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217『請願巡査・2』
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魔法少女マヂカ
217『請願巡査・2』語り手:マヂカ
原宿署から派遣されました、請願巡査・箕作健人(みつくりけんと)であります。
屋敷の者が揃ったところで、箕作巡査は端正な姿勢で敬礼を決めた。
上背があって、足が長いので、巡査よりは騎兵科の将校が似合いそうな男だ。
「箕作巡査のお爺様は、我が高坂藩で馬廻り役を務めておられました」
執事長の紹介に一同から声にならない驚きが湧いた。
プラチナブロンドに青い目の箕作は、衣装さえ変えれば、イギリス大使館の駐在武官で通用しそうだ。
「母が英国人ですので、こんな外見をしておりますが、中身は生粋の日本男児であります。一か年の任期いっぱい務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
続いて高坂家の人間の紹介になったが、人数が多いので割愛。
五分ほどで双方の紹介が終わると、箕作は守衛室の窓口に収まり、高坂家の人間も、それぞれの日常に戻っていく。
「学習院の守衛さんみたいに門の前に立ったらええのに、高坂家は洋館づくりやさかい、めちゃくちゃかっこようなるし」
ノンコが小学生のようなことを言う。
「ふふ、そんなことをしたら門前に人だかりができて通行の邪魔になってしまう」
霧子の指摘は正しいだろう。秋もたけなわ、本格的な復興はまだまだだけど、それでも落ち着きを取り戻しつつある東京府民(東京都になるのは大東亜戦争が始まってからだ)たちは、休日には息抜きに出かけるようになり、明治神宮を擁する原宿も、それなりに人通りが戻りつつある。箕作巡査が門前に立てば、ケンタッキーフライドチキンの店頭に初めてカーネルサンダースの人形が立った時のようになるだろう。
「あ、来週は文化の日や」
霧子の部屋で宿題をやっていると、提出期日を確認していたノンコが叫んだ。
基本的に勉強嫌いなノンコは、カレンダーを見ると、日曜や祝祭日を見てしまうところがある。
カレンダーに旗日を見つけると、それだけで嬉しくなってしまうのは、この大正12年に来ても変わりがない。
そして、ノンコは地声が大きいので、普通の人間の呟きが、ちょっとした叫び声に聞こえる。
「え?」
霧子が不思議がる。
「あ、ノンコは休祭日は文化的な日だと思ってるから(^_^;)」
苦しいフォローをしてやるが、霧子は納得の様子。
「うん、お休みの日を文化としてとらえるのは、なんだか進歩的ね。どれどれ……そうか、来週は明治節なんだ」
「明治節?」
「明治天皇がお生まれになった日だよ、なにとぼけてるの(^_^;)」
「子どものころはね、門の前に日の丸を揚げるのが霧子の仕事だったのよ」
「霧子が?」
日の丸の旗と言っても、華族の屋敷に掲げるのは、ちょっとしたシーツぐらいの大きさで、当然旗竿も長く太いもので、少女一人の手に負えるようなものではない。
「実働は執事の田中や松本がやるんだけどね、最終点検をするのが霧子の仕事なのよ」
「そうなんだ!」
ノンコが正直に感動しているのが微笑ましい。
「今度は、実働もやってみようかしら……国旗の掲揚は……」
そう言いながら、窓辺に寄る霧子。一見、掲揚の場所や要領を確認しているように見えるが、本音は違う。
本箱横の窓からは、守衛室が見えるはずだ。
「ねえ、お昼ご飯取りに行こうよ」
ほらきた。
「ふぇ、お昼はクマさんが持ってきてくれるんとちゃうん?」
気合いを入れて宿題をするので、お昼は三人分を運んでもらうことにしていたのだ
「クマさんだって、忙しいんだから」
返事も待たずに部屋を出ていく霧子。
追いかける前に窓の外を覗くと、箕作巡査と松本がキッチンに向かうところだ。
「あら、箕作さんもお昼なの?」
たったいま気づいたように笑顔を向ける霧子。
「はい、早めにいただいて、邸内の防犯点検をしようと思います」
「午後は、旦那様のお車を出しますので」
どうやら、邸内の案内が松本で、その都合に合わせたようだ。
「お嬢様のお昼なら、これからお持ちしようと……」
クマさんが恐縮している。
「アハハ、勉強に集中したら、お腹すいちゃって(^_^;)」
霧子が頭を掻くと、キッチンに居る使用人たちから暖かい笑い声が上がる。
どうやら、霧子も使用人たちとの関係は取り戻しつつあるようだ。
クマさんが三人分のお昼をトレーに載せ、松本が二人分のそれをテーブルに運んでいる、和やかなお昼。
ドロボー!!
霧子に負けないくらいの大きな声が響いた。
キッチンのみんなが目を向けると、追う者と追われる者、二人の男が門前を過るのが見えた。
南無三!
