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30『初夢・桃子の大冒険』
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真夏ダイアリー
30『初夢・桃子の大冒険』
風邪をひいてしまった。
昨日の一日ゴロゴロが悪かったのか、それとも、この三十日間の無理がたたったのか、少し熱がある。
そもそも初夢が悪かった。
初夢って、正確には元日の夜から二日にかけて見た夢のことをいうんだろうけど、わたしは夢を見なかった。だから、わたし的には、これが初夢。
気が付くと(夢の中で)狭いところに閉じこめられていた。
不思議なもので、それが大きな桃であることが分かった。なぜ分かったかというと、カメラの切り替えが効いて視点の変更ができる。まあ、アクションRPGとかによくある機能。で、カメラを切り替えると、わたしは大きな桃の実の中に入って川をドンブラコドンブラコと流されている。
――わたしってば、桃太郎になってるじゃん!
そう、わたしは元気な男の赤ちゃんになって桃の中。なんで男の子かっていうと、こういうシュチュエーションて、桃太郎だし、股ぐらを見ると、立派な男の子のシンボルが付いていた。
しばらく行くと、川辺でオバアサンが洗濯をしている。
「このオバアサンが拾ってくれるんだ!」
しかし、オバアサンは、洗濯に夢中なのか、目が悪いのか、それとも桃が嫌いなのか、ひどく都会的な無関心さで、わたしのことを無視していく。
――おーい、おーい、と、わたしは叫ぶんだけど、とうとう目の前に来ても、オバアサンは気づかない(フリかもしれない)。声を限りに叫ぶんだけど、オバアサンは気づかない……完全なシカトだ……。
わたしは、さらに流されていく。
時々川辺に人の姿も見かけたけど、だれも、わたしに気づこうともしない。群衆の中の孤独というものを初めて感じた。
数日がたった。
桃は、熟してきた……ってか、腐る一歩手前。
中のわたしはクサっていた。そういう投げやりな気持ちがよくないのだろう。股ぐらの男の子のシンボルは、すっかり萎びて無くなってしまった。
「あ……桃太郎じゃなくて、桃子になっちゃったあ(;'∀')」
そう思ったとき、わたしは桃ごと川から引き上げられる感じがした。
「こんなモノが流れていちゃ、世間の迷惑だわ……でも、この桃は食べ頃ね」
そう言ってオバアサンが拾ってくれた(最初のとは別人)
「あなた、今オバアサンって言った?」
オバアサンがカランできた。
――いいえ、オバサンです。
「そうよ、いまどきオバアサンてのは、七十過ぎなきゃ言わないのよ」
オバアサン……オバサンは、そう言って、ログハウスに連れていってくれた。
やがて、おじいさん……いえ、オジサンが帰ってきて、めでたく入刀式の運びとなった。
「わ、女の子が入ってるじゃないか!」
「え、てっきり桃が喋ってるんじゃないかと思った……」
「……ふつう桃が喋るか?」と、オジサン。
「だって、AKBなんか、お野菜のかっこうして歌ってたりするじゃん……」
「そうだ、可愛く育てて、AKBみたいなアイドルにしよう!」
「そうよ鈴木桃子って、かわいいじゃん!」
よく見ると、そのオバサンとオジサンは、お母さんとお父さんに、そっくりだった……。
わたしは、大きくなり、それなりに可愛く育ち、あちこちのオーディションを受けまくった。
「……こんどもダメだったわね」
「次ぎがダメなら、ハローワークにいきます」
冗談のつもりで、そう言った。
「そうしてくれる。わたし、もう疲れちゃった……」
予想に反して、マジな反応が返ってきたのでうろたえた。
――ももクロウ・Z オーディション――の看板が突然目に入ってきた。
「これだ!」
わたしとオバサンは、同時に声をあげた。
オーディションは、なぜか、握力、五十メートル走みたいな体力測定を中心に行われた。わたしは平均的な成績だったが、最後のテストでダントツの好成績だった。
それは、「桃太郎のお話のあらすじを書きなさい」というものだった。こんなの楽勝。他の子は、連れてく家来が何だったか、やったスィーツがなんだったかで、苦労していた。
で、まあ、アイドルとしての最低の国語能力のテストぐらいに思っていた。
最後の最後が、コスの審査。水着とかだったらやだったんだけど、その心配は無かった。大型冷蔵庫みたいな小部屋に入ると、一瞬でコスになる。反対側のドアを開けると、審査員が並んでいる。
他の子達は戸惑っていた。だって、そのコスは、桃太郎のそれだったから……。
「おめでとう、キミがももクロウ・Zの最終合格者だよ!」
審査委員長のおじさんが、賞状をくれた。その審査委員長の顔は……省吾のお父さんの顔だった。
いやな初夢だった……風邪の症状はあいかわらず。グズグズの正月の三日目だ……。
30『初夢・桃子の大冒険』
風邪をひいてしまった。
昨日の一日ゴロゴロが悪かったのか、それとも、この三十日間の無理がたたったのか、少し熱がある。
そもそも初夢が悪かった。
初夢って、正確には元日の夜から二日にかけて見た夢のことをいうんだろうけど、わたしは夢を見なかった。だから、わたし的には、これが初夢。
気が付くと(夢の中で)狭いところに閉じこめられていた。
不思議なもので、それが大きな桃であることが分かった。なぜ分かったかというと、カメラの切り替えが効いて視点の変更ができる。まあ、アクションRPGとかによくある機能。で、カメラを切り替えると、わたしは大きな桃の実の中に入って川をドンブラコドンブラコと流されている。
――わたしってば、桃太郎になってるじゃん!
