銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
57 / 393

045『東屋・2 修学旅行に隠された秘密』

しおりを挟む
銀河太平記

045『東屋・2 修学旅行に隠された秘密』ヒコ   




 思わず聞いてしまった。


 何かと言うと、黙とう。

 僕たちは、修学旅行を中断して帰国した。

 中断の理由は、ミクのパスポートが盗まれそうになって取り返したり(けっきょく手の込んだやり方で再び盗まれた)、犯人を追跡したダッシュがケガをしたりとトラブルが多かったこと。宿泊予定だった民宿が何者かによって焼かれたことなどが理由だ。

 そして、何よりテロリストによって学園艦が爆破されて多くの犠牲者が出ている。

 食事の前に一分くらいの黙とうはあってしかるべきだと思う。

「種明かしをしておこう」

 箸をとる前に上様は姿勢を正された。

「実は、爆破された学園艦に人は乗っていなかった」


 えええええ!?


 これには驚いた。

「実は、学園艦が君たち修学旅行生を乗せて地球の周回軌道に入った時には分かっていたんだよ。テロリストたちに狙われていることはね」

「本当ですか!?」

 ダッシュが目をむいて身を乗り出す。

「ちょっと、落ち着きなさいよ」

 ミクがたしなめて、制服の裾を掴む。

 テルは、ポカンと口を開けて上様のお顔を凝視している。テルが超高速で情報を検証整理している時の顔だ。ダッシュが腰を下ろすと、ミクはすかさずハンカチを出してテルの顎に添える。涎が零れるのを防ぐためだ。テルが深い思考状態になると呼吸と拍動以外の身体活動や機能が落ちてしまうためだ。

「うん、扶桑の諜報組織は優秀だからね。地球の周回軌道に入ったころには分かっていた。実は、他の班は上陸さえしていないんだ」

「本当ですか?」

 今度はミクが質問した。

「テロが予測される中で上陸はさせられないからね。上陸のシャトルに乗せた後は、いろいろ理由を付けて足止めしてあった。別にチャーターした船で、個別に帰国させてある」

「じゃ、俺たちだけが?」

「そうだ、君たちは対応能力が高いので、上陸してもらった。しかし、テロリストの接触は予想を超えた激しいものなので、君たちも帰還させざるを得なかったというところなんだ」

 いったいなぜ?

 これがアニメだったら、四人全員の頭の上に『?』が浮かんだことだろう。

「分かったのよしゃ!」

 テルが、ミクの手を払いのけて、小学生のように手を挙げた。

「はい、テルくん」

「これは、森ノ宮しゃまを扶桑に亡命させるための、壮大なフェイクだったと思うのよさ!」

「さすが、平賀照くんだ」

「どういうことなんだ?」

 ダッシュがついてこれなくて質問する。

「森ノ宮さまの救出を正面に出すと、大事になりゅのよさ。日本との外交問題にもなるし、敵の注目や攻撃も宮しゃまに集中してリスクが大きくなりしゅぎに、それで、あたしらの修学旅行を、襲撃されることを前提に組まれた……たぶん、幕府の隠密局あたりが作った救出劇……」

「いやあ、まいったなあ」

 上様が、正直に頭を掻かれる。学校の先輩的な仕草。深刻な話をしているのに、どこか和んでしまう。

「あ……ひょっとしたや、靖国の……天皇陛下まで関わって」

「ハハハ、そこから先は、さすがに……ね」

 上様は目を『へ』の字にして、やんわりと遮られる。

「あのう……」

「なんだい、緒方さん?」

「わたしのニセモノが、お城に上がったときいているんですけど」

「うん、昨日までここに居たよ。天狗党の諸君も混乱しているんだろうね、ちょっと尻尾を残していったんで隠密局が後を付けている」

「えと、被害とかは無かったんですか?」

「多少はあったかもしれないね……でも、敵も人間だよ。間近で接して見ないことには分からないこともあるからね(^▽^)」

 一国の征夷大将軍とは思えぬ豪胆さに息を飲む。

「いや、さすがにやり過ぎだと、胡蝶や隠密局の服部にはしかられたけどね(^_^;)。さ、寿司ネタが温くなってしまう、試作の手巻き寿司を食べようじゃないか」

 は、はい!

 ムシャムシャ……

 食べることになると呼吸まで一致するのは健康な高校生の証拠なんだろう。

「ネタのお魚は、二種類あるのよしゃ」

「え……」

「あ、そういうと」

 たしかに、マグロもブリも二口ぐらい食べると分かるくらいに味が違う。

「どっちの方が美味しい(n*´ω`*n)?」

 上様が、初めて調理実習をやった高校生のように聞いてこられるのが可笑しい。ミクなどは小さく「かわいい」と呟いて口を押えた。

「「「「こっちです」」」」

 これも意見が一致して、同じものを指さす。

「ああ、やっぱりレプリケーターには勝てないかあ」

 え?

 ということは、上様は、どうやら魚の養殖にまで手を伸ばされているいるようだ。




※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

処理中です...