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第三十五話:夜
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再び始まった言い合いに、さらに呆れたエリーが割り込む。
「待って、待って、ちょっと頭が追い付かないから二人とも落ち着きなさいよ」
エリーはアレンが言ったことを頭の中でまとめる。召喚士と出会ったのは初めてなほど稀な存在だが、聞いた事はある。精霊との絆を深め、自分の魔力を代償とし、精霊を使役する存在。しかしそうだとしたら更に疑問が次々に浮かび上がる。
どうやって四大精霊のウンディーネと契約したのか。本来ならば人間よりも高位すぎる存在。下級の精霊を使役できる人物は幾度か聞いた事があるが……それに使役しているということは相当の魔力が必要なはず。しかも使役対象のもつ力により使う魔力は変化する。しかも使役している間は常に召喚士の魔力を使う。
エリーが見る限り、ディーネは常にアレンと行動を共にしているように思える。四大精霊を召喚し、常に使役し続ける……それがどれだけの魔力を消費するものなのか想像もできなかった。
エリーが何も言わず黙っていると、
「エリーさんが混乱するのも分かります。うちの店主のバカみたいな魔力が信じられないんですよね。私も最初は驚きましたよ。まさか私を召喚できる人間が存在するなんて。普通の人間だったら一分と持たないですよ。まぁ、新種の化物だと思って納得してください」
ディーネはジト目でアレンを見ている。
「バカみたいな魔力ってなんだよ。それに新種の化物ってひどすぎないか! それに化物はお前だろ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ! とうとう言っちゃいましたね、アレン! いくら店主でも許しませんよ!」
二人の言い合いを始めは黙って聞いていたエリーも思わず笑ってしまう。
「もう二人とも止めなさいよ。それに私から見たらどっちも化物よ」
「エリーさんまで化物って言いましたねぇ。将来のアレンの奥さんでも許しませんよ」
「またそんなこと言って! いつ私がアレンのお、お、お、奥さんになるって言ったのよ」
「私には分かるんですぅ。絶対なんですぅ」
「おい、お前等落ち着けよ。そ、それに俺だってエリーを嫁にするなんて言ってないからな。騎士団の団長が嫁なんておっかねぇよ」
「はぁぁぁぁぁ? おっかないって何よ! 私だって騎士団の中じゃ女神や天使だなんて言われているのよ」
「ははっ。自分で自分を女神とか言って恥ずかしくないのかねぇ」
「もう怒った! 騎士団団長の力を見せてやるわ」
三人の言い合いはこの後もしばらく続くのであった……
「はぁ……」
エリーは深い深いため息を吐いた。
「どうしたんだ、エリー。飯が口に合わないか?」
「いえ、ご飯は凄くおいしいわ」
「そうでしょう! 私の生み出した水で作ったカレーは絶品でしょう。お代わりいります?」
「もらうわ……」
料理を褒められ上機嫌のディーネは勢いよく鍋をかき混ぜて、エリーの器にカレーを注ぐ。エリーは表情がすぐれないままカレーをひたすら口に運んでいく。
「あの言い合っていた時間がなければ今頃町に着いていたわよね」
カレーを食べ終わったエリーがボソリと呟く。
既に日は落ちて、辺りは暗く月明りに照らされている。森も静寂に包まれている。予定では夜の内に町に着いてしまうつもりだったが、予期せぬことに時間を取られ、今居る森の中で一泊することになったのだ。
「だな……」
「私達一体何を言い合っていたんでしょうね」
「さぁ? 何だっけ?」
さっきまでの醜い争いがまるでなかったかのようにアレンとディーネは振舞っている。きっとあのようなことは日常茶飯事のことなのだろう。それに比べエリーはここ最近感情的になったことはあまり記憶に無かった。特に騎士団に入ってからは強さだけでなく冷静さと正確な判断力が求められた。
しかし言い合っている間は勝手な事を言う二人に本気でムカついていたはずなのに、今ではそのような感情は少しも湧いてくることはなかった。むしろ大声を出したせいか妙に気持ちがスッキリしていた……のだが、
「じゃあ私はそろそろ帰りますね」
「あぁ。今日は本当に助かったよ」
「いえいえ。暇な店番よりは有意義な一日でしたわ」
「ほんと口が減らないな……」
エリーはディーネの帰るという一言にピクリと反応する。
「ディーネ、帰るってどういうこと?」
この時エリーは思い出した。ディーネは召喚されているのだと……
「えぇ。私が本来いるべき場所に戻りますよ。あまり向こうをほったらかしにもできませんし、さすがに二十四時間アレンの魔力を消費してしまったら干からびてしまいますわ」
確かにその通りだ。いくらアレンの魔力が無尽蔵だといっても使い続けたらいつか無くなる。回復する時間も必要なのも分かる。しかしディーネが帰ってしまったら……エリーが感じている不安にディーネも気づく。
「あっ、もしかしてアレンと二人っきりになるのが恥ずかしいんですね」
エリーはボッと顔が赤くなる。
「ち、違うわよ。ま、また来たときみたいに魔人とかが襲ってきたら危ないじゃない」
「あらあら、騎士団長ともあろう人が随分と弱気なんですね」
「うぅぅぅ、あぁ言えばこう言う……」
確信をつかれたエリーは何も言えなくなってしまうが、スッとディーネがエリーの横に座り耳元でささやく。
「大丈夫ですよ。アレンは意外に紳士ですから」
