真夏ダイアリー

武者走走九郎or大橋むつお

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57『ジェシカ!!』

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真夏ダイアリー

57『ジェシカ!!』    


 一瞬光が走り、わたしとトニーは、元の空港にテレポした……。

 わたしが、ミリーではなく真夏であったこと。そして、自分の意思ではなく急にテレポさせられたことで、トニー(省吾のアバター)は気絶していた。

 彼方の空には、アメリカ軍の攻撃によって墜ちていったダグラスの煙が、染みのように残っていた。

「よかった、あの飛行機といっしょに撃墜されたかと思った」

 ジェシカは、親友が無事に帰還したように喜んでくれた。ジェシカは、簡単な説明をしただけで、未来人であるわたしと省吾のことは理解してくれた。そして、この省吾を騙す芝居にも付き合ってくれたのだ。

「で、このトニーは、もう元のトニーなの?」
「いいえ、まだよ。気が付いたら説得する。その前に……」

 わたしは、トランク型の原子爆弾に手を伸ばした。

 うかつだった。トランクとトニーの手はチェ-ンで繋がれていて、トニー、いえ、省吾が目を覚ました。

「触るんじゃない!」

 省吾は、トランクを抱えると、わたしたちから距離を取り始めた。

「省吾、お願い、バカな真似は止めて!」

「真夏、おまえは分かってないんだ。この戦争をやめなければ、真夏にも言えない怖ろしいことがおこるんだ」

「他に方法が……」

「ない。もう、あらゆる手段を尽くしてきた。真夏自身、こないだワシントンで失敗したばかりじゃないか」

「だからって……」

「きみたちには悪いが、ここで原爆を起爆させてもらうよ。予定より遙かに多い人が犠牲になるが、仕方がない……真夏がタイマーを壊したから、ちょっと手間だけどね」

 省吾は、チェ-ンを外し、トランクのロックを解除した。

「省吾……!」

「君たちは、殺したくない。今すぐ車で、ここを離れるんだ。10分待つ。10マイルも離れれば大丈夫だ」

 体の中を熱い血と冷たい血が、同時に流れたような気がした。

「そう……じゃ、さっさと、そうさせてもらうわ。こんな気の狂ったやつと話しても無駄だわ。あんたたちも早く!」

 そう言うと、ジェシカは、銃を捨てて走り出した。

「ねえ、あなたは、元々はトニーなんでしょ。今は省吾に乗っ取られてるけど、トニーは目覚めているんでしょ。そうでなきゃ、たった今、説明なんかしなかったわよ。あっさりボタン押して爆発させているわ。わたしたちに10分の猶予をくれたのは……あなたの中のトニーがさせたことでしょ」

「ミリー、早く逃げるんだ。ぼ、ぼくには……それしかできない」

「トニーが目覚めかけてる……」

「トニー、そんなもの捨てて。こっちに来て!」

「ダメ、省吾の呪縛は、そんなに甘いもんじゃない。それに……」

 言葉を続けようとすると、滑走路を横切って、一台のクーペがヘッドライトを点けたまま走ってきた。省吾は一瞬ヘッドライトのまぶしさにたじろいだ。

 その瞬間、クーペは省吾の真横を通り、運転席から飛び出したジェシカがトランクを奪い取り、滑走路を転げた。

「ジェシカ!!」

 三人の言葉が重なり、わたしは……しかたなく指を動かした。

 同時に、ジェシカの姿は、トランクと共にかき消えてしまった。無人のクーペは、滑走路を横切り、土手に乗り上げ横転していた。

「ジェシカ……」
「テレポさせた」
「どうして、どこに!?」

「あの原子爆弾は、あいつの手を離れると、三秒で爆発する……ああするしか仕方がなかった」

 どこか時空の彼方から、アレが爆発した気配が伝わってきた。

「ミリー、十秒だけ息を止めて」
「え……?」
「早く!」

 直後、弱かったが、時空の閉じきれない裂け目から、放射能を含んだ風が吹いてきた。

「あ、トニー!」

 ジェシカが消えたのと反対の方向。そこに呪縛の解けたトニーと、元の姿に戻った省吾が横たわっていた。

「トニー、トニー!」

 ミリーは、トニーを抱き上げる。

「大丈夫。ショックで気絶してるだけ。すぐに目が覚めるわ」

 わたしは、その横に芋虫のように転がっている省吾から目が離せなかった。
 
 その姿は、まるで、九十歳のおじいさんのようだった。

 ぐっとせき上げてくるものがあったけど、ミリーの気持ちを思うと、表情には出せない。

「まるで、魔法使いのおじいさん!」

 ミリーが吐き捨てるように言った。

「ごめんね、ミリー。ジェシカのこともごめん……とりあえず、こいつを連れて帰る。どうしていいか分からないけど……分からないけど、出来る限りのことはする」

「ジェシカは、親友だったんだから。ジェシカだって、ほんとはトニーのこと好きだったんだから!」

「……分かってる」

 そう言うのが精一杯だった。

 ジーナが、わたし達を呼び戻していた……。
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