真夏ダイアリー

武者走走九郎or大橋むつお

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11『潤のタクラミ』

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真夏ダイアリー

11『潤のタクラミ』    


 心のモヤモヤはまた大きくなってきた……。

 モヤモヤに耐えきれずに、その晩、お母さんに聞こうとした、ごく日常的に。

「お母さん……あのさ」

「なに?」

 パソコンに向かっていたお母さんは、無防備な背中で返事をした。

「あの…………………………………………」

「なに…………………………………………」

 互いに、すごく非日常的な間が空いてしまった。


「明日、晴れるかなあ?」

「え……晴れだったと思うよ、テレビで言ってた」

「良かった」

「どうして……?」

「あ、明日省吾たちとでかけんの。だから、どうかな……って」

 口からでまかせ。出かける予定なんか無い……この寒空、明日は一人で出かけなきゃならなくなった。

 ポト

 エリカの蕾が音を立てて落ちた。母子ともに、気づかないふりをした。

 そこに、メールが、立て続けに二つ入ってきた。


 で、わたしは、省吾と並んで映画館のシートに収まっている。夕べの最初のメールが、これだった。


――映画のチケあるけど、行かねえか?――

 映画は、『のぼうの城』だった。省吾のお父さんが、株主優待チケ持ってて、それをもらったらしい。玉男は親類の用事でアウト。で、期せずしてのアベック。

 野村萬斎さんの、のぼう様は最高だった。こんなにお気楽で不器用。でもイザとなったらとんでもない閃きがあるオトコ……いいなあと思った。甲斐姫が羨ましくなった。

「いい映画だったな」

 マックで、遅いお昼を食べながら、省吾が明るく言った。

「アスカ・ラングレーのシール貼ってあげてよね」

「ああ、のぼう様なら、そうするだろうな」

 ささやかだけど、省吾に想いを寄せる、まだ見ぬYちゃんを応援した。

「どうする、これから?」

「ごめん、これから別口があるの」

「え……あ、真夏もがんばれや」

「ちがう、そんなんじゃないよ。相手は女の子」

「ハハ、どっちにしてもがんばれや!」

 省吾は、のぼう様のように真抜けた激励をして、トレーを片づけた。


 二つ目のメール。


――明日、Sホ-ルに来て。受付にチケ置いとく。「真夏」って言えば分かるようにしとく。変装よろしく。潤――

「真夏です」

 受付で、そう言うと、封筒とチケを渡された。帽子とマフラーで完全変装。サッと、封筒の手紙を読んで、会場へ。

 AKRのショ-は90分あった。歌やコントやトークショー。やっぱライブで見るとスゴイ。おとつい事務所のスタジオで見たときも、スゴイと思ったけど、ライブで見るとやっぱり圧倒される。

 潤は、最前列の左端に居た。むろんアイドルの可愛いスマイルで。

 ショーの半ばで、潤、萌、知井子のユニットの曲になった。


《ハッピークローバー》

 もったいないほどの青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり
 白い灯台に心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘

 ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先に白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー
 これはシロツメクサって、チイコがしたり顔してご説明

 諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印 
 茎は地面をはっていて所々から根を出し 高さおよそ20cmの茎が立つ草。茎や葉は無毛ですぞ

 なんで、そんなにくわしいの くわしいの

 いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて海の彼方よ

 ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー
 その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー

 四枚目のハッピー葉っぱは、傷つくことで生まれるの 
 踏まれて ひしゃげて 傷ついて ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 生まれるの
  
 そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの もう一人のわたしに

 ハッピー ハッピークローバー 奇跡のクローバー♪


 一番が終わると、スリーディーのバーチャルアイドルが現れて四つ葉のハッピークローバーになるという仕掛けになっている。こういうところで、他のアイドルグループとの差別化を図っているのかと感心した。

「それでは、みなさん、AKRの最新曲『冬の真夏』を聞いてください!」

 バーチャルアイドルが呼びかけると、選抜メンバーが勢揃いして、『冬の真夏』でフィナーレになった。

 わたしは、手紙に書いてあるように出待ちの子たちの中に混ざって、ホールの裏口に回った。

 やがてADの吉岡さんが、わたしを見つけて、手招きした。

「メンバーが出てきたら、ここで混ざって。このドアのすぐ横でね」

「は、はい」
 
 やがて、メンバーのみんなが現れた。リーダーのクララさんが目配せすると、あっと言う間に、わたしはメンバーの中に混ぜられて、バスに乗せられた……。

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