真夏ダイアリー

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
69 / 72

69『今度はうまくいく!?』

しおりを挟む
真夏ダイアリー

69『今度はうまくいく!?』    



「OSS(CIAの前身)が訓電を傍受し始めた、こちらも急ごう。そっちのモニターに出てる訓電を、記録上のものと照合してくれないか」


「え……すごい、もう十四部全部がそろってる」

「ああ、外務省が暗号化する前のものだよ。外務省の書記官の頭に細工をしてある。彼が筆記した段階で、こっちに届くようにしてある」
「わたしが、やったときより進歩している」
「そりゃ、こっちに半年もいるからね。いろいろと細工はしてある」
「……以前の訓電と中味はいっしょよ」
「よかった。単語一つ違っても、アウトだからね。じゃ、それをそのままプリントアウトして、大使に持っていってくれ。おれは、OSSの解読装置にブラフをかける」
「どんなブラフ?」
「解読したら、源氏物語の原文になる。まあ、日本の古典文学の勉強をしてもらうさ」

 コンビニのコピー並の早さで十四部の訓電が正式な書式の平文で出てきた。

「大使、訓電です。もう正式な外交文書の書式になっています」
「すごいね、暗号文を組み直して、文書にするのに、普通でも二時間はかかるよ」
「そのために、わたしと高野さんがいるんです」
「そうだったね。来栖さん、こりゃ祝勝会の準備だね」
「そりゃ、国務長官に渡してからですね、大使館の周囲に怪しげな車が四台停まっています」

 ブラフをかけおえた高野(省吾)がやってきた。

「OSSかね?」
「いえ、もっと下っ端の警察です。大使館から出てくる車は、十二時までは足止めするようにだけ命じられています」
「最後通牒を間に合わなくさせるため……だね?」
「ダミーの公用車を先行させます」

 窓から、大使の専用車が一台出て行った。

「あんなもの、いつの間に用意したんだね!?」
「これが、わたしの仕事ですから。あの車は半日ワシントンDCを走り回ります……二台が付いていきましたね」

 それから、大使二人は本当にポーカーを始めた。どういうわけか、高野まで加わりだした。

「負けたら、祝勝会の費用は機密費から出させてもらいます。それぐらいの流用はいいでしょう」

 海軍出身の野村大使はニヤニヤし、生粋の外交官である来栖特命大使は苦い顔をした。

 真夏も苦い顔になった。大使が出発するまでの間、ダミーの操作と把握は、真夏まかせである。

「高野君、顔色が良くなってきたね」
「ええ、いいカモが二匹もいますからね」

――なによ、わたしが来たから、老化が止まったんじゃない――

「あ、ダミーが検問にかかりました」
「え、国務省には近寄らないようにしてあるのに」
「それが、かえって怪しまれたんじゃないですか」
「あの車には、誰が乗って居るんだね?」
「自分の部下です。真夏君ほど優秀じゃありませんが」

――なによ、ただのアバターじゃないのよ――
――アバターなんて概念は、このお二人には分からないからね。二台目を出して――

 真夏は、PCを使って二台目のダミーを出した。瞬間二台の車が動き出したが、二人が張り込みで残った。

 ポーカーが来栖大使の負けで勝負がついたときに時間がきた。

 前回と同様に、アメリカ人職員の車に大使二人と高野、そして運転は真夏だった。

「あれ、あの張り込みの二人、車に気づかないな」
「きっと週末のデートのことでも考えてるんでしょ」

 ほんとうは、光学的なステルスがかけてあった。ツーブロック行って右折してから、ステルスを切った。ステルスのままでは、いつ事故をおこすか分からないからだ。

 そして二十分後には無事国務省に着き、これも前回同様、秘書官を煙に巻いて、時間通りハル国務長官に最後通牒を渡すことが出来た。

――このままだと、もみ消されてしまうわよ――
――そう、これからが勝負――
 
 高野(省吾)は腕時計のリュウズを押した……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

処理中です...