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第十二話:サラマンダー

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『ほんと素直じゃないんだから』



 ディーネは心の中でそう思いながら、もしかしたらアレンの呪縛を解いてくれるのがエリーなのではと期待せずにはいられなかった。


 だからこそエリーをここで失うわけにはいかないと心に決めた。



 しかし憂鬱なこともあった。



『はぁ。でもサラマンダーかぁ』



 こんな事情がなければディーネは決して近寄る場所ではないのである。それは相手が強敵だからとか、行けば死ぬかもしれないという理由でもない。ただ戦うだけだったらどれだけ楽か……そんなことを考えながらも気持ちを切り替えて、



「マグニー火山に行くなら、明日、日が昇って明るくなったらすぐに向かいましょう。エリーさん達も暗いうちは動かないでしょうし、急げば追いつけると思いますよ」



「だな。俺だったら半日もあれば着く距離だ」



 ディーネはクスっと笑う。



「アレン、火口石を取りに行くんじゃなかったんですか?」



「あっ……ち、ちがう。火口石を取りに行くついでに、困っていたら助けてやろうってことだよ。目の前で人が困っていたら手を差し伸べるのが普通だろ」



 動揺するアレンを見ながら、楽しくもあり、誇らしくもなる。



『世間的には困っている人を助けるのが普通って堂々と言う方が恥ずかしい人が多いと思いますけどね。でもそれがあなたの素敵な所なんですよね』



 と、思いながらも「はいはい」とあしらいながら、鼻歌まじりに気分良く食器の片づけを始めた。



「アレン、起きてください。そろそろ起きないと追いつけませんよ」



「ん~、あと五分……」



 昨日、日が昇ったら直ぐに出発しようと約束していたはずなのになかなか起きてこないアレンを見兼ねて部屋まで起こしにきたのだが……。アレンははだけた毛布を頭まで被り直した。



「子供みたいなこと言わないでください!」



 アレンの毛布を勢いよく引っぺがすと驚いたように目を開く。



「お、おはようございます」



「はい。おはようございます」



 ディーネはニッコリと微笑むが目の奥は笑っていなかった。



「早く着替えてください。すぐ出ますからね」



「朝ごはんは……」



「そんなものはありません。寝坊したアレンが悪いんですよ。じゃあ私も準備してきます」



 ディーネが部屋を出るとアレンはガッカリしながらも、いそいそと着替え始める。一通り準備を済ませ、リビングへ向かうと既にいつでも行けますよと言わんばかりに背中に茶色いリュックを抱えたディーネが待っていた。



「さぁ、出発しましょう」


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