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259『殿下の到着』
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銀河太平記
259『殿下の到着』 胡盛媛中尉
歴代の大統領で劉宏大統領はピカイチだと思う。
漢明人として日本語のスラングである『ピカイチ』を使うのは憚られるんだけど、西之島で憶えた『ピカイチ』は親しみと尊敬の心が籠っていて好き。
それに、これは漢明軍の胡盛媛中尉としてではなく、フーちゃんの感想だからね。
フーちゃんというのはお岩食堂のお岩さんとハナちゃんが付けてくれた愛称。苗字が『胡』だから漢明の発音で『フー』、それに『ちゃん』を付けただけなんだけど、とても馴染んでる。下の名前だと『シェンエン』でしょ、これに『ちゃん』を付けたら『シェンエンちゃん』。ちょっと舌噛みそう。
そのピカイチ大統領に付き添って、大統領府にいくつかある客室の一つに向かっている。
廊下の窓から見える庭には出入りの造園業者のバンが停まっていて、それをチラッと見て、大統領は脚を緩めて一番端の客室に入る。もう覚悟を決めているので、わたしもそれに続く。
「ご苦労でした船長」
まずは、造園業者のお仕着せを着た船長を労って、ベッドのそばに寄る。
「……お眠りになっているのね」
「はい、混乱されるといけませんので、ご本人の了解を得て眠って頂いております」
「ありがとう。行き届いた配慮に感謝します。林船長」
「それでは、これで失礼します」
ビシッと敬礼する船長、それに何かを感じて大統領は振り返った。
「あ、ちょっと」
「ハ」
「……あ、やっぱり尊宅か、栗尊宅(りつそんたく)!」
「あ……分かってしまいましたか」
「いや、苗字が林に変わって……分からなかったぞ、昔はそんなに恰幅も良くなかったしな」
「ハ、宙軍に入った翌年に養子に出されましたので……輸送船に乗るようになってからは、体重も五割り増しになりましたし」
「あ、紹介しておこう。むかし、うちの運転手をやっていた栗尊宅だ、こちらは殿下の世話をしてくれる胡盛媛中尉だ」
「あ、胡盛徳大佐の……」
「はい、広報部の胡盛媛中尉です」
造園業者のお仕着せを着ているとはいえ、輸送船の船長、中佐か大佐、あるいは除隊したのかもだけど、それでも中佐か大佐待遇。礼は欠かせない……けども、わたしは、いつ森之宮殿下のお世話係に……まあ、情報を知らされた時点で覚悟はしてたけど(^_^;)。
「しかし、閣下も……承知してはおりましたが、見事にお変わりになられましたなあ」
「え、あ、そうだ、つい昔の喋り方になってしまった(''◇'')」
「自分には、その方が懐かしいであります」
「そうはいかないわ、PIしてからは人格変えたんですからね」
「は、はあ、いずれにしろ大統領に変わりはありません」
軽く背筋を伸ばす船長。
「たしか、船長は今度の航海で引退だったわね……」
ハンベで確認する大統領、左手の内側に付けているから、とても女性的な仕草になる。
「はい、ですが、この事故で船はドック入りですし、このまま本社の本部付になって定年になるかと思います」
「そうなのね……じゃ、いっそ今日にでも辞めて、大統領参与にならない?」
「え、大統領参与ですか?」
「うん、このフーちゃんと一緒に殿下のお世話係りやってもらえると嬉しいんだけど」
「……殿下のことでしたら、この尊宅、誓って口外することはありません」
「ごめん、そういう意味じゃないの。殿下のことは遅かれ早かれ漏れてしまう。問題は、殿下に早く穏やかに回復していただくこと。そして、その後、どのように処遇させていただいたらいいのか。殿下と共に考えなければならないわ……将軍や高官たちの中には、殿下を利用しようという者も現れるだろうし。そういう者を寄せ付けないためにもあなたたちのような存在が要ると思うの」
「ハ、そういうことでしたら」
「まずは、フーちゃん。殿下がお目覚めになった時は、あなたがお側に居るようにしてもらえるかしら」
「はい、承知しました」
「尊宅さんは……」
