6 / 72
6『裏切りの青空』
しおりを挟む
真夏ダイアリー
6『裏切りの青空』
「……まだ大丈夫」そう思って二度寝したのが悪い訳じゃない。
この世に生まれて十六年。部屋に差し込むお日さまの光の具合で、おおよその時間は分かる。念のためにセットアップした目覚ましも、五分早く設定してある。それで、まだ大丈夫と、五分の二度寝を自分に許した。
「せーの……!」
二度目の目覚ましのアラームで起きあがり、大あくび一つしてテレビを点ける。おなじみのキャスターが朝からオヤジギャグを飛ばしている。
え?
その右下の画面を見てタマゲタ。
タマゲタと言っても、どこかの大スターがが死んだとか、地震や大事故の速報があったわけでもない。時間が予定の八分先になっている。部屋の時計は呑気に八分遅れの時間を示している。
ドンヨリと薄暗い空模様に時間の感覚が狂ったんだ。
――ちっ! 百均の安物の乾電池を入れていたことが悔やまれた(引っ越し以来八か月、きちんと時を刻んでくれたんだから、ほとんど八つ当たり)
テスト期間中は、学校の始業時間が遅いので、お母さんの方が先に出てしまう。ま、わたしも子どもじゃないんで、自分の時間の管理ぐらいはできて……いた、今までは。
夕べ省吾が「デルスウザーラ」の感想文なんか頼んでくるから、わたしってば、そっちに時間くわれて、テスト勉強に支障をきたした。省吾に文句いわなっくっちゃ!
よくマンガやドラマで、遅刻しそうになった主人公が食パン咥えて駅まで走っていたりするけれど、実際にやってる人を見かけたことは無い。あれはドラマの演出。
じゃ、朝抜きで出かけるかというとそれもしない。朝は、なにかお腹に入れておかなければ血糖値があがらない。我が家では、親が離婚する前からの習慣。
で、生焼けのト-ストを、コーヒー牛乳で流し込んで、家を飛び出す。玄関のドアを閉めるときにエリカ(鉢植えのジャノメエリカ)が笑ったような気がしたが、そのまま駅までダッシュ。
千代田線のN駅で降りる。
改札を出たところに乃木坂学院のアベックの視線を感じる。なんだか見下されたような感じ。そんなのはシカトして、階段を一段飛ばしで駆け上がっていく。すれ違ったサラリーマン風のオッサンの狙撃するような視線を後ろに感じた。スカートが翻っておパンツ見えてんのかもしれないけど、見せパンだもん。一瞬の意地を張ってN坂を駆け下る。
……なんとか間に合った。
でも、冬だというのに汗だく。
朝食のカロリーはこれで使い切ってしまった。お腹がチョキに勝つ音(つまりグー)を派手に出した。まわりの人たちが笑いをこらえている。後ろの保坂穂波が、笑いながら鏡を貸してくれた。
「見てごらんよ、あ・た・ま」
「ん……」
セミロングが爆発していた。
乃木坂学院のアベックも、サラリーマン風のオッサンの視線は、ここにあったのかもしれない……くそ!
――いっそ、遅刻したほうがスガスガしいぞ――
省吾が、ノートにでっかく書いて見せる。その向こうで大杉が笑ってる。この場合大杉が笑ったのは許せる。でも省吾は許せない。
――あんたのせいなんだからね!――
「これ、食べなよ」
玉男がカロリーメイトをくれた。それを食べ終わったころ、監督の我が担任、山本先生が入ってきた。
「じゃ、試験配るから、机の上を片づけて」
教室に密やかな緊張感が走る。で、配られた試験用紙を見て声が出た。
「うそ!」
「なんだ冬野?」
「いいえ、なんでも……」
わたしってば、一時間目は現代社会だと思っていたら、数学だった……。
「ほんとに今日の真夏はバカだよな」
わたしの直球を馬鹿力で打ち上げて、省吾が言う。
「バカバカいわないでよね。今日のは省吾のせいなんだから」
「真夏に、なにかした、省吾?」
玉男が、打ち上げたフライを受け止める。
「なんにも」
「夕べの、映画の感想!」
「ああ、言ったろ。急がなくっていいって」
「でも、言われたら、イメージが膨らんじゃってさ!」
投げた球は、ピッチャーゴロになったけど、わたしは、そのゴロを取り損ねた。
「真夏、文芸部に入れば。あの感想文よく書けてたよ」
「……ありえない。あんなユルユルの文芸部なんて!」
「文芸部って、そんなもんヨ」
玉男が、取り損ねたボールを拾って投げ返してきた。
「真夏、おまえ文才あるよ。灯台もと暗しだった」
めったに人から誉められないわたしは、うろたえた。
「ね、お昼食べにいこうよ。わたし、朝からちゃんとしたもの食べてないから」
で、食堂ですますか駅前のファストフードにするかで、もめる三人でありました……(^0^)
空は、朝のドンヨリとはうって変わった裏切りの青空。
ま、いいか。
今の気分にはピッタリだし。
6『裏切りの青空』
「……まだ大丈夫」そう思って二度寝したのが悪い訳じゃない。
この世に生まれて十六年。部屋に差し込むお日さまの光の具合で、おおよその時間は分かる。念のためにセットアップした目覚ましも、五分早く設定してある。それで、まだ大丈夫と、五分の二度寝を自分に許した。
「せーの……!」
二度目の目覚ましのアラームで起きあがり、大あくび一つしてテレビを点ける。おなじみのキャスターが朝からオヤジギャグを飛ばしている。
え?