そして顔を赤くしたままのエリーに向かってウインクをして立ち上がりその場でクルリと回り、青い光を残して姿を消した。
「待って、待って、ちょっと頭が追い付かないから二人とも落ち着きなさいよ」
エリーはアレンが言ったことを頭の中でまとめる。召喚士と出会ったのは初めてなほど稀な存在だが、聞いた事はある。精霊との絆を深め、自分の魔力を代償とし、精霊を使役する存在。しかしそうだとしたら更に疑問が次々に浮かび上がる。
どうやって四大精霊のウンディーネと契約したのか。本来ならば人間よりも高位すぎる存在。下級の精霊を使役できる人物は幾度か聞いた事があるが……それに使役しているということは相当の魔力が必要なはず。しかも使役対象のもつ力により使う魔力は変化する。しかも使役している間は常に召喚士の魔力を使う。
エリーが見る限り、ディーネは常にアレンと行動を共にしているように思える。四大精霊を召喚し、常に使役し続ける……それがどれだけの魔力を消費するものなのか想像もできなかった。
エリーが何も言わず黙っていると、
「エリーさんが混乱するのも分かります。うちの店主のバカみたいな魔力が信じられないんですよね。私も最初は驚きましたよ。まさか私を召喚できる人間が存在するなんて。普通の人間だったら一分と持たないですよ。まぁ、新種の化物だと思って納得してください」
ディーネはジト目でアレンを見ている。
「バカみたいな魔力ってなんだよ。それに新種の化物ってひどすぎないか! それに化物はお前だろ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ! とうとう言っちゃいましたね、アレン! いくら店主でも許しませんよ!」
二人の言い合いを始めは黙って聞いていたエリーも思わず笑ってしまう。
「もう二人とも止めなさいよ。それに私から見たらどっちも化物よ」
「エリーさんまで化物って言いましたねぇ。将来のアレンの奥さんでも許しませんよ」
「またそんなこと言って! いつ私がアレンのお、お、お、奥さんになるって言ったのよ」
「私には分かるんですぅ。絶対なんですぅ」
「おい、お前等落ち着けよ。そ、それに俺だってエリーを嫁にするなんて言ってないからな。騎士団の団長が嫁なんておっかねぇよ」
「はぁぁぁぁぁ? おっかないって何よ! 私だって騎士団の中じゃ女神や天使だなんて言われているのよ」
「ははっ。自分で自分を女神とか言って恥ずかしくないのかねぇ」
「もう怒った! 騎士団団長の力を見せてやるわ」
三人の言い合いはこの後もしばらく続くのであった……
「はぁ……」
エリーは深い深いため息を吐いた。
「どうしたんだ、エリー。飯が口に合わないか?」
「いえ、ご飯は凄くおいしいわ」
「そうでしょう! 私の生み出した水で作ったカレーは絶品でしょう。お代わりいります?」
「もらうわ……」
料理を褒められ上機嫌のディーネは勢いよく鍋をかき混ぜて、エリーの器にカレーを注ぐ。エリーは表情がすぐれないままカレーをひたすら口に運んでいく。
「あの言い合っていた時間がなければ今頃町に着いていたわよね」
カレーを食べ終わったエリーがボソリと呟く。
既に日は落ちて、辺りは暗く月明りに照らされている。森も静寂に包まれている。予定では夜の内に町に着いてしまうつもりだったが、予期せぬことに時間を取られ、今居る森の中で一泊することになったのだ。
「だな……」
「私達一体何を言い合っていたんでしょうね」
「さぁ? 何だっけ?」
さっきまでの醜い争いがまるでなかったかのようにアレンとディーネは振舞っている。きっとあのようなことは日常茶飯事のことなのだろう。それに比べエリーはここ最近感情的になったことはあまり記憶に無かった。特に騎士団に入ってからは強さだけでなく冷静さと正確な判断力が求められた。
しかし言い合っている間は勝手な事を言う二人に本気でムカついていたはずなのに、今ではそのような感情は少しも湧いてくることはなかった。むしろ大声を出したせいか妙に気持ちがスッキリしていた……のだが、
「じゃあ私はそろそろ帰りますね」
「あぁ。今日は本当に助かったよ」
「いえいえ。暇な店番よりは有意義な一日でしたわ」
「ほんと口が減らないな……」
エリーはディーネの帰るという一言にピクリと反応する。
「ディーネ、帰るってどういうこと?」
この時エリーは思い出した。ディーネは召喚されているのだと……
「えぇ。私が本来いるべき場所に戻りますよ。あまり向こうをほったらかしにもできませんし、さすがに二十四時間アレンの魔力を消費してしまったら干からびてしまいますわ」
確かにその通りだ。いくらアレンの魔力が無尽蔵だといっても使い続けたらいつか無くなる。回復する時間も必要なのも分かる。しかしディーネが帰ってしまったら……エリーが感じている不安にディーネも気づく。
「あっ、もしかしてアレンと二人っきりになるのが恥ずかしいんですね」
エリーはボッと顔が赤くなる。
「ち、違うわよ。ま、また来たときみたいに魔人とかが襲ってきたら危ないじゃない」
「あらあら、騎士団長ともあろう人が随分と弱気なんですね」
「うぅぅぅ、あぁ言えばこう言う……」
確信をつかれたエリーは何も言えなくなってしまうが、スッとディーネがエリーの横に座り耳元でささやく。
「大丈夫ですよ。アレンは意外に紳士ですから」
そして顔を赤くしたままのエリーに向かってウインクをして立ち上がりその場でクルリと回り、青い光を残して姿を消した。
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