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59『鼻が膨らむ幸せ』
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真夏ダイアリー
59『鼻が膨らむ幸せ』
気が付くと、テーブルを挟んでジーナさんが四阿(あずまや)の中で横倒しになっている。
「おかえり……」
ジーナさんの声で平衡感覚が戻ってきた。横倒しになっているのは、わたしの方だ。
子猫のように丸まって四阿のベンチに戻ってきた……そして、ジェシカのことが思い出された。
勢いで、最後の一面が見えた。なぜだかジェシカの顔が写った……しまった!
わたしの記憶は、そこで途切れている。
「ジェシカ、ジェシカは、どうなったんですか!?」
「サイコロは六面。その六面が見えた時にジェシカのことを思ってしまったのね」
「はい、ジェシカのこと助けたかったから……つい」
「サイコロに写ってしまったから、原爆といっしょにネバダ砂漠には行ってはいない」
「じゃ、ジェシカ、助かったんですね……」
「命はね……でも、大きな時空の流れの中に放り出されて、どこにいるのか分からない」
「じゃ……?」
「生きてはいる。あとは探すだけ……ちょっと時間はかかるかもしれないけど」
「わたしってば……」
「ほとんど奇跡よ。たった三秒で、鎖を切って、原爆を始末。トニーと省吾を分離させ、それぞれ、あるべきところにテレポ。そして、自分も無事にここに戻ってきた。あたりまえなら、ニューヨ-クの上空、原爆の爆発で蒸発していたところよ……」
「でも、ジェシカを……こないだは、ジョージ(ワシントンのお巡りさん)を見殺しにして、そして、なんにも変えることもできない」
「それほど難しいんだよ。歴史を変えるということは……」
四阿の入り口で、省吾のお父さんの声がした。
「お父さん……白髪がなくなったんですね」
「いや、ボクは省吾だよ」
「え……?」
「お父さんは、帰ってしまわれたのね」
「ええ、ジーナさんにも、真夏にも会わせる顔が無いって……ボクは真夏のおかげで、老化はこのレベルで済んだ」
疲れていたんだろうか、もう怒る気持ちも湧いてこなかった。
「ニューヨークの港で原爆を爆発させる。多少の犠牲者は出るが、広島や長崎の数百分の一で済んだ。そして、その二日後のミッドウエー海戦を日本の勝利にする。ハワイは三ヵ月で占領。そこで講和が成立するはずだった」
「……そんなに、あの戦争で、日本を勝たせたいの?」
「勝つんじゃない、講和だよ。無条件降伏したんじゃ……」
「それ以上は、真夏さんには言わないで」
ジーナさんが、きっぱり言った。
「ですね、もう真夏の時代でもひずみが出始めている……じゃ、ボクはこれで」
「また行くの?」
「ご心配なく、もう原爆を持っていったりしませんから……じゃあな、真夏」
省吾は、後ろ姿で手を振りながら行ってしまった。そして、その姿は海への階段に差しかかったあたりで、モザイクになり、数秒で消えてしまった。
「もう、あなたの世話にならずに済めばいいんだけど……」
ジーナさんの言葉は、最後までは聞こえなかった。わたし自身、元の世界に戻っていった。
「ブログは、ちゃんと更新してる?」
潤は、自分の部屋に入るなり、スリープのパソコンをたたき起こして言った。
「ううん、あんまし……ウワー、潤のブログって可愛いじゃん!」
「ベースは事務所の人に作ってもらったの。あとは、その日その日あったことテキトーに書いとくだけ」
「わたしも作ってもらおうかな……」
「そうしなよ、わたしなんか季節ごとに替えてもらってんの。あ、スクロールしたら、前のバージョンなんか分かるわよ」
「ふーん……なるほど」
以前は、ここでバグって、「司令第二号」が出てきた。今度は、何事もなく、潤の可愛くも他愛のないブログが出てくる。
「いま、他愛もないこと書いてると思ったでしょう?」
「そんなこと……」
「あるある。真夏が、そんなこと思う時って、鼻が膨らむんだもん」
「うそ……!」
そう言いながら、わたしは、しっかり自分の鼻を手で隠していた。
「ほらほら、それってわたし達二人共通のクセ。メンバーの中じゃ評判なんだよ。いい、こういうさりげない内容が……」
そう熱心に説明してくれる異母姉妹を、とても愛おしく思った……。
59『鼻が膨らむ幸せ』
気が付くと、テーブルを挟んでジーナさんが四阿(あずまや)の中で横倒しになっている。
「おかえり……」
ジーナさんの声で平衡感覚が戻ってきた。横倒しになっているのは、わたしの方だ。
子猫のように丸まって四阿のベンチに戻ってきた……そして、ジェシカのことが思い出された。
勢いで、最後の一面が見えた。なぜだかジェシカの顔が写った……しまった!
