真夏ダイアリー

武者走走九郎or大橋むつお

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26『時間よ止まれ!』 

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真夏ダイアリー

26『時間よ止まれ!』    




 それは、歌のサビの部分でおこった。

 ハッピー ハッピークローバー 奇跡のクローバー♪

 そこで、バーチャルアイドルの拓美が現れる寸前、頭の上がムズムズすると思ったら……なんとライトが落ちてきた!

 ドワー!

 アイドルらしからぬ声を上げて、頭を抱えた……てっきり頭の上にライトが落ちてくる……と覚悟した。

 十秒……二十秒……何事もおこらない。

 おそるおそる目を開けると、ライトは空中で静止していた……だけじゃない。スタジオの全てがバグったように静止している。

 知井子は、落ちてくるライトにいち早く反応し、椅子から転げ落ちる姿勢のまま固まり、萌と潤は気づかずに、「え?」という顔のまま。その視線の先にはADさん達が落ちてくるライトに気づき、みなライトの方角を見ていた。吉岡さんは、反射神経がよく、わたしたちを助けようとして、およばずながらフライングの姿勢。

 ディレクターは「危ない!」の「ぶ」の口をして、唾が五十センチほどのところで、壊れたスプレーからふきだしたように、止まっていた。

「やっぱり、キミの力は本物だ」

 スタジオにだれかが入ってきた。

「……だれ!?」

「おどかして、すまん。わたしだよ、真夏さん」

 その人は、明かりの中に入ってきた……。

「……省吾のお父さん」

「最後に、もう一度、真夏さんの力を試すことを条件にしてもらったんだ」

「条件……わたしの力?」

「キミは、時間を止めたんだよ」

「わたしが……?」

 わたしは、世界中が静止してしまった中で、省吾のお父さんと向き合っていることが苦痛で、心臓がバクバクしてきた。

「無理もない、こんなことが起こっちゃ混乱するよね……」

 お父さんは、手のひらをヒラリとさせた。頭が一瞬グラリとしたが、全ての情報がいっぺんに頭の中に入ってきた……。

「……歴史を変えるんですか……このわたしが?」

「そう、わたしたちの時代の人間が遡れるのは、この時代が限界なんだよ。省吾の能力が高いので、しばらくやらせてみたが、あの子だけじゃ無理なんだ。もうバグが出始めている」

「省吾が過年度生だっていうのは、作った情報なんですね」

「ああ、何度か過去とこの時代を行き来させているうちにずれてきてしまってね。それに、なにより……」

「……もう省吾は限界なんですね」

「無理をして過去に行かせているうちに歳をくってしまった。省吾の実年齢は二十歳だ」

「で、自覚もないんですよね、過去に行ってるって」

「うん、任務を与えられ、過去にいっている間は分かっているが、この時代に戻ってきたら記憶は消えている。だから、任務の経験が積み重ならず成果ががあがらない」

「……ばかりか、省吾に障害が出てくるんですね」

「ああ、行ったきり戻ってこられなくなるか、精神に障害が出てくる」

「で、わたしに、これを渡したんですね」

「ああ、真夏さんは使いこなしている。異母姉妹の潤さんにソックリにもなれるし、こうやって時間を止めることもできる。あのライトをもとにもどしてごらん」

「そんなこと……」

「できるよ、キミなら」
 
 わたしは――ライトよもどれ――と念じた……ライトは音もたてずにもとに戻っていった。

「真夏さん。キミにやってもらっても、遡れる過去には限界がある。我々も研究はしているが、今のところ八十年が限界だ。その限界の中で何ができるか、分かり次第伝えるよ。他の情報は圧縮してキミの頭脳にダウンロードしておいた。ゆっくり解凍して理解してほしい。さあ、もう時間をもどした方がいい。二秒前を念じて、時間を動かしてくれるかい」

「はい……」

 ザワワワ

 時間が戻ってスタジオの喧噪が蘇った。

「真夏、なに上見てんの。イケメンの照明さんでも見つけたか?」

 MCのユニオシが振ってきた。

「あ、棚からぼた餅!」

「だよな、お前、アイドルになったの、ほんの一週間前の棚ぼただもんな」

「はい、ラッキーガールなんです。ラッキービーム! ビビビビ!」

 みんなにウケた。

「じゃ、ラッキービームで厄落とし。潤と漫才やれ!」

 ユニオシがムチャブリ。

 しかし、めげることなく。潤と漫才をやってのけ、今年も、あと一日となった……。

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