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第三十七話:ちょろい

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「おい、あれ団長じゃないか?」



「あぁ、間違いない。良かった」



 町の入り口に立っていた、アレンが森で助けた二人組がエリーの姿に気づくと生き残りであろう数人の男達を引き連れて三人のもとに集まった。その中には骨折している者や、頭に血がにじんでいる包帯を巻いた者も多かった。アレンが助けた二人だけでなく、数人の生き残りがいたことにエリーは少しばかり安堵した。



 それを見るなりアレンは、



「ディーネ、怪我の度合いでアイテム振り分けてやって」



「はーい。わかりました」



 ディーネは慣れたように、怪我をした男達を一人ひとり一瞥し、的確に種類の違う回復アイテムを配っていく。グランシールでは数千リラの安い傷薬もあれば、数十万リラはするであろう高級品の物までも関係なく配る姿に、



「アレン、ちゃんと昨日今日で私達の団に使ったアイテムの金額は計算しておいてよね。今は持ち合わせがないから払えないけど、グランシーヌに戻ったら必ず支払うわ」



「はいはい、わかっていますよ」



 適当な返事をするアレンに不安を覚えたが、回復し元気になった団員たちが次々とエリーの周りに集まって取り囲む。どうやらエリーの様子や今回の任務の結果を聞いたりしているようだったが、アレンとディーネは邪魔するまいと何も言わずエレールに戻っていった。



「あぁ~やっと着いたぁ~。久しぶりの我が家だな」



 アレンはエレールに着くなり、リビングにあるソファに横になる。



「久しぶりって……たった一日じゃないですか」



「俺にとっては久しぶりなんだよ。今日はもう店開けないからな。疲れたから少し仮眠するよ」



「はいはい。じゃあ私はちょっと片付けしてからご飯作るので、できたら起こしますね」



「そうしてくれ……」



 そう言うとアレンは五分と経たずに眠りについてしまった。ディーネは店から持ち出したアイテムを棚に戻していく。



「はぁ……また店の商品が減ってしまいました。いよいよ店じまいですかね。まぁ、いざとなれば私が外に出て働けばアレン一人ぐらい養えますしね」



 ディーネが今後の成り行きをぶつぶつと呟きながら作業を続けていくと、店の入り口の鐘が鳴った。



「すいませーん。今日、店は開けてないんですよ」



 と入口の方に目を向けると、そこにはエリーが一人で立っていた。



「もう! 勝手にいなくならないでよね。アレンはどうしたの?」



「アレンなら奥でもう寝ていますよ。今回の旅がそうとう疲れたみたいね」



「疲れたって……あれだけ強いのに本当に不思議な人」



 エリーはアレンがいる奥の部屋を見つめている。



「昔はあんなんじゃなかったんですけどね」



 ディーネもまた寂し気に奥の部屋を眺める。



「昔って?」



「あっ、いえいえ気になさらず。それよりも何か御用ですか?」



 ディーネはしまったと思いつつも話題を逸らす。



 エリーもまたディーネの反応に疑問を持ちながらも、深く出会ったばかりの相手を詮索すべきでないと思い留まる。



「アレンがいないなら今の内に聞いておくわ。今回の件でいくら分のアイテムを使ったのかしら。私もバカじゃないからあなた達がマグニー火山に向かったのは私を助ける為というのは分かっている。だからあなたの言い値でいいわ。多分アレンは俺が勝手にやっただけだって言ってお金なんて取らないでしょうから」



 それを聞くと、ディーネはニコっと笑う。



「私はこの店の店主がお金を取らないって言うなら、私もそれに従うだけですよ。それにあなたからお金を取ったとわかると、きっとアレンに嫌われてしまいます」



「でもそれじゃあ私の気が済まないの! 今回の任務はアレンとディーネがいなかったらきっと成し遂げられなかった。どれだけ感謝しても足りないわ。 私にはそれに報いる手段がお金しか思いつかないのよ……お願いだから払わせて……」



 エリーの必死の懇願に困ったように、



「報いる手段って大げさですよ。アレンにはニコニコ笑顔でありがとうって言って、頬っぺにチューしてあげれば喜ぶと思いますよ。ねぇ、アレン」



 そういってディーネが後ろを振り返ると、アレンが奥から歩いてきた。



「馬鹿野郎、俺はそんな単純な男じゃないぞ。それにお前等うるさいよ。人が寝ているのに、ピーピーわめいて。すっかり起きちゃったじゃないか」



「あら、ピーピーうるさいのはエリーさんだけですよ。聞き分けないんですよ」



「アレン……」



 エリーは姿を現したアレンをじっと見つめる。そして無言でアレンに近づく。その目つきと圧力にアレンもたじろぐ。



「な、なんだよ……」



「何度言っても無駄だろうから最後にするわ。私は今回の件でこのお店にいくら支払えばいいのかしら?」



「ディーネが言ったように俺が勝手にやったことだから、別にエリーが気にすることじゃないよ。もう気にするな」



 エリーの目つきがさらに鋭くなり、エリーの手がアレンに向かってきた。ビンタでもされると思ったアレンはギュと目を瞑るが、その手は首元のシャツを掴み、アレンの頭を下げる。

そして頬に軽くキスをして、手を放す。



「へっ……」



 突然のことにアレンは自分の頬を押さえて茫然としている。



「あらあらあらあら」



 そしてディーネはおもしろそうにそれを眺めている。



 エリーは無言で店の出口に向かい、振り返り、アレンに向けて指を差す。



「これで終わったと思わないでよね。こんなことじゃ私の恩は返しきれないんだから。でも本当に助かったわ。ありがとう」



 そういうと、勢いよくドアを開け逃げる様に外へ出て行った。

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