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061『金剛登山』
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銀河太平記
061『金剛登山』 越萌メイ(コスモス)
千早城跡を通り抜け、わずかに上り下りして見えてくる千早神社の東を丸く回る。
見上げた先には東の空に昇竜のように尾根道が身をもたげている。
その登りきった龍の頭のところが、標高1125メートルの山頂だ。
「景色が違う」
尾根道を見上げてお姉ちゃん。
「大阪も神戸も、山は衝立みたいだけど、金剛山だけは孤峰ですからね」
月城さんが、地元民らしく形容する。
関東や火星の山を見慣れた感覚では、金剛山は孤峰とまでは言えない。
衝立のような生駒葛城山系の中では、たしかに1225メートルの標高を誇っているが、連なる凸凸の一つに過ぎない。
孤峰としては富士山が突出しているし、それほどの高さではないけど、津軽富士と呼ばれる岩木山の秀麗さは太宰治でなくとも感動する。扶桑国の新高山に至っては、富士山の1.5倍の高さがあるが、金剛山ほどの想いは持てない。
山というものは、人を寄せ付けないほどに峻厳であるか、あるいは人の苦難や歴史を背負っていなければ心を震わせない。
「楠公は、この尾根道を通って笠置山の後醍醐天皇の許を訪れ、千早城落城の折も、ここを抜けて大和に潜伏し再起を期されました」
「まさに太平記の背骨のようなところね」
「千早神社には寄っていきますか?」
千早城も素通りだったので月城さんが提案する。
「申し訳ないけど、山頂を目指すわ」
「はい」
ただの物見遊山や健康目的の日帰り登山ではない。天狗党の動きを調べて、その対応を考えるための予備行動、言ってみれば敵地に潜入しての偵察。その正体が児玉元帥であるお姉ちゃんの目的は重い。
それでも、鳥居の前で合掌礼拝はやっていく。
「他の登山客もやってるからね」
なるほど、あくまで体裁は女三人の日帰り登山だ。
「火星でも金剛山ブームってのが起こせないかという下心もある」
「火星で金剛山?」
「そう、シマイルカンパニーとしては需要喚起とか市場開拓が大事でしょうが」
「やはり、そっちの方も?」
「ああ、火星の歴史は、まだまだ浅い。独立した国々も、まだ完全には固まり切っていなくて、地球の建国や革命に対する憧れや興味には強いものがある。マス漢国の『三国志』やフランクの『マリーアントワネット』はちょっとしたブームになったしね。扶桑国で『太平記』を当てれば、メディアミックス的に見ても大当たりする可能性がある」
「『正行つらつら』みたいに?」
「『正行つらつら』は、正行の一代記だろ、三国志のように数代にわたるドラマにすれば時間軸的にも登場人物的にも大きく広がる」
「そうですね、聖地巡礼的な盛り上がりがあれば、ツーリズム的にも大きなブームが引き起こせるかもしれませんね」
「シマイルカンパニーも北大街も大儲けだ」
「北大街は演舞集団でしょ?」
「孫大人が演舞パフォーマンスだけで満足すると思う? ねえ……」
「ウフ」
月城さんとお姉ちゃんが目配せ。
シマイルカンパニーの設定はマーク船長が手を回して、わたしがおぜん立てしたものだけど、お姉ちゃんは、独自の勘で絵を描いているようだ。
「ようし、股覗きをしよう!」
山頂に着くと子どものようなことを言う。
「それって、天橋立とかじゃないの(^_^;)?」
「あっちでやってるよ」
「ああ……」
小学校の遠足登山だろうか、子どもたちが股覗きをやって、キャーキャーいっている。
居合わせた、登山客たちは微笑ましく写真を撮ったりしているが、さすがに真似する者はいない。
「どうせやるなら、子どもたちに混ざろう!」
「賛成です(^▽^)/」
月城さんまでノッて、子どもたちの横に並ぶ。
「いくよ!」
足首を掴んで勢いよく前かがみ。
ビリ!
派手な音がして、お姉ちゃんのジーパンの股が裂けた(;'∀')!