わたしの記憶は、そこで途切れている。
「ジェシカ、ジェシカは、どうなったんですか!?」
「サイコロは六面。その六面が見えた時にジェシカのことを思ってしまったのね」
「はい、ジェシカのこと助けたかったから……つい」
「サイコロに写ってしまったから、原爆といっしょにネバダ砂漠には行ってはいない」
「じゃ、ジェシカ、助かったんですね……」
「命はね……でも、大きな時空の流れの中に放り出されて、どこにいるのか分からない」
「じゃ……?」
「生きてはいる。あとは探すだけ……ちょっと時間はかかるかもしれないけど」
「わたしってば……」
「ほとんど奇跡よ。たった三秒で、鎖を切って、原爆を始末。トニーと省吾を分離させ、それぞれ、あるべきところにテレポ。そして、自分も無事にここに戻ってきた。あたりまえなら、ニューヨ-クの上空、原爆の爆発で蒸発していたところよ……」
「でも、ジェシカを……こないだは、ジョージ(ワシントンのお巡りさん)を見殺しにして、そして、なんにも変えることもできない」
「それほど難しいんだよ。歴史を変えるということは……」
四阿の入り口で、省吾のお父さんの声がした。
「お父さん……白髪がなくなったんですね」
「いや、ボクは省吾だよ」
「え……?」
「お父さんは、帰ってしまわれたのね」
「ええ、ジーナさんにも、真夏にも会わせる顔が無いって……ボクは真夏のおかげで、老化はこのレベルで済んだ」
疲れていたんだろうか、もう怒る気持ちも湧いてこなかった。
「ニューヨークの港で原爆を爆発させる。多少の犠牲者は出るが、広島や長崎の数百分の一で済んだ。そして、その二日後のミッドウエー海戦を日本の勝利にする。ハワイは三ヵ月で占領。そこで講和が成立するはずだった」
「……そんなに、あの戦争で、日本を勝たせたいの?」
「勝つんじゃない、講和だよ。無条件降伏したんじゃ……」
「それ以上は、真夏さんには言わないで」
ジーナさんが、きっぱり言った。
「ですね、もう真夏の時代でもひずみが出始めている……じゃ、ボクはこれで」
「また行くの?」
「ご心配なく、もう原爆を持っていったりしませんから……じゃあな、真夏」
省吾は、後ろ姿で手を振りながら行ってしまった。そして、その姿は海への階段に差しかかったあたりで、モザイクになり、数秒で消えてしまった。
「もう、あなたの世話にならずに済めばいいんだけど……」
ジーナさんの言葉は、最後までは聞こえなかった。わたし自身、元の世界に戻っていった。
「ブログは、ちゃんと更新してる?」
潤は、自分の部屋に入るなり、スリープのパソコンをたたき起こして言った。
「ううん、あんまし……ウワー、潤のブログって可愛いじゃん!」
「ベースは事務所の人に作ってもらったの。あとは、その日その日あったことテキトーに書いとくだけ」
「わたしも作ってもらおうかな……」
「そうしなよ、わたしなんか季節ごとに替えてもらってんの。あ、スクロールしたら、前のバージョンなんか分かるわよ」
「ふーん……なるほど」
以前は、ここでバグって、「司令第二号」が出てきた。今度は、何事もなく、潤の可愛くも他愛のないブログが出てくる。
「いま、他愛もないこと書いてると思ったでしょう?」
「そんなこと……」
「あるある。真夏が、そんなこと思う時って、鼻が膨らむんだもん」
「うそ……!」
そう言いながら、わたしは、しっかり自分の鼻を手で隠していた。
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