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110『EE計画又は新アキバ計画』
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銀河太平記
110『EE計画又は新アキバ計画』加藤恵
西之島北東部新規総合開発計画……正式に呼ぶとこうなんだが、ちょっと長い。
市役所のある北区では『エデンの東開発計画』、つづめて『EE計画』という略称が定着し始めている。
最初のEがEden、次がEastのEを表している。
エデンの東の西は北区なので、とりもなおさず自分たちの北区をエデン(楽園)と称していることになる。
北区には市役所があって、政治的に西之島の中枢であるのでおかしくはないのだが、西区(ふーとん)、南区(カンパニー)、東区(ナバホ村)からすると片腹痛い。
そもそもの西之島の主体はパルス鉱石の採掘で基礎を築いた東西南の三つの区なのだ。
北区は、日本政府の形ばかりの開発事務所が置かれていたにすぎない。市政が布かれて市役所を設置するにあたり、まあ、開発事務所に毛が生えた程度のものと東西南の指導者も住民も高をくくっていた。
しかし、初代市長に推された及川軍平は元来が有能な国交省高級官僚。北東部の開発には立案から、西之島総合開発特別措置法の成立、島内外への根回しなど、おさおさ怠りなく、今や世界中から注目される西之島の代表的存在になっている。
東西南の住民たちは『新アキバ計画』と呼んでいる。
二百年以上前に、世界のオタク文化の中心になったアキバへのリスペクトと平成・令和の時代に爆発的な発展を遂げたことへの憧れがある。
「わたしはアキバ計画の方が好きですよ」
ランチのひと時、コーヒー片手に西之島新聞を読みながらココちゃんが笑う。
「あら、いいのかしら、お姫様がそんなこと言って」
「あ、お姫様はブーです」
「アハハ」
「ココは皇嗣ではないんですから、この程度の好き嫌いはいいんです。三百五十年前、江戸が首都になるにあたって『東京』と名付けたでしょ。東京というのは東の『京』という意味です。つまり本家の京と比べても同等で見劣りしないということです。その心意気が素敵です。思いません所長?」
「そうだね、世界的に言っても北京や南京と並ぶ名称だもんね」
「はい、火星の扶桑国が幕府を名乗っているのと同じくらいのアイデアだと思います」
「そうだね、アキバというのは熱い名前だもんね」
「アキバは秋葉原というのが23世紀の今日でも正式な名前です。堂々とアキバを名乗ってもいいんです!」
「まあ、世界のアキバだからね。新アキバぐらいにしといたほうがいい……あれ? パチパチたちじゃない?」
三人のパチパチたちが馬に乗ってラボのゲートに入って来るのが見えた。
そう言えば、西之島銀行の定例店長会議があるとか言ってた。
『おもしろいパルス鉱石見つけたんで見せにきました』
「あんたたち、まだ作業機械だったころの癖が抜けないのね」
ニッパチ・イッパチ・サンパチの三人は、元々は可変多用途作業機械だったけど、西之島銀行を作るのにあたって、その業務に合うように義体を与えてある。それぞれ容姿は違うけど、身長150程度の女性義体。3Dパルスセンサーを残すにあたって、収容場所が胸部にしかないものだから女性義体、それも、その大きさから少女の義体にしてある。
それで、外見は新人の窓口業務という感じだが、銀行業務以外のことは、作業機械であったころのクセが抜けていない。
『会議が早く終わったときは、三人で坑内に潜っておるのでござるがな、去年採取した高密度パルス鉱石が、ちょっと面白うござる』
侍言葉の抜けないサンパチが鉱石の入ったカプセルを差し出す。なんだか部活の報告に来たJKのようだ。
『普通のパルス鉱石は半年で、0.00002%減衰するあるが、このパルス鉱石減衰しないアルよ』
「計測ミスじゃないのか?」
『念のため、三回やりました』
『カンパニー・フートン・村、三つの計測器を使ったアル』
「それって、三人の内蔵センサー使ったってことよね?」
『はい』『いかにも』『たこにも』
三人揃って胸を張る。
「か、かわいい(#゚Д゚#)」
「ただの計測器だから、ココちゃん(^_^;)」
「計測データとかは、すぐに出ますかニッパチさん」
『はい、そこのモニターに出します』
ニッパチが流し目を送ると、モニターにデータが現れる。
「その流し目、人間の男にはしちゃダメよ」
『はい、でもクセになって……データはどうですか?』
「……うん、ラボと同じ条件でやってる……おかしいね、ほんとに減衰してない」
「……これで、負荷テストやっても減衰しないようなら、世紀の大発見ですね!」
『『『大発見!?』』』
これが、新アキバ計画と並ぶ西之島大発展の起爆剤になるとまでは思っていなかった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
