銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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153『邂逅する者たち・1・ブンカ―』

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銀河太平記

153『邂逅する者たち・1・ブンカ―』越萌マリ(児玉元帥) 




 ブンカ―のドックは中型小型の船や水陸両用車でごった返していた。


 ドックを上がった待機エリアや整備エリアも足の踏み場が無い状況だ。

 到着したボランティア、配置の指示や装備の配給を待つ者、補給品の整理や管理をする者、装備を修理する者、負傷者の手当てをする者とされる者、戦死者を確認しながらシュラフに収める者、戦闘配食の用意をする者、片づける者、ドック各所に設置されたモニターを睨んで、どこまで正確か分からない戦況に一喜一憂する者、見ているだけで魚のように表情のない者、そういう、もう戦争と言っていい西之島紛争の前線基地の様子をマスとして捉える。

 数字としての戦闘経過や戦闘配置を見るよりも確かな戦争の『現在』が分かる。

 活気と疲労がせめぎ合っているが、負け戦特有の饐えた臭いはしていない。一進一退、ここが辛抱のしどころというところか。

「越萌さーん!」

 馴染みのある声に振り返ると、ニッパチにオンブされたラボのメグミ所長。

「メグミさんも出撃?」

 越萌マリの感性で尋ねる。

「負傷者の手当てに来ました、あ、わたしはロボット専門ですが」

「大変ねぇ、研究職までかり出されてるんだ」

「アハハ、本職は何でも屋ですから」

「負傷ロボットはCとDの柱の間に集められてるみたいよ」

 たったいま確認したばかりのロボット治療所を指さす。

「ありがとうございます。マリさんは、しばらくこちらに?」

「うん、この戦いの目途がつくまではいるつもり……」

 言葉を継ごうと思ったら、わたしを呼ばわる声。



『越萌さーん、こっちでーす!』



 首を振ると、ラッタルの踊り場で及川市長が手を振っている。あそこを上がったところが作戦やブリーフィングのエリアなんだな。

「じゃ、また」

「はい」

 会社の昼休みが終わって、それぞれの部署に戻るような気楽さで別れる。周囲はとても昼休という状況では無いんだが、それに浮足立つようでは先は無い。

「ありがとうございます。発光信号で越萌さんと分かってびっくりしました、ここを上がったところが作戦室です。市庁舎が爆撃を受けたので、今は、ここが島の中枢です。あ、足もとに気を付けてください、緊急に司令部機能を整えたんで、配線なんかがむき出しで」

「大丈夫です、島の幹部の方々は御無事で?」

「はい、ロボットの方々が初戦でがんばってくださって、なんとか五分五分というところで……あ、親王殿下、越萌さんをお連れしました」

 ハンガーを仕切っただけの作戦室には特設のモニターや各種機器が並び、制服もまちまちな公務員や志願者、ボランティアたちが、忙しく作業や連絡の真っ最中だ。

 親王殿下と呼ばれてモニターから顔を上げたのはお馴染みの氷室社長。

 綸旨を発してからは島内でも、その呼称を親王に変えているようだ。

「ありがとうございます越萌さん。シマイルカンパニーがご援助してくださるという知らせだけで百人力です。その上、CEO自らお出ましいただいて感謝に耐えません」

「頭を上げてください、仮にも綸旨を発して親王を称しておられるのです。わたし如きに笑顔はともかく、度を過ぎた敬礼は不要です」

「あ、すみません、まだ慣れないもので(^△^;)」

「いえいえ、初めてお目にかかってから、お若いに似ず大人の風格のあるお方と思っていました。総司令官としてドンと構えていてください。政府が対日武力行使と認めない状況、法的制約があるので会社としてできることは限られていますが、越萌マリ個人は一兵卒として奮闘いたします」

「ありがとうございます。日没後には作戦会議が始まります。どうか、それまでは体を休めていてください」

「いえ、とりあえずは島の状況を確認します」

「え、今からですか?」

「はい、善は急げというところです」

「それなら人を付けましょう」

「いえ、うちの運転手は元満州軍の精鋭でしたから」

「でも、予備役の方では」

「ハハ、この島で戦っている現役兵は敵の漢明軍にしかいないでしょ」

「あ、それもそうだ。承知しました、でも、くれぐれも無茶はなさいませんように」

「はい、では1830には戻ります」

「おお、ヒトハチサンマル、雰囲気ですねえ」

「素人ですからカタチからです」



 ラッタルを降りる途中C・Dの柱に目をやる。メグミ所長が瀕死のロボットを治療している。隣のEの柱の下では人間の兵士が治療を受けている。働いている看護師の何人かは市民病院で見た顔だ。本土からやってきた者はあらかた帰ったと思ったが例外は……あらためて見渡すと、けっこういる。

 日本政府は腐っているが、どうして、日本人は捨てたものではない。

「日本人ばかりではないアルよ」

 変な日本語に振り返ると、ラッタルを下りてくるもう一人の顔見知り。

「おお、孫大人!?」

 思わず声が大きくなった。




 ☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

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