銀河太平記

３６１『ツナカン あっちこっちを探る』

銀河太平記　

３６１『ツナカン　あっちこっちを探る』ツナカン




　外苑西通りはドンパチの真っ最中、特に交差点は南北からの銃撃と西の渋谷方面からの銃撃で、いわゆる十字砲火ってやつで、下手に飛び込むと三方向からの弾を受けちまうっス。

　それで、麻布交番の前から放置されてる車の陰を拾って首都高の下を潜って、道をカギ型に走って青山公園に走るっス。

　走りながら土地の情報をとるっス。公園の東側、昔は米軍のヘリポートがあったみたいっス。返還されてから何十年も経つっスけど、いろいろ意見があって、決まらないまま、グラウンドってことで空き地同然。その昔は、歩兵連隊の射撃場とかがあったみたいっス。グラウンドは小高くなっていて、真ん中にでっかいHのしるしが残ってるっス。ヘリの着陸場所っスね。

　で、Hの横棒がOの字に開いちまって、そこから事業服を着た人だかロボットだか判らねえのが、続々と出てきやがる。手には拳銃やら小銃やらバズーカみたいなの持ってるやつも居て、三人、四人ぐらいのまとまりになって飛び出してきゃがるっス。みんな胸元には『皇』のエンブレム。

　パルス武器を持ってる奴はいねーっス。パルス武器は警察とかのパルスセンサーにひっかかっちまうから、時代物のパウダー（火薬）ウェポンを使ってやがるっス。宇宙海賊っスから、すぐに見当つくっス。

　３０秒ほど観察して、西隣の青山霊園に走るっス。

　展開してる戦闘員の数から見て、他のところからも湧いて出てるに違いないと思ったからっス。

　青山霊園は、青山公園がヘリポート込みで１０個ぐらいは入ろうかってくらいの巨大墓地っス。

　大勢の戦闘員を隠すにはもってこいっス……当たりぃ！

　何千あるか分からねえ墓の陰に、ニ三人ずつ隠れてやがるっス。

　一分かけて霊園を北に走るっス。

　途中乃木坂が横切っていて、その乃木坂の東の方からも来てやがるっス。

　西麻布で戦闘中のやつも含めて……１０００人ちょっと、一個連隊ってとこっス。

　そういや、この辺は旧陸軍の第三連隊があったとこっス。こいつら歴史的に韻を踏んでるっぽいっス。


　長居は無用。


　来た道を微妙に外して南に下るっス。

　麻布署、漢明大使館の脇を抜けて、これまた広大な有栖川記念公園っス。

　宇宙海賊の勘で、もう一方の武装集団も、このあたりに策源地があると睨んだからっス。

　またまたビンゴ！

　公園は全体が森みてえになってて、雰囲気は青山霊園と同系のロケーションっス。

　従って、あっちこっちに大きな木や茂みがあって、その陰から、これも事業服のやつらが手に手に小火器を持って、分隊や小隊規模で展開してやがるっス。胸や肩には菊水のベルクロワッペン。

　公園の南北には木下坂と南部坂があって、そこへ滲みだした戦闘員のやつらが、小隊から分隊へ、そして、二人ずつ、いわゆるバディー同士の単位になって、外苑西通りに向かってるっス。

　霊園の方もそうだったっすけど、こいつら、相当戦闘慣れしてやがるっぽいっス。

　中隊から小隊、小隊から分隊、分隊からバディーの二人組。そして、その逆の離合集散が、アメーバーの動きみたいに無駄もためらいもねえっス……こいつら、うちらのアルルカン部隊と渡り合っても遜色ねえかも知れねえっス。