110『EE計画又は新アキバ計画』加藤恵
西之島北東部新規総合開発計画……正式に呼ぶとこうなんだが、ちょっと長い。
市役所のある北区では『エデンの東開発計画』、つづめて『EE計画』という略称が定着し始めている。
最初のEがEden、次がEastのEを表している。
エデンの東の西は北区なので、とりもなおさず自分たちの北区をエデン(楽園)と称していることになる。
北区には市役所があって、政治的に西之島の中枢であるのでおかしくはないのだが、西区(ふーとん)、南区(カンパニー)、東区(ナバホ村)からすると片腹痛い。
そもそもの西之島の主体はパルス鉱石の採掘で基礎を築いた東西南の三つの区なのだ。
北区は、日本政府の形ばかりの開発事務所が置かれていたにすぎない。市政が布かれて市役所を設置するにあたり、まあ、開発事務所に毛が生えた程度のものと東西南の指導者も住民も高をくくっていた。
しかし、初代市長に推された及川軍平は元来が有能な国交省高級官僚。北東部の開発には立案から、西之島総合開発特別措置法の成立、島内外への根回しなど、おさおさ怠りなく、今や世界中から注目される西之島の代表的存在になっている。
東西南の住民たちは『新アキバ計画』と呼んでいる。
二百年以上前に、世界のオタク文化の中心になったアキバへのリスペクトと平成・令和の時代に爆発的な発展を遂げたことへの憧れがある。
「わたしはアキバ計画の方が好きですよ」
ランチのひと時、コーヒー片手に西之島新聞を読みながらココちゃんが笑う。
「あら、いいのかしら、お姫様がそんなこと言って」
「あ、お姫様はブーです」
「アハハ」
「ココは皇嗣ではないんですから、この程度の好き嫌いはいいんです。三百五十年前、江戸が首都になるにあたって『東京』と名付けたでしょ。東京というのは東の『京』という意味です。つまり本家の京と比べても同等で見劣りしないということです。その心意気が素敵です。思いません所長?」
「そうだね、世界的に言っても北京や南京と並ぶ名称だもんね」
「はい、火星の扶桑国が幕府を名乗っているのと同じくらいのアイデアだと思います」
「そうだね、アキバというのは熱い名前だもんね」
「アキバは秋葉原というのが23世紀の今日でも正式な名前です。堂々とアキバを名乗ってもいいんです!」
「まあ、世界のアキバだからね。新アキバぐらいにしといたほうがいい……あれ? パチパチたちじゃない?」
三人のパチパチたちが馬に乗ってラボのゲートに入って来るのが見えた。
そう言えば、西之島銀行の定例店長会議があるとか言ってた。
『おもしろいパルス鉱石見つけたんで見せにきました』
「あんたたち、まだ作業機械だったころの癖が抜けないのね」
ニッパチ・イッパチ・サンパチの三人は、元々は可変多用途作業機械だったけど、西之島銀行を作るのにあたって、その業務に合うように義体を与えてある。それぞれ容姿は違うけど、身長150程度の女性義体。3Dパルスセンサーを残すにあたって、収容場所が胸部にしかないものだから女性義体、それも、その大きさから少女の義体にしてある。
それで、外見は新人の窓口業務という感じだが、銀行業務以外のことは、作業機械であったころのクセが抜けていない。
『会議が早く終わったときは、三人で坑内に潜っておるのでござるがな、去年採取した高密度パルス鉱石が、ちょっと面白うござる』
侍言葉の抜けないサンパチが鉱石の入ったカプセルを差し出す。なんだか部活の報告に来たJKのようだ。
『普通のパルス鉱石は半年で、0.00002%減衰するあるが、このパルス鉱石減衰しないアルよ』
「計測ミスじゃないのか?」
『念のため、三回やりました』
『カンパニー・フートン・村、三つの計測器を使ったアル』
「それって、三人の内蔵センサー使ったってことよね?」
『はい』『いかにも』『たこにも』
三人揃って胸を張る。
「か、かわいい(#゚Д゚#)」
「ただの計測器だから、ココちゃん(^_^;)」
「計測データとかは、すぐに出ますかニッパチさん」
『はい、そこのモニターに出します』
ニッパチが流し目を送ると、モニターにデータが現れる。
「その流し目、人間の男にはしちゃダメよ」
『はい、でもクセになって……データはどうですか?』
「……うん、ラボと同じ条件でやってる……おかしいね、ほんとに減衰してない」
「……これで、負荷テストやっても減衰しないようなら、世紀の大発見ですね!」
『『『大発見!?』』』
これが、新アキバ計画と並ぶ西之島大発展の起爆剤になるとまでは思っていなかった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
須磨宮心子内親王 今上陛下の妹宮の娘
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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