンは一週間ぶりですかね。たまには運動とかしたほうがいいですよ」



「確かに。かなり鈍っている気がする」



 そう言いながら、アレンは体を伸ばしストレッチを始めた。腰や首からボキボキと音がなっている。



「はぁ……なんかもうおじいちゃんですね」



「誰がおじいちゃんだ。さっさと行くぞ」



 ストレッチを終えると、スタスタと歩き始め、その後ろをディーネはついて行った。



 マグニー火山に行くためには、まずグリズリーの森を抜ける必要がある。普通の人間であればこの森を抜ける事すら困難である。



 名前の通り、見た目は熊のような体長2メートルを超えるグリズリーと呼ばれる魔物が多数生息しており、気性も荒い。さらにグリズリーの中には白い体毛に覆われた亜種が存在する。この亜種はグリズリーと比べても一回りは大きく、討伐ランクもCに設定されている。



 討伐ランクとは、ギルドが難易度をA~Fに振り分けたものであり、Aに近づく程困難になる。A以上のランクにSという特別なランクも存在する。



 グランシーヌでは腕に覚えがあるものは騎士団かギルドに入るのが一般的となっている。騎士団には主に武で名を上げた貴族の一族や、国に認められ名声を得たい者などが入団する。



 国の脅威を排除したり、治安の強化にあたることが仕事になり、毎月安定した収入が得られる。その金額も平均年収三千万リランと高額で一般的な職業の三倍以上の給与となる。これも人気の職業になる一因だ。



 一方ギルドとは、国民の依頼を請け、管理する組織である。ギルドに所属する人々を冒険者と呼びこれもA~F、そしてSランクに分けられており、その強さを表す基準になっている。



 依頼にはFランクの薬草の採取やペットの捜索、Aランクにもなればドラゴン種の討伐など様々なものがある。騎士団と異なるのは、達成した依頼に応じて収入を得られることだ。



 Aランクにもなれば一つの依頼で数千万の収入を得られるが、Fランクでは数千リランほどしか得られない。まさに一攫千金であるがもちろん高難易度ほど死亡率も高くなる。



 よってグランシーヌでは安定感のある騎士団の方が圧倒的人気を集め、騎士団に入れなかった者、騎士団の規律を嫌う者がギルドに所属するという流れになっている。



 ちなみに二年前の魔王討伐の際は、国の存続に関わる程の災事であった為、ギルドにも国から依頼を出し、さらに騎士団では特別隊を編成し討伐へ向かった。冒険者で腕を磨いていたアレンはこの特別隊の一員として魔王を討伐し、とどめを刺したクラウスが勇者の称号を得ることになった。



 二人は一時間程歩くとグリズリーの森へたどり着いた。木々が青々と茂り、道も殆ど整備されていない森だ。人が普段通らないだけあって様々な種の植物や昆虫、そして豊富な果実など自然に溢れている。



「大丈夫と思うけど、一応油断するなよ」



「こっちのセリフですよ。引きこもりの体にはこの大自然は辛いでしょうに」



「誰が引きこもりだ。ちゃんと働いているぞ」



 ディーネは今日もアレンをからかえたことに嬉しくなり、軽やかに森を進んでいく。

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