銀河太平記

３６０『フーちゃんとツナカンの隠密偵察』

銀河太平記　

３６０『フーちゃんとツナカンの隠密偵察』ツナカン




　フーちゃん（胡盛媛中尉）と二人、西麻布の交差点に来てるっス。

　正確に言うと、交差点のちょい南、外苑西通りのラーメン屋の屋上っス。ラーメン屋はシゲさん（森之宮王）の持ち物で通りに面したビルの屋上、爆発事件の様子を見るのに打って付けなんス。

　凄まじい爆発が何度も続いて、日扶懇親会は中止になったっスけど、シゲさんに提案してツナカンの意志で来てるっス。「宇宙海賊の要諦は偵察だ！」と、船長も常々言ってるっス！

「大使館が近くにありますから」

　フーちゃんは——いざとなったら大使館に避難できる——ということで付いて来てるっス。

「気をつけて下さいよ～(ŏ﹏ŏ; )」

　心配顔をするシゲさんっスけど、一刻も早く状況を把握したいと思ってるのはよく分かってるっスからね。

　自分もフーちゃんも、北京や上海のドンパチに慣れてるんで、これは、ただの爆発事故じゃないって勘が働いたってところっス。自分は宇宙海賊の副長でもあるっスからね。

　大きなビルに囲まれてるお蔭か、六本木通りほどひどい被害は受けてないっス。けど、衝撃でガスも水道も止まって、スープの寸胴はひっくり返って、ラーメン鉢やグラスが割れまくって、店の人間はとっくに避難してるっス。

　スープの匂いがたまんねえんで、オニギリとチャーシューを食いながらっス。「もう商品にはならないから、なに食べてもいいからね」とシゲさんの了解ももらってるっスからね。

「やっぱり調子悪いですねえ……」

　二個目のお握りには手を出さずに、ハンベを調整するフーちゃん。皇居から整備中のドローンを借りてきて、ハンベに同期させてるっス。

「じゃあ、六本木通りの……そそ、そのビルの給水塔の上に停めて、カメラだけ動かすといいっス」

「そうか、発想の転換ですね！」

「そうっス、くたびれてる機能はオフ、生きてる機能をフルに使うっす」

　フーちゃんは漢明の真面目で優秀な情報担当士官っス。物事を万全に進めようとするっス。海賊は、要領が第一っす！

「録画は……あ、メモリー巻き戻してしまった！　頭だしますね。ああ、どうも、仕様が漢明のとは違って……あ、この映像は？」

「おお？」

　不可抗力で出てしまった映像には、西之島のハナが写ってるっス。陛下のペスを追いかけて掘りに落ち掛け、警備ドローンたちに助けられてるところっス。

「これが縁で、ペスと仲良くなったんですねえ……あ、追いかけてる映像もある」

　ドローンは、ペスが逃げ出してハナが後を追うところからずっと追いかけているっス。

「異変を見つけても、アクシデントになるまでは、干渉しないんですねえ……さすがは陛下のドローン」

「それは……違くないっスか？」

「あ、そうね、アクシデントの直前で手を打てなきゃね。それで整備にまわされてんのか(^_^;)」

　あ、いや……だからこそ、ハナとペスは仲良くなって結果オーライみたいな？

　いやいや、今は爆発事件の真相を究明することっス！

「戦闘になってます！」

「これは！？」

　画面は何度目かの爆発の煙が薄らいでいるところで、渋谷方面から機動戦闘車を先頭に陸戦隊が激しく西麻布方向に射撃しているところっス。逃げ遅れたのか、真下の道路を万世橋商会とロゴの入ったバンが東に走り去っていったっス。

　カメラの首を振ってみると……こっちは軍隊の事業服みたいなのが右往左往、丸腰なんで、兵隊じゃないっス。周囲には無残な死体がゴロゴロ、生き残った奴らが負傷者を助けたり逃げようとしたり……そいつらの周囲で爆ぜてるのは弾薬や、小型のミサイル？

