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101『及川軍平の新生活』
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銀河太平記
101『及川軍平の新生活』及川軍平
及川軍平の失脚で、西ノ島の本土化は頓挫してしまった。
へき地開発法など、西ノ島に課せられていた法律や条例は、ことごとく停止になり、当分の間は島の自治に任せられることになったのである。
「及川さん、人生は山あり谷あり。生きていれば、またいいこともありますよ」
及川が淹れ換えてくれたお茶をうまそうに飲みながら、孫大人は優しく言葉を掛けた。
「いいえ、わたしは、残りの人生、この島の食堂でフロアー係を務めていきます」
「そうですか、それも人生ですね。わたしも、これからはちょくちょく島には来ることになると思います。なにか不自由なことがあれば言ってください」
「いよいよ、本格的に島を支配……いえ、関わってこられるのですね」
「及川さん……」
「わたしは、西ノ島を外国資本から守りたい一心でした。ここは、脛に傷持つ外国人たちにいいようにされてきました。ナバホ村もフートンも指導者は外国人。氷室カンパニーだけが日系だとは言われていましたが、構成員は多国籍、中には月や火星からの流れ者も居て、このままでは……」
「ひところの満州のようになると思いこまれたんですなあ」
「このままでは、また満州戦争のようなことが……」
「お父上は、あの戦争で亡くなられたので無理もないとは思いますが。ここは、そうはなりませんよ」
「孫大人、あなたがおっしゃっても……」
「いかにも、西ノ島には投資しています。だが、口は出さない。わたしも、幾たびかの戦争を経験しました。まだまだ手探りではありますが、戦争をしないで、共にみんなが栄えるような道を探っていきますよ」
「五族共和ですか」
「ワハハハハ、三百年も前のスローガンですなあ(´∀`) もっと古い言葉で申しますと『厭離穢土欣求浄土(おんりえどごんぐじょうど』でしょうかな」
「徳川家康ですか!?」
「はい、聖徳太子と並んで尊敬しておる日本人です」
「『和を以て貴しとなし』のあとは『忤う(さからう)こと無きを宗とせよ』……が続きますね」
「それほどに『和』が貴いということですなあ……まあ、それほど時間はかかりません。カンパニーの食堂に務められたのも奇遇でありましょう。しばらくは見ていてください」
「孫さん、お迎えが来ましたよ!」
厨房のオタキばあさん、いやお岩さんが目ざとくゲートに入ってきた迎えを見つけて、孫大人を呼ばわる。
「軍平、いつまでも喋ってないで、アイドルタイムは終わりだよ!」
「はい、ただいま!」
入り口から入ってきたのは、秘書然とした美人だ。
子どもの頃、父親に連れて行ってもらった北大街の、なんとかいう店で見たような……いや、もう二十年以上も経っている。他人の空似。
孫大人と秘書は、落盤事故のあと、まだ引き取り手のない祭壇の遺骨に手を合わせると、飄々とゲートを出て行った。
「こらあ、グンペイ!」
「はい、ただいま!」
カンパニーは午後の作業が本格化したのだろう、ウインチやドリルの音がかまびすしくなり、食堂横のファクトリーではメグミが、パチパチたちの再義体化の作業を開始した。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
101『及川軍平の新生活』及川軍平
及川軍平の失脚で、西ノ島の本土化は頓挫してしまった。
へき地開発法など、西ノ島に課せられていた法律や条例は、ことごとく停止になり、当分の間は島の自治に任せられることになったのである。
「及川さん、人生は山あり谷あり。生きていれば、またいいこともありますよ」
及川が淹れ換えてくれたお茶をうまそうに飲みながら、孫大人は優しく言葉を掛けた。
「いいえ、わたしは、残りの人生、この島の食堂でフロアー係を務めていきます」
「そうですか、それも人生ですね。わたしも、これからはちょくちょく島には来ることになると思います。なにか不自由なことがあれば言ってください」
「いよいよ、本格的に島を支配……いえ、関わってこられるのですね」
「及川さん……」
「わたしは、西ノ島を外国資本から守りたい一心でした。ここは、脛に傷持つ外国人たちにいいようにされてきました。ナバホ村もフートンも指導者は外国人。氷室カンパニーだけが日系だとは言われていましたが、構成員は多国籍、中には月や火星からの流れ者も居て、このままでは……」
「ひところの満州のようになると思いこまれたんですなあ」
「このままでは、また満州戦争のようなことが……」
「お父上は、あの戦争で亡くなられたので無理もないとは思いますが。ここは、そうはなりませんよ」
「孫大人、あなたがおっしゃっても……」
「いかにも、西ノ島には投資しています。だが、口は出さない。わたしも、幾たびかの戦争を経験しました。まだまだ手探りではありますが、戦争をしないで、共にみんなが栄えるような道を探っていきますよ」
「五族共和ですか」
「ワハハハハ、三百年も前のスローガンですなあ(´∀`) もっと古い言葉で申しますと『厭離穢土欣求浄土(おんりえどごんぐじょうど』でしょうかな」
「徳川家康ですか!?」
「はい、聖徳太子と並んで尊敬しておる日本人です」
「『和を以て貴しとなし』のあとは『忤う(さからう)こと無きを宗とせよ』……が続きますね」
「それほどに『和』が貴いということですなあ……まあ、それほど時間はかかりません。カンパニーの食堂に務められたのも奇遇でありましょう。しばらくは見ていてください」
「孫さん、お迎えが来ましたよ!」
厨房のオタキばあさん、いやお岩さんが目ざとくゲートに入ってきた迎えを見つけて、孫大人を呼ばわる。
「軍平、いつまでも喋ってないで、アイドルタイムは終わりだよ!」
「はい、ただいま!」
入り口から入ってきたのは、秘書然とした美人だ。
子どもの頃、父親に連れて行ってもらった北大街の、なんとかいう店で見たような……いや、もう二十年以上も経っている。他人の空似。
孫大人と秘書は、落盤事故のあと、まだ引き取り手のない祭壇の遺骨に手を合わせると、飄々とゲートを出て行った。
「こらあ、グンペイ!」
「はい、ただいま!」
カンパニーは午後の作業が本格化したのだろう、ウインチやドリルの音がかまびすしくなり、食堂横のファクトリーではメグミが、パチパチたちの再義体化の作業を開始した。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
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緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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