真夏ダイアリー

武者走走九郎or大橋むつお

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68『省吾との再会』

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真夏ダイアリー

68『省吾との再会』    



「ノックはしたんですが、お気づきになられないようなので、失礼しました」

 来栖大使がメガネをずらして、わたしを見あげる。


「君、悪いが席を外してくれたまえ。野村大使と話があるんだ」
「男同士の飲み会だったら、ご遠慮しますが、外務省からの機密訓電だったら同席します」
「君は……?」
「東郷さんから、この件については彼女を同席させるように……ほら、これだよ」

 野村大使は、わたしに関する書類を来栖さんに見せた。

「しかし、こんな若い女性を……それに君はポーランドの血が……」
「四分の一。来栖さんの息子さんは、ハーフだけど陸軍の将校でいらっしゃる。一つ教えていただけませんか。外交官の資質って、どんなことですか?」
「明るく誠実な嘘つき」
「明るさ以外は自信ないなあ。三つを一まとめにしたら、なんになりますか?」
「インスピレーション……かな、来栖さん」
「よかった、経験だって言われなくて。わたしは外交官じゃないけど、今度の日米交渉には、くれぐれも役に立つように言われてるんです、東郷外務大臣から」
「と、言うわけさ。来栖さん」
 
 ここまでは、前回と同じだった。

 ジョ-ジとの出会いもそのままだったので違和感はない。

 しかし、ここからは、新しい展開だった。

「君の言った通りだ、入ってきたまえ高野君」
「失礼します」

 入ってきたのは、四十過ぎの気のよさそうなおじさんだった。ただ、少し顔色が悪い。

「高野君の言ったとおりの女性だ。度胸もいいし、機転も利く。あとは、君のようなスキルがあるかどうかだが」
「それは、大丈夫です。日本で十分鍛えておきましたから」

 なんのことだろう、この高野という人物についての情報はインストールされていない……。

「じゃ、さっそく仕事にかかろう」
「真夏君は、いま来たところだ。荷物の整理ぐらい……」
「間もなく訓電が入ってきます、時間がありません。この数時間が勝負です。それが終わったら、祝勝会をやりましょう。大使のおごりで」
「どっちの大使かね、ここにはわたしと、特命大使の来栖君の二人がいるんだがね」
「ポーカーでもやって決めておいてください。なんなら両大使お二人でという、わたし達には嬉しい選択肢もありますがね」
「ハハ、さすが山本さんの甥だ」

 野村大使が笑った。

「かなわんな、高野君にかかっちゃ」

 来栖大使も眉を八の字にした。かなりの信頼を得ているようだ。それにしても、省吾は……。

「分からないか、ボクが省吾だよ」

 通信室に入るなり、高野が言った。


「え……!?」
「もう高校生には、見えないけどね」
「ほんとに、省吾なの……!?」
「ああ、根性で、踏みとどまってるけど、もう二時間ほどが限界だった。ぼくの実年齢は八十に近いんだ」
「高校生にもみえないけど、八十のオジイチャンにも見えないわ」
「加齢は、内臓に集中させてある。外見は四十前さ。ここでの設定は山本五十六の甥ということにしてある。リベラルな二人の大使の信用を勝ち得るのには最適な設定だ」
「ほんとに……ほんとに省吾なの……?」
「ちょっと残念な姿だけどね」

 熱いものがこみ上げてきた。

「で……わたしは何を?」
「それはインストールされているだろう。側にいてくれるだけでいい」
「やっぱり……」
「そう、このタイムリープは、かなりの無茶をやっている。真夏が、ぼくのタイムリープのジェネレーターなんだ」

 限界を超えたタイムリ-プをすると急速に歳をとり、やがては死に至る。それを防ぐために必要なのが、ジェネレーターの存在。適合者は数千万人に一人。省吾のタイムリープの限界2022年に絞れば、何十億人に一人の割でしかない。頭では理解しているが、心では少し違った感情があった。それを察したのか省吾は、優しくハグしてくれた。

「ただの適合者というだけで、無理ばかりさせて……ごめん。この歴史を変えたら解放してあげられるから、もう少し……」

―― 解放なんかされなくていい、オジサンになっていてもいい。省吾の側にいられるなら。役に立つなら ――

 わたしの心は、省吾への気持ちで溢れそうになった。その時、省吾の体が、一瞬ピクリとした。

「真夏、ヒットした!」

 一瞬、想いを悟られたかと思ったが、省吾は、レトロな無線機に見せかけたCPに飛びついた……。
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