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第三十三話:頑張ってください

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「お前等うるさいぞ。ところでディーネ、俺に何か頼みがあるんだろう?」



 ディーネがアレンを見ると、すまんと手を合わせて頭を下げていた。ディーネも仕方ないと思いながらも、



「サラマンダー、私も暇じゃないの。早く鱗をはがして私にちょうだい」



 と言って、ふてぶてしく手を目の前にさしだす。そんな頼み方があるかとエリーは思ったが、予想に反してサラマンダーは既に用意していたのであろう手の平を覆うほど大きな自分の鱗をディーネに手渡し、そのままディーネの手を両手で包みこむ。



「これで足りるか。なんならあと二~三枚持っていくか」



「いえ、もう大丈夫」



 ディーネは握られた手を振りほどく。



「そうか……」



 サラマンダーは叱られた子供のようにシュンと落ち込んでいる。



 エリーは本当にこれが先ほどまでのサラマンダーなのかと思わずにいられなかった。ディーネに対する態度が他と違い過ぎて四大精霊としての威厳はもはやない。



 ディーネは、よかったですねと言って手渡してもらった鱗をそのまま渡す。エリーがそれを受け取ると、サラマンダーがエリーを睨みつける。



「ところでさっきからそこに居る女は誰だ」



「アレンの将来の奥さんになる方ですわ」



「な、なんてこと言うのよ! 私はグランシーヌ第四騎士団団長、エリー・グレイシアと申します。アレンとディーネには私の任務を手伝っていただいたのです」



「何だと……」



 サラマンダーがエリーを睨みつける目がさらに厳しくなる。エリーはその目に恐怖を覚え、目の前の男が四大精霊の一人であることを再認識させられた。



「アレン! エレナを失ってなおグランシーヌの犬に成り下がっているのか」



 サラマンダーはエリーに向けていた目をそのままアレンにも向ける。



「俺は別に……」



「言い訳は聞かん! やはりお前らに俺の鱗はやれん。どうしてもと言うなら力づくで奪い取るんだな。エリーとやらが俺に一太刀でも浴びせられるのであれば何枚でも持っていくがいい。ハンデだ。アレンが手伝ってもいいぞ」



 そういって、サラマンダーが目を閉じると全身に赤いオーラを纏い右手には炎で作られた斧のような武器が現われた。その圧力に思わずエリーとアレンは後ろに飛び距離を取る。



「ちょっとサラマンダー止めなさいよ」



 ディーネが必死で止めようとするが、まるで聞いてはいない。



「エリー、こうなったらやるしかない。俺が隙を作るから、なんとか一太刀頼む。四大精霊同士は争えないからディーネは役立たずだしな」



 アレンにとって最悪に近い状況になってしまった。サラマンダーはディーネにべた惚れなのは分かっていた。ディーネが頼めば間違いなく任務は達成できると踏んでいたのだ。まさかエリーが一太刀入れることを条件として出してくるとは予想外だった。これで強制的にエリーも戦うことになってしまう。



 だが悪い事ばかりではない。一つは人型であること。本来の姿でないならば、その力は何倍も抑えられる。そしてもう一つは、精霊は言ったことを絶対に違わないということ。精霊が口にしたことはもはや契約と同じことである。エリーが攻撃を当てさえすれば、目的は達成されるのだ。



「ごめんなさいね。私のせいでこんなことに巻き込んじゃって」



 エリーは腰に携えていた剣を抜いて構える。



「別にいい。それに俺は巻き込まれにきたんだ。エリーが気にすることじゃない」



「ふふ、やっぱり変な人ね」



「誰が変だ!」



 エリーは自然と恐怖や力みが消えていることに気づく。



「準備はいいようだな。じゃあ行くぞ」



 サラマンダーは真っ直ぐエリーに向かって走ってきた。エリーのもとに辿り着く前にアレンも剣を抜き、エリーの前に立つが、サラマンダーはまるで気にせず大きな斧を振りかぶり、そのままアレンに向けて振り下ろす。それを剣でかろうじて受け止めるがその強烈な一撃で剣に亀裂が入る。



 その刹那、後ろにいたはずのエリーが横に出てサラマンダーに切りつけるが紙一重でサラマンダーは後ろに下がり避ける。



 しかしエリーもその一撃で諦めず、追い打ちをかけるように次々と剣技を繰り広げていくが、サラマンダーも華麗にその攻撃を避ける。



「エリー! 深追いしすぎだ」



「大丈夫! このまま一太刀浴びせて……」



 その時、洞窟内に金属音が鳴り響く。エリーの持っていた剣が真っ二つに折れ、剣先が宙に舞う。サラマンダーはニヤリと笑い、斧を振りかぶる。



「あっ……」



 エリーは自分に近づいてくる斧に回避することは敵わないと覚悟を決め、ギュッと目を瞑る。すると横から衝撃を受け、押し出され、その場に倒れこむ。



ゆっくり目を開けると、地面に大量の赤い液体が滴り落ちる光景が飛び込んできた。視線を上に向けると、アレンがサラマンダーの前に立ち、左肩から斧を受け突き刺さっている。



「アレン!!」



 エリーが衝撃のあまりに声を上げるが、アレンは何事もないかのように、エリーの方に顔を向け、笑みを浮かべる。そして、肩に斧が刺さったまま、斧を右手で掴む。



「エリー! 今だ!」



 アレンの叫びにハッとしたエリーは、素早く立ち上がり、折れたままの剣でサラマンダーの胴をめがけて振り抜く。サラマンダーも突き刺さった斧を抜こうと試みていたが、アレンの右手はビクともせず、斧を諦め手を放したが、エリーの剣が一瞬早くサラマンダーの胴を抜いた。



「ふっ……見事だ」

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