銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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245『ハナの皮膚を張り替える』

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銀河太平記

245『ハナの皮膚を張り替える』 メグミ




「新造した方が早いんだけどねえ……」

「フフ、メグさん、三回目だぞ」

「あ……でもねえ」

 つい言ってしまう。

 胸の皮膚を張り替えてやりながら、つい口に出てしまう。

 ハナの義体は世代も型番も違う寄せ集めで出来ている。そのために、全身を同じ規格の表皮で覆うことができない。当然色合いも質感も異なり、見た目にはほとんどフランケンシュタインだ。
 
 西之島戦争では全損といっていいダメージを受けたハナだけど、コアブレインが無事だったので奇跡的に復元してやることができた。
 思えば、あの時に新造ボディーにしてやれば良かったんだけど、早く現場に戻りたがったし、正直ハナ一人に十分な時間や資材をかけてやる余裕も無かった。本人も全然平気にしていたしね。取りあえずは首から上と肩から先の見てくれだけを整えてやった。

「着替えの度にバイトの子が卒倒するようじゃなあ」

「あ、まあ、それもそうだけどな」

「とりあえずは、腕と胸から上だけはやっておこう」

「何分ぐらいかかる?」

「まあ、半日だね」

「半日もジッとしてんのかよ!?」

「辛抱しろ、いちおう外国に行くんだ人をビビらすことのないようにしとかなくちゃな」

「あ、ああ、分かったよ。でもさ、半日黙ってたら死んじまうからよ、なにか話してくれよ」

「そうだな、こんな機会もそうそう無いだろうしな」

 昨日の『KMミリタリー』を見てマイ(児玉元帥)さんが現地に行くと言い出した。

 青銅の騎士がひっかかったんだ。

 青銅の騎士はロシアが作ったロボット騎士。個体によっては人の脳を使っているという情報もあって、それを信じるならハナと同様、義体化が進んだ人間ということになるが、詳細は秘匿されているのでロボットにカテゴライズされている。

 製造にあたってはパルス動力の工作機械を騎士一機の製造に一台摺りつぶすほどに使われており、特に骨格と外殻は並のパルス特殊鋼の数倍の強さがあると言われ、運動性能と抗堪性(こうたんせい) は世界一だと言われている。
 それに、動力はパルス機関ではなくボディーに収められた超小型核融合炉なので、AP機の影響を受けないし、道義的責任を問われることもない。

 マイさんや王春華のスペックなら倒せないことも無いだろうが、重装甲の戦闘艦を撃破するくらいの手間と時間がかかる。まして、青銅の騎士は人の形と大きさ。数はそれほど多くは無いだろうが、連携してかかって来られたら攻撃できる時間も限られる。

 まあ、それもこれも含めて現物を見て、対策を考えようというのがマイさんの狙いなんだろう。

 阻止しなければならないのは、ロシア軍の漢明への侵入だ。侵入したとしても数個騎兵旅団でどうこうできるほど漢明は甘くない。せいぜい、数時間か数日か侵入した事実を残せるだけだ。
 しかし、ほんの数日でも居座られては漢明の威信が揺らぐ。威信が揺らげば、周辺国は漢明を侮り、国内的にも安定を欠くことになる。せっかくPIに成功して順調に内政を立て直しつつある劉宏政権の土台を揺るがすことになる。

 今の劉宏政権なら日本や西之島との平和的共存の道を探っていくに違いない。漢明が再び武断的政策をとるようになれば、漢明自身にも大きな損失、後退になるだろうし、世界の恒久的平和も絵に描いた餅になり果ててしまうだろう。

 地球が乱れれば月や火星も不安定化し、宇宙規模で言えばようやく緒に就いたばかりの太陽系の開拓、銀河宇宙への進出にも望ましくない影響が出るに違いない。

「なあ、一人で自分の世界に入られたら、退屈で仕方ねえんだけど」

「え、ああ、ごめんごめん(^_^;)。ハナはさ、将来の夢とかあるのか?」

「夢? 夢なら、もう叶ってるぞ」

「そうなのか?」

「うん、食うに困らなくってよ、なんでも言える仲間がいてよ、仕事もあってよ。食堂と神社と鉱山。一人で三つもこなせてよ、シゲジイもお岩さんも口は悪いけどよ、なんか、お袋と親父みたいでよ。メグさんは姉ちゃんみたいだし、バイトの連中は近所の手下って感じで。ハナ的には言うことねえ」

「そうか、そうなんだ」

「ああ、そうさ。だからよ、この島守ることなら、なんだってしてやる」

「それは心強いな」

「おお、任せとけ」

「でもさ、ハナはまだまだ若いじゃないか」

「お、おう。永遠の十七歳ってやつだ」

「ハハ、なんか似合わねえ」

「うっせー!」

「お姉ちゃんだからな」

「くそ、余計なこと言っちまった(;'∀')」

「旅行したいとか思わないのか?」

「え、ああ……」

「どうしたぁ?」

「西之島以外じゃ、その……いいこと無かったしな」

「ハナが見た世界なんて、ほんのハナクソみたいなもんだぞ」

「あはは、ハナクソかぁ……うん、クソにはちげえねえよ」

「いつか世界が平和になったら、お姉ちゃんと世界旅行に行こう!」

「世界旅行? メグさんとかあ?」

「いやか?」

「あ……それもいいけど、島のみんなで行くのもいいなあ」

「団体旅行かぁ……」

「それと……」

「それと?」

「え、あ……なんでもねえ」

 それから、ずっとあれこれ脈絡もなくお喋りして、最後に皮膚の定着をし終わった時、この妹分は静かに寝息を立てていた。


 
☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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