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
061『金剛登山』 越萌メイ(コスモス)
千早城跡を通り抜け、わずかに上り下りして見えてくる千早神社の東を丸く回る。
見上げた先には東の空に昇竜のように尾根道が身をもたげている。
その登りきった龍の頭のところが、標高1125メートルの山頂だ。
「景色が違う」
尾根道を見上げてお姉ちゃん。
「大阪も神戸も、山は衝立みたいだけど、金剛山だけは孤峰ですからね」
月城さんが、地元民らしく形容する。
関東や火星の山を見慣れた感覚では、金剛山は孤峰とまでは言えない。
衝立のような生駒葛城山系の中では、たしかに1225メートルの標高を誇っているが、連なる凸凸の一つに過ぎない。
孤峰としては富士山が突出しているし、それほどの高さではないけど、津軽富士と呼ばれる岩木山の秀麗さは太宰治でなくとも感動する。扶桑国の新高山に至っては、富士山の1.5倍の高さがあるが、金剛山ほどの想いは持てない。
山というものは、人を寄せ付けないほどに峻厳であるか、あるいは人の苦難や歴史を背負っていなければ心を震わせない。
「楠公は、この尾根道を通って笠置山の後醍醐天皇の許を訪れ、千早城落城の折も、ここを抜けて大和に潜伏し再起を期されました」
「まさに太平記の背骨のようなところね」
「千早神社には寄っていきますか?」
千早城も素通りだったので月城さんが提案する。
「申し訳ないけど、山頂を目指すわ」
「はい」
ただの物見遊山や健康目的の日帰り登山ではない。天狗党の動きを調べて、その対応を考えるための予備行動、言ってみれば敵地に潜入しての偵察。その正体が児玉元帥であるお姉ちゃんの目的は重い。
それでも、鳥居の前で合掌礼拝はやっていく。
「他の登山客もやってるからね」
なるほど、あくまで体裁は女三人の日帰り登山だ。
「火星でも金剛山ブームってのが起こせないかという下心もある」
「火星で金剛山?」
「そう、シマイルカンパニーとしては需要喚起とか市場開拓が大事でしょうが」
「やはり、そっちの方も?」
「ああ、火星の歴史は、まだまだ浅い。独立した国々も、まだ完全には固まり切っていなくて、地球の建国や革命に対する憧れや興味には強いものがある。マス漢国の『三国志』やフランクの『マリーアントワネット』はちょっとしたブームになったしね。扶桑国で『太平記』を当てれば、メディアミックス的に見ても大当たりする可能性がある」
「『正行つらつら』みたいに?」
「『正行つらつら』は、正行の一代記だろ、三国志のように数代にわたるドラマにすれば時間軸的にも登場人物的にも大きく広がる」
「そうですね、聖地巡礼的な盛り上がりがあれば、ツーリズム的にも大きなブームが引き起こせるかもしれませんね」
「シマイルカンパニーも北大街も大儲けだ」
「北大街は演舞集団でしょ?」
「孫大人が演舞パフォーマンスだけで満足すると思う? ねえ……」
「ウフ」
月城さんとお姉ちゃんが目配せ。
シマイルカンパニーの設定はマーク船長が手を回して、わたしがおぜん立てしたものだけど、お姉ちゃんは、独自の勘で絵を描いているようだ。
「ようし、股覗きをしよう!」
山頂に着くと子どものようなことを言う。
「それって、天橋立とかじゃないの(^_^;)?」
「あっちでやってるよ」
「ああ……」
小学校の遠足登山だろうか、子どもたちが股覗きをやって、キャーキャーいっている。
居合わせた、登山客たちは微笑ましく写真を撮ったりしているが、さすがに真似する者はいない。
「どうせやるなら、子どもたちに混ざろう!」
「賛成です(^▽^)/」
月城さんまでノッて、子どもたちの横に並ぶ。
「いくよ!」
足首を掴んで勢いよく前かがみ。
ビリ!
派手な音がして、お姉ちゃんのジーパンの股が裂けた(;'∀')!
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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