真夏ダイアリー

武者走走九郎or大橋むつお

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12『スキャンダル!?』

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真夏ダイアリー

12『スキャンダル!?』    



 やがて、メンバーのみんなが現れた。

 リーダーのクララさんが目配せすると、あっと言う間に、わたしはメンバーの中に混ぜられて、バスに乗せられた……。

 黒羽さんというチーフディレクターの人が、バスガイドみたいに立ち上がって手をメガホンにした。

「手短に言うよ。みんなも知ってるとおり、そこに居る冬野真夏さんと潤はそっくりだ。これについて、まず、潤、話して」

「びっくりするだろうけど聞いててね」

 わたしに小さな声で言うと、潤はマイクを持って立ち上がった。みんなが潤を見るために体をひねった。

「わたしと、真夏は、お母さんは違うけど姉妹なんです」

 ええ!?

 バスの中がざわめいた。

 わたしは心臓が口から飛び出しそうになった。

「お父さんの名前がいっしょだったんで、お父さんに問いつめたら、そう答えてくれました」

「それ……ほんと?」

 潤は、黙ってうなずき、黒羽さんが後をつづけた。

「マスコミは、こんなことすぐに嗅ぎつける。で、会長とも相談して、君たちにはあらかじめ知っておいてもらうことにした。そして知った上で、秘密にしてもらいたい。真夏さんは、あくまで潤のそっくりさん。そういうことで、了解してください」

「でも、いずれマスコミが嗅ぎつけるんじゃないですか?」

 リーダーの大石クララが質問した。

「ああ、でも真夏さんは、まだ何も知らないんだ。彼女の意思を尊重し、真夏さんが理解できて、気持ちが落ち着くまでは、伏せておきたい、いいね。AKRは仲間の心も、人の心も大切にする」

「はい」

 みんながいっせいに返事をした。

「ほんと、おどかしてごめんね」

 そう言って、潤は、事務所に着くまで、わたしの手を握っていてくれた……。

 事務所に着くと、わたしと潤の二人は、応接室に入った。

 応接室は暖房が効いていて、良い香りのお香が焚かれていた。

「よかったら、今から会ってもらいたいの……お父さんと」

 潤は、わたしと自分のブルゾンをハンガーに掛けながら聞いた。

「これから……!?」

「そう、これから」

「お父さんには、会えない」

「真夏……」

「会いたくない。たとえ、会いたかったとしても、こんな気持ちの整理もなにもついてない状況じゃ会えない」

「分かるわ、真夏の気持ちは。でも、これってほっとくとスキャンダルになっちゃう」

「潤……そのために、お父さんに会わせようとしてるの。自分のスキャンダルを食い止めるために……わたし、もう帰る!」

「真夏のためなのよ!」

「わたしの?」

「そう、スキャンダルになったら、真夏のとこにもマスコミが押し寄せて、有ること無いこと書き立てられ、週刊誌やテレビで、さらし者になっちゃうんだよ。わたしは、こんな仕事してるから、覚悟はしてる。でも、真夏には、そうなって欲しくない。マスコミは、そんなに甘いものじゃないのよ……て、ごめんね。真夏はなんにも悪くないのにね」

 潤の真剣な眼差し……わたしは圧倒されて、コックリうなずいた。

 小さなノックがして、ドアが開いた。

 わたしは、お母さんと言い争ったときほどじゃないけど、少しえづきそうになった。

 十年ぶりに会ったお父さんは、とりとめのない顔で一瞬とまどった。

「真夏……」

「ばか、わたしは潤よ!」

 それくらい、わたしたちは似ていた。

 でも、ちょっと説明がいる。潤は、このタクラミに責任を感じて、少し硬い表情になっていた。わたしはえづきを押さえるため、口元に力をいれていたので、それが、ちょっとめには余裕の頬笑みに見える。まあ、根本的にお父さんが狼狽えていたということだけど。

 それから、お父さんは、なにか言い訳めいたことを言ったけどよく覚えていない。ただはっきり分かったのは、お父さんは複雑な事情で小野寺になっていたこと。わたしの鈴木というカンムリはきれいさっぱり無くなって、わたしが、誰かのお嫁さんにでもならない限り「冬野真夏」という名前からは逃れられないということ。

 それから、事務所のスタッフが是非にということで、写真を撮った。

「マスコミ対策用。あとから押しかけて変な写真撮られる前に、こっちで用意しておいたほうがいい」

 黒羽ディレクターの深慮遠謀。

 写真はスタジオで、他のメンバーがいる中で撮られた。

 クララさん始め、メンバーが空気を和ませてくれた。その隙をねらって、百枚ほどの写真が撮られた。わたしは、ほとんどえづきそうだったんだけど、それでもAKRのメンバーのエネルギーは強烈で、直後に見せられた映像の何枚かは、クッタクのないソックリ娘二人と父親が楽しげに仲良く写っていた。やっぱ、この業界のやることはスゴイ。

「でも、これでお父さんのこと許したわけじゃないから」

「それは、分かってる……」

 最後は、やっぱり気まずく別れた。


 お母さんには、ありのまま話した。

 小野寺潤が娘とソックリだということは分かっていたようだけど、それが別れた亭主が、浮気相手との間に作った子だとは思わなかったようだ。
 浮気していたころの相手は相馬という苗字だった。お父さんは、離婚した後、浮気相手と結婚し、同時に浮気相手の伯父の夫婦養子になって小野寺になった。

 その夜、お母さんとは必要以上の会話をしなかった。

 エリカが満開近くになっていた。

 潤の話は本当だった。

 今日は朝から電話は鳴りっぱなし。わたしは、AKRの黒羽さんに教えられた通りのことを言った。

「その件につきましては、AKRの黒羽さんにお聞き下さい」

 午前中、家の玄関のベルが数回鳴った、回覧板を持ってきたお隣さん以外は電話と同じ答えをした。

 それが、昼からはピタリと止んだ。どうやら黒羽さんの対応が功を奏したようだ。

 テレビのバラエティーで、『AKR小野寺潤のそっくりさんとお父さん』とコラム的な扱いで、スキャンダルにはならずにすんだ。しかし、ネットには、あきらかに学校で撮られたと思われる写メが何枚か流れていた。その多くは爆発セミロングのころのもので、潤には似ていない。

―― クリスマスごろには落ち着く。それまで辛抱してね。ごめん潤 ――

 潤からメールが来た。

 省吾たちからも心配のメールが来ていた。友だちは、ありがたい。心をこめた返事を送信。あとは、布団被って寝ていようと思った。不思議なことに午後からはテレビで取り上げられることもなくなった。

 そうだ、今日は衆議院議員の選挙の日だ。アイドルのうわさ話なんか、半日の寿命だった。むろんAKRの黒羽さんたちの処理の上手さがあってのことだけど。
 
 ただ、わたしの中のモヤモヤは、いっそうつのるばかりだった。

 いつの間にか、エリカが満開になっていた……。

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