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第三十八話:説教
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アレンは未だに頬を押さえて微動だにしない。
「アレン……見事に単純な男でしたね。店員として恥ずかしいです」
その言葉に我に返ったのか、
「ち、ちがう。殴られると思ったからその反動で……」
必死に抵抗するが、アレンの顔は言い訳の聞かない程耳まで真っ赤に染まっていた。
「はいはい、分かりました。じゃあ折角起きたんですから店の片づけ手伝ってくださいね」
「あ、あぁ。分かった。任せとけ」
いつも以上に真面目に働くアレンの姿がそこにあった。
一方、店を出たエリーはというと……店の前で一人うずくまり頭を抱えていた。
「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉぉぉぉ。なにをやっているのよ、私は! き、昨日会ったばかりの男にちょっと助けてもらったからって、キ、キスなんて……こんなの私じゃないわ。きっと昨日もらったアイテムに変な薬が入っていたのよ……うん、きっとそうよ」
エリーのこれまでの人生は全てを武に捧げてきたものだった。幼いころから才能を見出され、周囲の期待に応える様に力を磨いてきた。その甲斐もあり、史上最年少でグランシーヌ騎士団長という地位を得る事ができた。
一方で普通の女性が経験する色恋というものは全くと言っていいほど経験がなかった。もちろんエリーの美貌と強さに憧れ、寄って来る男も後を絶たなかったが、エリー自身もまるで興味がなく、全て断ってきたのだ。それなのに……
エリーは立ち上がり、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をする。すると戦士の男と魔法使いの男がエリーの下に歩いてきた。
「団長、話は終わりましたか? 団員達はもう出発の準備はできていますよ」
戦士の男がエリーに話しかける。
「そう、分かったわ。じゃあすぐにでも出発しましょう。はやくサラマンダーの鱗を届けないとね」
「団長、大丈夫ですか? サラマンダーの鱗ってとても熱いって聞きましたけど」
魔法使いの男がエリーを心配そうに見つめる。
「大丈夫、大丈夫。全然問題ないわ」
「そうですか。団長、顔が耳まで真っ赤だからてっきり熱いのかと思いましたよ」
「え? う、うそ」
エリーは慌てふためき、顔をペタペタと触っている。二人の団員はいつも冷静な団長の異常な行動に顔を見合わせて不思議がっている。
「あのぉ……団長?」
「な、なんでもないわよ! そんなことより早く出発するわよ! 準備はできているの?」
「さっき準備できたって言いましたけど……」
「そ、そうだったかしら……じゃあ行くわよ!」
エリーはこれ以上余計な事を悟られまいと、団員たちの前を先導して歩いたのだった。
「よしっ! これで最後だな。片付け終了!」
アレンとディーネは店から持ち出したアイテムを商品棚に戻し終えた。
「なんか棚がすかすかじゃないか?」
元々商品数は多い方ではないが、今は明らかに陳列している数が少ない。小瓶なら十は並べられそうな棚にも二、三本しか置かれていない。店としてはとても見栄えが悪い状態だ。
「そうでしょうよ。アレンが見栄え無しに使っちゃうからですよ」
「そうなんだけどさぁ……本当にこれだけ? どっかに隠してない?」
「これだけです!」
いつまでも現実を見ないアレンにディーネは強く言い放つ。
「はぁ……入荷しにいかないとなぁ」
「お金もあとわずかですよ。この際言っておきますけど、人助けもほどほどにしないとお店が潰れてしまいます。少しは経営のことも考えてもらわないと。特にユグドラの雫です。うちの看板商品をあんなはした金で渡してしまうなんて……状況的に使うのは仕方がないにしても、ちゃんとお金は貰ってください」
「だって……」
「だって……じゃありません!」
ディーネはこれまで溜まっていた不満を全て吐き出すようにクドクドとアレンへの説教はひたすら続いた。外はすでに日が落ち暗闇に包まれていた。
「アレン……見事に単純な男でしたね。店員として恥ずかしいです」
その言葉に我に返ったのか、
「ち、ちがう。殴られると思ったからその反動で……」
必死に抵抗するが、アレンの顔は言い訳の聞かない程耳まで真っ赤に染まっていた。
「はいはい、分かりました。じゃあ折角起きたんですから店の片づけ手伝ってくださいね」
「あ、あぁ。分かった。任せとけ」
いつも以上に真面目に働くアレンの姿がそこにあった。
一方、店を出たエリーはというと……店の前で一人うずくまり頭を抱えていた。
「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉぉぉぉ。なにをやっているのよ、私は! き、昨日会ったばかりの男にちょっと助けてもらったからって、キ、キスなんて……こんなの私じゃないわ。きっと昨日もらったアイテムに変な薬が入っていたのよ……うん、きっとそうよ」
エリーのこれまでの人生は全てを武に捧げてきたものだった。幼いころから才能を見出され、周囲の期待に応える様に力を磨いてきた。その甲斐もあり、史上最年少でグランシーヌ騎士団長という地位を得る事ができた。
一方で普通の女性が経験する色恋というものは全くと言っていいほど経験がなかった。もちろんエリーの美貌と強さに憧れ、寄って来る男も後を絶たなかったが、エリー自身もまるで興味がなく、全て断ってきたのだ。それなのに……
エリーは立ち上がり、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をする。すると戦士の男と魔法使いの男がエリーの下に歩いてきた。
「団長、話は終わりましたか? 団員達はもう出発の準備はできていますよ」
戦士の男がエリーに話しかける。
「そう、分かったわ。じゃあすぐにでも出発しましょう。はやくサラマンダーの鱗を届けないとね」
「団長、大丈夫ですか? サラマンダーの鱗ってとても熱いって聞きましたけど」
魔法使いの男がエリーを心配そうに見つめる。
「大丈夫、大丈夫。全然問題ないわ」
「そうですか。団長、顔が耳まで真っ赤だからてっきり熱いのかと思いましたよ」
「え? う、うそ」
エリーは慌てふためき、顔をペタペタと触っている。二人の団員はいつも冷静な団長の異常な行動に顔を見合わせて不思議がっている。
「あのぉ……団長?」
「な、なんでもないわよ! そんなことより早く出発するわよ! 準備はできているの?」
「さっき準備できたって言いましたけど……」
「そ、そうだったかしら……じゃあ行くわよ!」
エリーはこれ以上余計な事を悟られまいと、団員たちの前を先導して歩いたのだった。
「よしっ! これで最後だな。片付け終了!」
アレンとディーネは店から持ち出したアイテムを商品棚に戻し終えた。
「なんか棚がすかすかじゃないか?」
元々商品数は多い方ではないが、今は明らかに陳列している数が少ない。小瓶なら十は並べられそうな棚にも二、三本しか置かれていない。店としてはとても見栄えが悪い状態だ。
「そうでしょうよ。アレンが見栄え無しに使っちゃうからですよ」
「そうなんだけどさぁ……本当にこれだけ? どっかに隠してない?」
「これだけです!」
いつまでも現実を見ないアレンにディーネは強く言い放つ。
「はぁ……入荷しにいかないとなぁ」
「お金もあとわずかですよ。この際言っておきますけど、人助けもほどほどにしないとお店が潰れてしまいます。少しは経営のことも考えてもらわないと。特にユグドラの雫です。うちの看板商品をあんなはした金で渡してしまうなんて……状況的に使うのは仕方がないにしても、ちゃんとお金は貰ってください」
「だって……」
「だって……じゃありません!」
ディーネはこれまで溜まっていた不満を全て吐き出すようにクドクドとアレンへの説教はひたすら続いた。外はすでに日が落ち暗闇に包まれていた。
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