　ヤベ！

　右半身に電気が走るっス、狙われてるっス！

　チュイーン！

　身を躱すと同時に立ち木に跳弾……コンマ一秒遅れてたら背中から心臓撃たれてたとこっス。


　そのまま六本木通りの事故現場。戦いの中心は、より西麻布方向に移って、このあたりは陸戦隊が東に移動中っス。今なら、爆発現場を見れるっス。

　首都高の高架ワンスパン分が崩落した瓦礫の下に、原形をとどめていない車がいくつも下敷きになってるっス。

　その中に、問題のトラックの残骸。

　鼻で嗅いで大方のところは分かるっすけど、念のためハンベで分析……読み通り、大量の火薬と弾薬の痕跡。

　注意しながら破片を見ると、さっき見た二種類のエンブレム。

　これは、何かの理由で競い合っていた『皇』と『菊水』のトラック同士が接触、クラッシュしちまって連鎖的に爆発を起こした。少なく見ても、数台ずつ。

　霊園と公園の部隊を見ても、こいつらは暴発というか決起というか、行動を起こす寸前だったみてえっス。

　ドーン　ドーン　パチパチパチ　ズドドーン……

　戦闘は、いよいよ西麻布交差点付近に移った感じっス。

　見かけは陸戦隊が押してるように見えるっス。

　けど、違うっス。

　交差点の周囲には『皇』と『菊水』がビッシリ待ち受けてるっス。

　おそらく、陸戦隊に勝ち目はねえっス。


　長居は無用。


　裏道を拾ってラーメン屋に戻るっス。

「フーちゃん、腹減ったっス……」

　屋上に戻るとフーちゃんの姿がねえっス！

　ヤバ！

　屋上から南東の外苑西通りを見ると、漢明の小旗を持ったオッサンたちが、フーちゃんを連れ去っていくところだったっス！！

　

☆彡主な登場人物

大石　一　（おおいし　いち）　　　　第一師団曹長、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山　彦　（あなやま　ひこ）　　　　扶桑幕府書院番士　扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方　未来（おがた　みく）　　　　   第一師団軍医、一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中だった
平賀　照　（ひらが　てる）　　　　　扶桑科学研究所博士　
加藤　恵　　　　　　　　　　　　　　天狗党のメンバー　　緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ（あねざきすみれ）　　　　扶桑第三高校の教師、四人の担任　じつは山野勘十郎　月で死亡
扶桑　道隆　　　　　　　　　　　　　 扶桑幕府将軍　
扶桑　徳子　　　　　　　　　　　　　道隆の御台所
扶桑　道興　　　　　　　　　　　　　玄武守、道隆の弟、二人の息子（道次・道忠）と娘がいる
本多　兵二（ほんだ　へいじ）　　　　 書院番士小姓頭、彦と中学同窓
胡蝶　　　　　　　　　　　　　　　　元小姓頭　将軍直属の隠密
児玉元帥（児玉隆三）　　　　　　　　 地球に帰還してからは越萌マイ
孫　悟兵（孫大人）　　　　　　　　　 児玉元帥の友人　乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない　JR東と西のオーナー　東鈴（妻）　悟遼（息子）
テムジン　　　　　　　　　　　　　　モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人　　　　　　
森ノ宮茂仁王　　　　　　　　　　　　心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ　　　　　　　　　　　　　　　児玉元帥の副官
マーク　　　　　　　　　　　　　　　ファルコンZ船長　他に乗員（コスモス・越萌メイ　バルス　ミナホ　ポチ）
アルルカン（メアリ・アン・アルルカン）　　　　　銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室（氷室　睦仁）　　　　　　　　　 西ノ島 　氷室カンパニー社長（部下＝シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平）　島守を称す（270から）
村長（マヌエリト）　　　　　　　　　 西ノ島　ナバホ村村長
主席（周　温雷）　　　　　　　　　　 西ノ島　フートンの代表者
及川　軍平　　　　　　　　　　　　　西之島市市長
須磨宮心子内親王（ココちゃん）　　　 今上陛下の妹宮の娘
劉　宏　　　　　　　　　　　　　　　漢明国大統領　満漢戦争の英雄的指揮官　PI後　王春華のボディ
王　春華　　　　　　　　　　　　　　漢明国大統領付き通訳兼秘書　JR西のボディー　劉宏にPI
胡　盛媛　中尉　　　　　　　　　　　胡盛徳大佐の養女
栗　尊宅（りつそんたく）　　　　　　 元輸送船の船長　　大統領秘書官
朱　元尚　少将　　　　　　　　　　　ホトケノザ採掘基地の責任者　胡盛徳大佐の部下だった

※　重要事項

扶桑政府　　　　　火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ　　　　　　扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略　　百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信　　　　　修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西之島　　　　　　硫黄島近くの火山島　パルス鉱石の産地
御山　　　　　　　西之島の火山
パルス鉱　　　　　２３世紀の主要エネルギー源（パルス　パルスラ　パルスガ　パルスギ）
氷室神社　　　　　シゲがカンパニーの南端に作った神社　御祭神＝秋宮空子内親王
ピタゴラス　　　　月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地　他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院　　　　　　扶桑城啓林の奥にある祖廟