銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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051『テルとミクの掃除当番』

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銀河太平記

051『テルとミクの掃除当番』  ミク   




 火星に帰ってから一か月。

 ようやく日常が戻ってきたよ。


 ホームルームで進路希望調査票が配られ、ヒコは、その場で『扶桑大学』と書いて提出した!

 先生もクラスのみんなも「え?」という顔をした。

 かねてから決めていたらしいけど、ちょっとパフォーマンスめいていている。

 いつものヒコなら、こういうことはしない。


 理由は分かってる。


 ダッシュが決めかねているからだ。

 ダッシュは、良くも悪くも『今を生きている』というところがあって。先の事を考えるのが苦手だ。

 放っておくと、締め切りを過ぎてしまい、校内放送で三回は呼び出され、適当に書いておしまい。

 担任も姉崎すみれ先生だから、書式さえ整っていれば「よし」って受け取っておしまい。

 中学のときの進路調査と違って、高校のそれは一生を決定する。

 だから、きちんと考えて、チャッチャと出せ。

 そういう気持ちを伝えたかったから、ヒコは、そういう行動に出た。


 その日の放課後、テルと二人で階段の掃除当番。


「進学するといいのよさ」


 自分用の短い箒を取りながらテルが言う。

「ムリムリ、あいつ高校の勉強だってついていくのがやっとなのに」

「そう?」

「大学の入試は鉛筆じゃないし」

「え、なにしょれ?」

「あいつ、高校の入試は鉛筆転がして受かったんだから」

「ダッシュはね、やればできる子にゃのよさ」

「ハハ、なんかダメな子のお母さんみたい」

「あたしって、天才っしょ。天才には天才がわかりゅのよさ」

 他の子が言えば、完全に嫌味なんだけど、テルは自然だし、本気で心配している。

「扶桑は、まだまだいっぱいいっぱいにゃのよしゃ。征夷大将軍自らが魚や野菜(やしゃい)の品種改良とかしてゆのよさ、みんな、ちから出さにゃきゃ……ダッシュは、目標なっとくしたら、それこそ、ダッシュしゅゆなのよさ」

「そ、そうだね、ありがとうテル」

「しっかり受け止めて……」

「う、うん」

「チリトリしゃ、ちゃんと受け止めてくれにゃいと……」

「あ、ごめん(#'∀'#)!」

 
 散らばったゴミを集めてゴミ箱へ。

 うちの学校にあんまり文句はないんだけど、ゴミの回収ぐらいパルスシステムでやって欲しい。今日は、三つある踊り場のゴミ箱のどれも一杯で、三つとも捨てに行かなきゃならない。

「昨日の掃除当番、サボったのよさ」

 いちいち、校舎裏のゴミ捨て場に持っていくって、三百年前の地球の学校と同じシステム。家庭ゴミは二百年前のシステムで、指定のゴミ袋に分別して、週に二回回収してもらう。

 人は適度に動かなければならないって初代将軍からの扶桑の方針。

 ま、いいんだけど、ゴミ袋持って校舎を出ると、食堂前のベンチにダッシュとヒコがジュース飲んでる。

「待っててやるから、しっかり働けえ(⌒∇⌒)」

 浅く座ったダッシュが手を振って、ヒコが苦笑い。

「そんな座り方したら、腹出るのよさ」

「短い脚組むなあ!」

「うっせえ!」

「ふん!」

 アハハハ

 爆笑と苦笑いを背に受けて、校舎の裏側に回ろうとした。


 ドオオオオオオオオオン!!


 突然、2ブロックほど先から爆発音!

「なに!?」

「あの方角は!?」

 ピンとくると、ゴミ袋持ったままテルが走る。

 ゴミ捨て場まで来ると、ゴミを捨てた手でシャッターを開けるテル。

 たしかに、音の下方角には、こっちが近道。

 道路に飛び出すと、どこから出て来たのか、ダッシュとヒコが前を駆けている。

「マス漢大使館の方角だ!」

 ダッシュが叫んで、三人があとに続く。

 学校や近所の人たちも出てくる。走ってるのは、あたしたち三人だけだけど(^_^;)。


 おお……!!


 大使館前に着くと、柵の外からでも分かった。

 大使館の玄関先に立っていた、身の丈4メートルもある初代マン漢大統領像の首が吹き飛んでいた。



※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥
森ノ宮親王
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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