「これは、複数の弾薬輸送車が事故を起こして爆発、救助したり逃げようとしている人たちが、陸戦隊から攻撃を受けている……そんな状況なのかしら？」

「人の流れが……」

　背中がゾクっとして、外苑西通りの方を見たっス！

　北の青山墓地方面からと南の有栖川記念公園方面、二つの勢力が六本木通りを目指して進出中。

「多少の訓練はされているみたい」

　ドドドド！　ダダダダ！　ズドドド！　ズダダダダ！　ドドン！　ダダン！

　互いの存在に気づくと、西麻布の交差点を挟んで、銃撃が始まったっス。でも、西の陸戦隊の進出にも気づいているようで、抑えの部隊を残して、裏通りから六本木通りへの進出。さらに一部は大きく迂回して、陸戦隊の後ろに回り込もうとしてるっス。

　誰が始めたのか、相当規模の市街戦が始まっちまったっス！

「取りあえず報告かな？」

「いや、ここからっス。フーちゃんはここからの映像をシゲさんに。自分は、下に下りてもう少し状況を把握するっス」

「ひとりで大丈夫？」

「ツナカンはガサツっスけど、食らいついたら地の果て銀河の果てまでもって宇宙海賊の副官でもあるっス。全貌をつかんで、晩飯までには世田谷に戻るって、シゲさんに伝えといてください。じゃあ！」

　トォーーーーーー！

「ツナカンさん！」

　ちょっとカッコつけて飛び降りると、まずは近い方の青山墓地を目指したっス！



☆彡主な登場人物

大石　一　（おおいし　いち）　　　　第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山　彦　（あなやま　ひこ）　　　　扶桑幕府書院番士　扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方　未来（おがた　みく）　　　　   第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀　照　（ひらが　てる）　　　　　扶桑科学研究所博士　
加藤　恵　　　　　　　　　　　　　　天狗党のメンバー　　緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ（あねざきすみれ）　　　　扶桑第三高校の教師、四人の担任　じつは山野勘十郎　月で死亡
扶桑　道隆　　　　　　　　　　　　　 扶桑幕府将軍　
扶桑　徳子　　　　　　　　　　　　　道隆の御台所
扶桑　道興　　　　　　　　　　　　　玄武守、道隆の弟、二人の息子（道次・道忠）と娘がいる
本多　兵二（ほんだ　へいじ）　　　　 書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶　　　　　　　　　　　　　　　　元小姓頭　将軍直属の隠密
児玉元帥（児玉隆三）　　　　　　　　 地球に帰還してからは越萌マイ
孫　悟兵（孫大人）　　　　　　　　　 児玉元帥の友人　乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない　JR東と西のオーナー　東鈴（妻）　悟遼（息子）
テムジン　　　　　　　　　　　　　　モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人　　　　　　
森ノ宮茂仁王　　　　　　　　　　　　心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ　　　　　　　　　　　　　　　児玉元帥の副官
マーク　　　　　　　　　　　　　　　ファルコンZ船長　他に乗員（コスモス・越萌メイ　バルス　ミナホ　ポチ）
アルルカン（メアリ・アン・アルルカン）　　　　　銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室（氷室　睦仁）　　　　　　　　　 西ノ島 　氷室カンパニー社長（部下＝シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平）　島守を称す（270から）
村長（マヌエリト）　　　　　　　　　 西ノ島　ナバホ村村長
主席（周　温雷）　　　　　　　　　　 西ノ島　フートンの代表者
及川　軍平　　　　　　　　　　　　　西之島市市長
須磨宮心子内親王（ココちゃん）　　　 今上陛下の妹宮の娘
劉　宏　　　　　　　　　　　　　　　漢明国大統領　満漢戦争の英雄的指揮官　PI後　王春華のボディ
王　春華　　　　　　　　　　　　　　漢明国大統領付き通訳兼秘書　JR西のボディー　劉宏にPI
胡　盛媛　中尉　　　　　　　　　　　胡盛徳大佐の養女
栗　尊宅（りつそんたく）　　　　　　 元輸送船の船長　　大統領秘書官
朱　元尚　少将　　　　　　　　　　　ホトケノザ採掘基地の責任者　胡盛徳大佐の部下だった

※　重要事項

扶桑政府　　　　　火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ　　　　　　扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略　　百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信　　　　　修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島　　　　　　硫黄島近くの火山島　パルス鉱石の産地
御山　　　　　　　西之島の火山
パルス鉱　　　　　２３世紀の主要エネルギー源（パルス　パルスラ　パルスガ　パルスギ）
氷室神社　　　　　シゲがカンパニーの南端に作った神社　御祭神＝秋宮空子内親王
ピタゴラス　　　　月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地　他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院　　　　　　扶桑城啓林の奥にある祖廟