箕作巡査が腰のサーベルを押えて飛び出していった。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
田中 高坂家の執事長
虎沢クマ 霧子お付きのメイド
松本 高坂家の運転手
新畑 インバネスの男
箕作健人 請願巡査
217『請願巡査・2』語り手:マヂカ
原宿署から派遣されました、請願巡査・箕作健人(みつくりけんと)であります。
屋敷の者が揃ったところで、箕作巡査は端正な姿勢で敬礼を決めた。
上背があって、足が長いので、巡査よりは騎兵科の将校が似合いそうな男だ。
「箕作巡査のお爺様は、我が高坂藩で馬廻り役を務めておられました」
執事長の紹介に一同から声にならない驚きが湧いた。
プラチナブロンドに青い目の箕作は、衣装さえ変えれば、イギリス大使館の駐在武官で通用しそうだ。
「母が英国人ですので、こんな外見をしておりますが、中身は生粋の日本男児であります。一か年の任期いっぱい務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
続いて高坂家の人間の紹介になったが、人数が多いので割愛。
五分ほどで双方の紹介が終わると、箕作は守衛室の窓口に収まり、高坂家の人間も、それぞれの日常に戻っていく。
「学習院の守衛さんみたいに門の前に立ったらええのに、高坂家は洋館づくりやさかい、めちゃくちゃかっこようなるし」
ノンコが小学生のようなことを言う。
「ふふ、そんなことをしたら門前に人だかりができて通行の邪魔になってしまう」
霧子の指摘は正しいだろう。秋もたけなわ、本格的な復興はまだまだだけど、それでも落ち着きを取り戻しつつある東京府民(東京都になるのは大東亜戦争が始まってからだ)たちは、休日には息抜きに出かけるようになり、明治神宮を擁する原宿も、それなりに人通りが戻りつつある。箕作巡査が門前に立てば、ケンタッキーフライドチキンの店頭に初めてカーネルサンダースの人形が立った時のようになるだろう。
「あ、来週は文化の日や」
霧子の部屋で宿題をやっていると、提出期日を確認していたノンコが叫んだ。
基本的に勉強嫌いなノンコは、カレンダーを見ると、日曜や祝祭日を見てしまうところがある。
カレンダーに旗日を見つけると、それだけで嬉しくなってしまうのは、この大正12年に来ても変わりがない。
そして、ノンコは地声が大きいので、普通の人間の呟きが、ちょっとした叫び声に聞こえる。
「え?」
霧子が不思議がる。
「あ、ノンコは休祭日は文化的な日だと思ってるから(^_^;)」
苦しいフォローをしてやるが、霧子は納得の様子。
「うん、お休みの日を文化としてとらえるのは、なんだか進歩的ね。どれどれ……そうか、来週は明治節なんだ」
「明治節?」
「明治天皇がお生まれになった日だよ、なにとぼけてるの(^_^;)」
「子どものころはね、門の前に日の丸を揚げるのが霧子の仕事だったのよ」
「霧子が?」
日の丸の旗と言っても、華族の屋敷に掲げるのは、ちょっとしたシーツぐらいの大きさで、当然旗竿も長く太いもので、少女一人の手に負えるようなものではない。
「実働は執事の田中や松本がやるんだけどね、最終点検をするのが霧子の仕事なのよ」
「そうなんだ!」
ノンコが正直に感動しているのが微笑ましい。
「今度は、実働もやってみようかしら……国旗の掲揚は……」
そう言いながら、窓辺に寄る霧子。一見、掲揚の場所や要領を確認しているように見えるが、本音は違う。
本箱横の窓からは、守衛室が見えるはずだ。
「ねえ、お昼ご飯取りに行こうよ」
ほらきた。
「ふぇ、お昼はクマさんが持ってきてくれるんとちゃうん?」
気合いを入れて宿題をするので、お昼は三人分を運んでもらうことにしていたのだ
「クマさんだって、忙しいんだから」
返事も待たずに部屋を出ていく霧子。
追いかける前に窓の外を覗くと、箕作巡査と松本がキッチンに向かうところだ。
「あら、箕作さんもお昼なの?」
たったいま気づいたように笑顔を向ける霧子。
「はい、早めにいただいて、邸内の防犯点検をしようと思います」
「午後は、旦那様のお車を出しますので」
どうやら、邸内の案内が松本で、その都合に合わせたようだ。
「お嬢様のお昼なら、これからお持ちしようと……」
クマさんが恐縮している。
「アハハ、勉強に集中したら、お腹すいちゃって(^_^;)」
霧子が頭を掻くと、キッチンに居る使用人たちから暖かい笑い声が上がる。
どうやら、霧子も使用人たちとの関係は取り戻しつつあるようだ。
クマさんが三人分のお昼をトレーに載せ、松本が二人分のそれをテーブルに運んでいる、和やかなお昼。
ドロボー!!
霧子に負けないくらいの大きな声が響いた。
キッチンのみんなが目を向けると、追う者と追われる者、二人の男が門前を過るのが見えた。
南無三!
箕作巡査が腰のサーベルを押えて飛び出していった。
※ 主な登場人物
渡辺真智香(マヂカ) 魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
要海友里(ユリ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
藤本清美(キヨミ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
野々村典子(ノンコ) 魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
安倍晴美 日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
来栖種次 陸上自衛隊特務師団司令
渡辺綾香(ケルベロス) 魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
ブリンダ・マクギャバン 魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
ガーゴイル ブリンダの使い魔
※ この章の登場人物
高坂霧子 原宿にある高坂侯爵家の娘
春日 高坂家のメイド長
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