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229『騒東鈴』
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銀河太平記
229『騒東鈴』孫大人
ブ~~~~~~ン
主電源を入れると、蚊の鳴くような起動音がしてJR東の目玉がクルクル回る。目を閉じているので目蓋がグリグリするだけなんだが、これを目蓋が開いた状態でやられると、ちょっとシュールだろう。
ウィーーーーン
カプセルが開くと、スチームアイロンの残り湯を捨てた程度の蒸気が漏れる。JRの生体組織を守るために還流していた蒸気が解放される音だ。
キューーコロコロコロ……
続いて、育ち盛りの子どもがお腹を減らした時のような音がする。休眠していた内臓が働きだしたんだ。Jシリーズのロボットの生体組織は人間同様の食物摂取で維持されている。モスボールが解かれると、その生体組織が急速に働きを取り戻す。
「老けましたね、マスター」
「ああ、かれこれ三十年ぶりだからな。きみは相変わらずだ」
「生体組織の加齢処理をしますか?」
「いいや、これでいいアルヨ」
「おお、懐かしい……マスターのアルアル言葉。緊張した時とか、なにか誤魔化したいときにアルアル語になるんですよね」
「うるさいアルヨ、直すアル。なんで、いま、起動したアルか?」
「なにかプログラムされていたっぽいのですが、分かりません」
「ええと……とりあえず、なにか身につけようか」
タッチパネルを押してカプセルの下に格納されている衣装ラックを出してやる。
「え……ああ、こういう時は恥ずかしがらなきゃいけないんですよね……あ、ハ、ズ、カ、シ、イ」
「なんか、おざなりアル」
「まだ情緒表現のデータベースが起動しきれていないので……」
「よっこいしょ……」
人間らしい掛け声をかけてカプセルから出てくるJR東。
プ~~~~~~
「あ、思わず排気してしまった」
「早く、服着るアルヨ(''◇'')!」
「ハイ、アルヨ('◇')ゞ」
「おちょくるなぁ! アルヨ(^_^;)!」
カジュアルなジーンズとブルゾンを着たJR東を真カルチェタランに連れていき飯を食わせる。
「總經理(ヅォン ヂィン リィー)、この子を店で働かせるんでございますか?」
支配人が耳もとで囁く。JR東の雰囲気は、高級店と言われる真カルチェタランにはそぐわない。
「え、あ、鈴麗の妹、行儀見習いで俺の秘書……アル」
「秘書ですか!?」
「あ……まあ、当分は仕事も見習いアル。今日は飯食いに来ただけアル」
「承知いたしました。ご注文は?」
「ええとね……これとあれと、それと、あれもこれも……」
満漢全席かというくらいのオーダーをするJR東。
「JR東、おまえ、そんなキャラだったあるか? それとも、まだデータベースが起動しきれてないアルか?」
「ああ、なんか、これで固着してしまったかな(^_^;)、まあ、スペック的には問題ないから、ムシャムシャ」
「しかし、なんで今、起動したアルかぁ?」
「さあ……それより、ムシャムシャ、名前つけてよ、いちいちJR東じゃ言いにくいっしょ。わたしもヤダし、ハムハム……」
「グヌヌ、居続ける気マンマンアルなあ」
「こうやって目覚めたってことは意味があるんだろうからさ、ムシャムシャ……」
「グヌヌ……じゃあ、宋東鈴アル!」
「いいねえ、字で書くとどうかなぁ……ソウトンリン……」
騒東鈴
ハンベをモニターにして出てきた文字は「ソウ」の字が違うが、印象としてはピッタリアル。
「ねえ、203地点に行きたい」
水餃子の最後の一個をかっさらうようにして口に放り込み、青島ビールで飲み下すと、指を立てて宣言する。
「203地点……」
「うん、あの203地点」
203地点……それは、奉天包囲戦のさ中、児玉元帥がまさかの敵弾をくらって、肉体的に戦死した地点。人類史上初めてPIが成された記念の地だったアル。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