その右下の画面を見てタマゲタ。
タマゲタと言っても、どこかの大スターがが死んだとか、地震や大事故の速報があったわけでもない。時間が予定の八分先になっている。部屋の時計は呑気に八分遅れの時間を示している。
ドンヨリと薄暗い空模様に時間の感覚が狂ったんだ。
――ちっ! 百均の安物の乾電池を入れていたことが悔やまれた(引っ越し以来八か月、きちんと時を刻んでくれたんだから、ほとんど八つ当たり)
テスト期間中は、学校の始業時間が遅いので、お母さんの方が先に出てしまう。ま、わたしも子どもじゃないんで、自分の時間の管理ぐらいはできて……いた、今までは。
夕べ省吾が「デルスウザーラ」の感想文なんか頼んでくるから、わたしってば、そっちに時間くわれて、テスト勉強に支障をきたした。省吾に文句いわなっくっちゃ!
よくマンガやドラマで、遅刻しそうになった主人公が食パン咥えて駅まで走っていたりするけれど、実際にやってる人を見かけたことは無い。あれはドラマの演出。
じゃ、朝抜きで出かけるかというとそれもしない。朝は、なにかお腹に入れておかなければ血糖値があがらない。我が家では、親が離婚する前からの習慣。
で、生焼けのト-ストを、コーヒー牛乳で流し込んで、家を飛び出す。玄関のドアを閉めるときにエリカ(鉢植えのジャノメエリカ)が笑ったような気がしたが、そのまま駅までダッシュ。
千代田線のN駅で降りる。
改札を出たところに乃木坂学院のアベックの視線を感じる。なんだか見下されたような感じ。そんなのはシカトして、階段を一段飛ばしで駆け上がっていく。すれ違ったサラリーマン風のオッサンの狙撃するような視線を後ろに感じた。スカートが翻っておパンツ見えてんのかもしれないけど、見せパンだもん。一瞬の意地を張ってN坂を駆け下る。
……なんとか間に合った。
でも、冬だというのに汗だく。
朝食のカロリーはこれで使い切ってしまった。お腹がチョキに勝つ音(つまりグー)を派手に出した。まわりの人たちが笑いをこらえている。後ろの保坂穂波が、笑いながら鏡を貸してくれた。
「見てごらんよ、あ・た・ま」
「ん……」
セミロングが爆発していた。
乃木坂学院のアベックも、サラリーマン風のオッサンの視線は、ここにあったのかもしれない……くそ!
――いっそ、遅刻したほうがスガスガしいぞ――
省吾が、ノートにでっかく書いて見せる。その向こうで大杉が笑ってる。この場合大杉が笑ったのは許せる。でも省吾は許せない。
――あんたのせいなんだからね!――
「これ、食べなよ」
玉男がカロリーメイトをくれた。それを食べ終わったころ、監督の我が担任、山本先生が入ってきた。
「じゃ、試験配るから、机の上を片づけて」
教室に密やかな緊張感が走る。で、配られた試験用紙を見て声が出た。
「うそ!」
「なんだ冬野?」
「いいえ、なんでも……」
わたしってば、一時間目は現代社会だと思っていたら、数学だった……。
「ほんとに今日の真夏はバカだよな」
わたしの直球を馬鹿力で打ち上げて、省吾が言う。
「バカバカいわないでよね。今日のは省吾のせいなんだから」
「真夏に、なにかした、省吾?」
玉男が、打ち上げたフライを受け止める。
「なんにも」
「夕べの、映画の感想!」
「ああ、言ったろ。急がなくっていいって」
「でも、言われたら、イメージが膨らんじゃってさ!」
投げた球は、ピッチャーゴロになったけど、わたしは、そのゴロを取り損ねた。
「真夏、文芸部に入れば。あの感想文よく書けてたよ」
「……ありえない。あんなユルユルの文芸部なんて!」
「文芸部って、そんなもんヨ」
玉男が、取り損ねたボールを拾って投げ返してきた。
「真夏、おまえ文才あるよ。灯台もと暗しだった」
めったに人から誉められないわたしは、うろたえた。
「ね、お昼食べにいこうよ。わたし、朝からちゃんとしたもの食べてないから」
で、食堂ですますか駅前のファストフードにするかで、もめる三人でありました……(^0^)
空は、朝のドンヨリとはうって変わった裏切りの青空。
ま、いいか。
今の気分にはピッタリだし。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる