銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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221『溶接マスクとシゲジイと』

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銀河太平記

221『溶接マスクとシゲジイと』サブ 




 シゲ老人は、今でこそ氷室神社の神主、むつかしい言葉では宮司(ぐうじ)って言うらしいけど、元々は叩上げの坑夫。腕は確かだけども口うるさい年寄で、島のみんなからは「シゲジイ」と呼ばれてきた。

 シゲ老人とか微妙に優しい呼び方をされ始めたのは、及川市長が『市政だより』で、シゲ老人と紹介してからだ。

 本土からやってきた新島民には、そういう穏やかな呼び方がいいらしい。弟子のオレとしては、そういう石鹸臭い呼び方は嫌いなんだけど、本人が気にしていないんだから、仕方がない。

 そのシゲ老人が久々に坑夫のナリで選鉱場にやってきた。

「神社は休みなんすか?」

「神社に休みはねえ」

 なんだか、少し怒ったような口ぶりで、以前そうだったように煙缶の傍のベンチに腰掛ける。

「サブ先輩、あの人はぁ?」「なんか、おっかないっすね」

 本土出身の新人たちが怯える。どうも神社の神主とは分からないようだ。

「また『市政だより』に載せるってからよ」

「で、なんで昔の作業服?」

「神社の特集組むんだそうでよ、神主の紹介でよ、昔のナリのを撮りたいっていうからよ」

「あ、そうっすか(^_^;)」

「久々に着たら、なんか石鹸臭くってよ。ここに来りゃ昔のニオイが付くかと思ってよ。写真とか撮るんなら、ロケーションとしては一番だしな」

「ああ、ほんとだ。石鹸の匂いのシゲさんて、新鮮だなあ」

「こ、こら、嗅ぐんじゃねえ(#>△<#)」

「だって、自分で洗濯したんでしょ?」

「だれがするもんか、ハナのやつがよぉ」

「ええ、ハナが!?」

 ハナも鉱山で働いていた。お岩食堂の手伝いをするうちに神社の巫女も兼ねるようになり、今ではそっちの方が本業になってきている。

「ありゃあ、いい嫁になるぞ。どうだ、サブ?」

「え……ああ、オレは子孫残したい派なんでぇ(^_^;)」

 ハルがロボットなのは、先年の戦争で明らかだ。首の半分を吹き飛ばされて生きている人間なんてあり得ない。

「いや、あいつはサイボーグなんだ。まだ半分近く人間の機能を残してる。ラボのメグミが言ってるから確かだ」

「え、そうなんすか?」

「むろん、そっちの機能も残ってる。まあ、本人に自覚はなさそうだけどな」

「そ、そうなんだ(#'∀'#)」

「まあ、おめえか兵二か……」

 久々に現場にやってきた照れ隠しなんだろうけど、話が飛躍しすぎ……と思ったら、ベテランらしく、選鉱場のあれこれをチェックもしている。

「なんか忙しそうだな」

「あ、選鉱機が新しくなって」

「ああ、優秀だって殿下も村長も言ってたな。変更はもう終わったんだろ?」

「うん、でも、あちこち微調整。新人たちもがんばってるしな」

「おい、ちょっと、その溶接面見せてみろ」

「え、これっすか?」

 新人がコンベアの調整に使っている溶接マスクを取り上げて、溶接棒をスパークさせる。

 バチバチバチ!

「バカヤロ! これは透過率が高すぎる、目を傷めっちまうぞ」

「あ、それは」

 新人はシゲジイには慣れていない、反射的に割って入る。

「先月買った新製品で、試験的に買ったんす。溶接対象も良く見えるって触れ込みだったんすけど、シゲジイの言う通りだから、次のが来たら廃棄に……」

「それも、もったいねえなあ……」

「うん、だから……」

「そうだ、ちょっと、貰っていくぞ!」

「あ、シゲジイ!」

 
 シゲジイは溶接マスクを持って帰ると、それで、拝殿の鳥居越しに太陽を見た。

 すると、いい塩梅に鳥居の輪郭を残しながら太陽が拝める。

「南中したお日さま拝むのがいちばんの御利益だって、シゲジイ喜んでたぞ(^▽^)」

 巫女服のハナが言う。

「ラボのメグミも言ってたけどよ、拝殿の鳥居から空とかお日さまとか拝むと、他よりもドーパミンとかセロトニンの量が違うってよ」

「そうなのか?」

「やっぱ、神さまってご利益あんだなあ」

「そうなんだ」

「うちの選鉱機もスグレモンになったって話じゃねえか」

「ああ、メグミさんの発明でよ。パルス鉱って精錬の過程でへたっちまうんだけど、選鉱の時に特殊なパルス波と振動を加えると、純度が上がるんだ」

「ええ、選鉱するだけで純度が上がんのかよ!?」

「ああ、鉱石がウブなうちにやると地中で生成された時の分子配列がどーのこーので……とにかく効果抜群なんだ!」

「あはは、どーのこーのってのはサブらしくていいな(^○^)」

「げ、現場の穴掘りに理屈はいらねえんだ。け、結果が全てなんだ、結果がな」

「そりゃそうだ、オ、ちょうどお日様が南中してきたぞ! いっしょに拝もうぜ!」

「お、おお」

 溶接マスクを持って拝殿の前に並んで立つ。

「もっと、こっち寄れ、真ん中で拝んだ方がご利益あんだぞ!」

「おお……(;'∀')」

 シゲジイと同じ匂いがする。

 シゲジイの時とは違って、頭がクラクラして、ちょっと困った。

 

☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女

※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 
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