229『騒東鈴』孫大人
ブ~~~~~~ン
主電源を入れると、蚊の鳴くような起動音がしてJR東の目玉がクルクル回る。目を閉じているので目蓋がグリグリするだけなんだが、これを目蓋が開いた状態でやられると、ちょっとシュールだろう。
ウィーーーーン
カプセルが開くと、スチームアイロンの残り湯を捨てた程度の蒸気が漏れる。JRの生体組織を守るために還流していた蒸気が解放される音だ。
キューーコロコロコロ……
続いて、育ち盛りの子どもがお腹を減らした時のような音がする。休眠していた内臓が働きだしたんだ。Jシリーズのロボットの生体組織は人間同様の食物摂取で維持されている。モスボールが解かれると、その生体組織が急速に働きを取り戻す。
「老けましたね、マスター」
「ああ、かれこれ三十年ぶりだからな。きみは相変わらずだ」
「生体組織の加齢処理をしますか?」
「いいや、これでいいアルヨ」
「おお、懐かしい……マスターのアルアル言葉。緊張した時とか、なにか誤魔化したいときにアルアル語になるんですよね」
「うるさいアルヨ、直すアル。なんで、いま、起動したアルか?」
「なにかプログラムされていたっぽいのですが、分かりません」
「ええと……とりあえず、なにか身につけようか」
タッチパネルを押してカプセルの下に格納されている衣装ラックを出してやる。
「え……ああ、こういう時は恥ずかしがらなきゃいけないんですよね……あ、ハ、ズ、カ、シ、イ」
「なんか、おざなりアル」
「まだ情緒表現のデータベースが起動しきれていないので……」
「よっこいしょ……」
人間らしい掛け声をかけてカプセルから出てくるJR東。
プ~~~~~~
「あ、思わず排気してしまった」
「早く、服着るアルヨ(''◇'')!」
「ハイ、アルヨ('◇')ゞ」
「おちょくるなぁ! アルヨ(^_^;)!」
カジュアルなジーンズとブルゾンを着たJR東を真カルチェタランに連れていき飯を食わせる。
「總經理(ヅォン ヂィン リィー)、この子を店で働かせるんでございますか?」
支配人が耳もとで囁く。JR東の雰囲気は、高級店と言われる真カルチェタランにはそぐわない。
「え、あ、鈴麗の妹、行儀見習いで俺の秘書……アル」
「秘書ですか!?」
「あ……まあ、当分は仕事も見習いアル。今日は飯食いに来ただけアル」
「承知いたしました。ご注文は?」
「ええとね……これとあれと、それと、あれもこれも……」
満漢全席かというくらいのオーダーをするJR東。
「JR東、おまえ、そんなキャラだったあるか? それとも、まだデータベースが起動しきれてないアルか?」
「ああ、なんか、これで固着してしまったかな(^_^;)、まあ、スペック的には問題ないから、ムシャムシャ」
「しかし、なんで今、起動したアルかぁ?」
「さあ……それより、ムシャムシャ、名前つけてよ、いちいちJR東じゃ言いにくいっしょ。わたしもヤダし、ハムハム……」
「グヌヌ、居続ける気マンマンアルなあ」
「こうやって目覚めたってことは意味があるんだろうからさ、ムシャムシャ……」
「グヌヌ……じゃあ、宋東鈴アル!」
「いいねえ、字で書くとどうかなぁ……ソウトンリン……」
騒東鈴
ハンベをモニターにして出てきた文字は「ソウ」の字が違うが、印象としてはピッタリアル。
「ねえ、203地点に行きたい」
水餃子の最後の一個をかっさらうようにして口に放り込み、青島ビールで飲み下すと、指を立てて宣言する。
「203地点……」
「うん、あの203地点」
203地点……それは、奉天包囲戦のさ中、児玉元帥がまさかの敵弾をくらって、肉体的に戦死した地点。人類史上初めてPIが成された記念の地だったアル。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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