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第十一話:夕食

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 日も完全に落ち辺りが暗闇に包まれた頃、アレンとディーネは同じ食卓で向かい合って夕食を食べていた。



 食卓には一切れのパンとスープ、それに野草をかき集めたようなサラダが盛ってある。



「今日もこれだけか……」



「はい、これだけです。それが何か?」



「いえ、いただきます……」



 アレンはパンをちぎってスープに浸して食べる。ディーネは料理の腕は非常に高く、限られた食材でもそれなりに質の高いものを作る。質素な食事でも、ある程度我慢できるのはディーネの腕があってこそだ。



 アレンは既に二十歳を超え、成長期というものはとうに過ぎているがまだまだ若い。肉や魚などたんぱく質豊富な食材を腹いっぱい食べたいという欲求は常にある。



 しかしこの店の経営状況がそれを許さない。



 今日の売上もわずか数百リラン……これでは今日、明日のパン代にしかなりはしない。ディーネはエレールの金庫番の任されている身であるため贅沢は敵なのだ。蓄えも僅かになっておりこのままでは暮らしてはいけない。



 もはや店を畳んで、外に出ればアレンの実力ならば金を稼ぐ手段はいくらでもあるのだが、その選択をすることは今までなかった。



 しかし今日の二人の悩みの種は金に関することではなかった。



 二人は黙々と夕食を食べている。普段の食卓は質素でありながらも、もっと賑やかなのだが、今日は違った。



 ディーネは互いに同じことを考えているのだろうと確信を持ってアレンに話しかける。



「エリーさん、マグニー火山に行くって言っていましたね」



「……言っていたな」



「サラマンダーの素材が必要だって言っていましたね」



「……そうだな」



「団長って言っていましたけど、四大精霊に通用すると思います?」



「…………」



 アレンの表情が曇る。



 火の精霊サラマンダー。火、水、風、土を司る四大精霊の一つ。火系統の生物、精霊の頂点に君臨する存在である。



 普通ならば、人間如きが謁見することすら叶わない存在であり、ましてはその素材を入手するなど、一つの騎士団で行う任務の難易度では到底あり得ない。



 何かしら事情があるのだろうが、いくらグランシーヌ第四騎士団団長であっても失敗に終わるだろうというのが二人の見解であった。



 失敗=死。



 アレンは皿に残ったスープを流し込み、家に隣接する店の方に向かい何やら探し物を始めた。



「ディーネ、火口石の在庫はここにあるだけだよな」



 火口石とは火の魔力を帯びた石であり、武器や防具の生成の際に使われるものだ。日常的に使うものではないし、鍛冶屋でもないため、この店では大して在庫も用意していない。



 ディーネはうっすらと笑い答える。



「えぇ、そうですよ。そろそろ入荷しないといけませんかね」



「そうだな。明日は店を休みにして取りに行こうか」



「はい、そうしましょう」



 アレンはもやもやが晴れたように、すっきりとした表情をしていた。



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