そう、わたしは元気な男の赤ちゃんになって桃の中。なんで男の子かっていうと、こういうシュチュエーションて、桃太郎だし、股ぐらを見ると、立派な男の子のシンボルが付いていた。
しばらく行くと、川辺でオバアサンが洗濯をしている。
「このオバアサンが拾ってくれるんだ!」
しかし、オバアサンは、洗濯に夢中なのか、目が悪いのか、それとも桃が嫌いなのか、ひどく都会的な無関心さで、わたしのことを無視していく。
――おーい、おーい、と、わたしは叫ぶんだけど、とうとう目の前に来ても、オバアサンは気づかない(フリかもしれない)。声を限りに叫ぶんだけど、オバアサンは気づかない……完全なシカトだ……。
わたしは、さらに流されていく。
時々川辺に人の姿も見かけたけど、だれも、わたしに気づこうともしない。群衆の中の孤独というものを初めて感じた。
数日がたった。
桃は、熟してきた……ってか、腐る一歩手前。
中のわたしはクサっていた。そういう投げやりな気持ちがよくないのだろう。股ぐらの男の子のシンボルは、すっかり萎びて無くなってしまった。
「あ……桃太郎じゃなくて、桃子になっちゃったあ(;'∀')」
そう思ったとき、わたしは桃ごと川から引き上げられる感じがした。
「こんなモノが流れていちゃ、世間の迷惑だわ……でも、この桃は食べ頃ね」
そう言ってオバアサンが拾ってくれた(最初のとは別人)
「あなた、今オバアサンって言った?」
オバアサンがカランできた。
――いいえ、オバサンです。
「そうよ、いまどきオバアサンてのは、七十過ぎなきゃ言わないのよ」
オバアサン……オバサンは、そう言って、ログハウスに連れていってくれた。
やがて、おじいさん……いえ、オジサンが帰ってきて、めでたく入刀式の運びとなった。
「わ、女の子が入ってるじゃないか!」
「え、てっきり桃が喋ってるんじゃないかと思った……」
「……ふつう桃が喋るか?」と、オジサン。
「だって、AKBなんか、お野菜のかっこうして歌ってたりするじゃん……」
「そうだ、可愛く育てて、AKBみたいなアイドルにしよう!」
「そうよ鈴木桃子って、かわいいじゃん!」
よく見ると、そのオバサンとオジサンは、お母さんとお父さんに、そっくりだった……。
わたしは、大きくなり、それなりに可愛く育ち、あちこちのオーディションを受けまくった。
「……こんどもダメだったわね」
「次ぎがダメなら、ハローワークにいきます」
冗談のつもりで、そう言った。
「そうしてくれる。わたし、もう疲れちゃった……」
予想に反して、マジな反応が返ってきたのでうろたえた。
――ももクロウ・Z オーディション――の看板が突然目に入ってきた。
「これだ!」
わたしとオバサンは、同時に声をあげた。
オーディションは、なぜか、握力、五十メートル走みたいな体力測定を中心に行われた。わたしは平均的な成績だったが、最後のテストでダントツの好成績だった。
それは、「桃太郎のお話のあらすじを書きなさい」というものだった。こんなの楽勝。他の子は、連れてく家来が何だったか、やったスィーツがなんだったかで、苦労していた。
で、まあ、アイドルとしての最低の国語能力のテストぐらいに思っていた。
最後の最後が、コスの審査。水着とかだったらやだったんだけど、その心配は無かった。大型冷蔵庫みたいな小部屋に入ると、一瞬でコスになる。反対側のドアを開けると、審査員が並んでいる。
他の子達は戸惑っていた。だって、そのコスは、桃太郎のそれだったから……。
「おめでとう、キミがももクロウ・Zの最終合格者だよ!」
審査委員長のおじさんが、賞状をくれた。その審査委員長の顔は……省吾のお父さんの顔だった。
いやな初夢だった……風邪の症状はあいかわらず。グズグズの正月の三日目だ……。
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