「取りあえずは、庭番の詰所にでも居ります。このなりですから」
「そうね、身分の方はわたしが処理しておきます。夕方にはまた顔を出します。では……」
大統領は足早に執務室の方角に歩いて行き、数分後には大統領専用のオイドがヘリポートから飛び立っていくのが見えた。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
259『殿下の到着』 胡盛媛中尉
歴代の大統領で劉宏大統領はピカイチだと思う。
漢明人として日本語のスラングである『ピカイチ』を使うのは憚られるんだけど、西之島で憶えた『ピカイチ』は親しみと尊敬の心が籠っていて好き。
それに、これは漢明軍の胡盛媛中尉としてではなく、フーちゃんの感想だからね。
フーちゃんというのはお岩食堂のお岩さんとハナちゃんが付けてくれた愛称。苗字が『胡』だから漢明の発音で『フー』、それに『ちゃん』を付けただけなんだけど、とても馴染んでる。下の名前だと『シェンエン』でしょ、これに『ちゃん』を付けたら『シェンエンちゃん』。ちょっと舌噛みそう。
そのピカイチ大統領に付き添って、大統領府にいくつかある客室の一つに向かっている。
廊下の窓から見える庭には出入りの造園業者のバンが停まっていて、それをチラッと見て、大統領は脚を緩めて一番端の客室に入る。もう覚悟を決めているので、わたしもそれに続く。
「ご苦労でした船長」
まずは、造園業者のお仕着せを着た船長を労って、ベッドのそばに寄る。
「……お眠りになっているのね」
「はい、混乱されるといけませんので、ご本人の了解を得て眠って頂いております」
「ありがとう。行き届いた配慮に感謝します。林船長」
「それでは、これで失礼します」
ビシッと敬礼する船長、それに何かを感じて大統領は振り返った。
「あ、ちょっと」
「ハ」
「……あ、やっぱり尊宅か、栗尊宅(りつそんたく)!」
「あ……分かってしまいましたか」
「いや、苗字が林に変わって……分からなかったぞ、昔はそんなに恰幅も良くなかったしな」
「ハ、宙軍に入った翌年に養子に出されましたので……輸送船に乗るようになってからは、体重も五割り増しになりましたし」
「あ、紹介しておこう。むかし、うちの運転手をやっていた栗尊宅だ、こちらは殿下の世話をしてくれる胡盛媛中尉だ」
「あ、胡盛徳大佐の……」
「はい、広報部の胡盛媛中尉です」
造園業者のお仕着せを着ているとはいえ、輸送船の船長、中佐か大佐、あるいは除隊したのかもだけど、それでも中佐か大佐待遇。礼は欠かせない……けども、わたしは、いつ森之宮殿下のお世話係に……まあ、情報を知らされた時点で覚悟はしてたけど(^_^;)。
「しかし、閣下も……承知してはおりましたが、見事にお変わりになられましたなあ」
「え、あ、そうだ、つい昔の喋り方になってしまった(''◇'')」
「自分には、その方が懐かしいであります」
「そうはいかないわ、PIしてからは人格変えたんですからね」
「は、はあ、いずれにしろ大統領に変わりはありません」
軽く背筋を伸ばす船長。
「たしか、船長は今度の航海で引退だったわね……」
ハンベで確認する大統領、左手の内側に付けているから、とても女性的な仕草になる。
「はい、ですが、この事故で船はドック入りですし、このまま本社の本部付になって定年になるかと思います」
「そうなのね……じゃ、いっそ今日にでも辞めて、大統領参与にならない?」
「え、大統領参与ですか?」
「うん、このフーちゃんと一緒に殿下のお世話係りやってもらえると嬉しいんだけど」
「……殿下のことでしたら、この尊宅、誓って口外することはありません」
「ごめん、そういう意味じゃないの。殿下のことは遅かれ早かれ漏れてしまう。問題は、殿下に早く穏やかに回復していただくこと。そして、その後、どのように処遇させていただいたらいいのか。殿下と共に考えなければならないわ……将軍や高官たちの中には、殿下を利用しようという者も現れるだろうし。そういう者を寄せ付けないためにもあなたたちのような存在が要ると思うの」
「ハ、そういうことでしたら」
「まずは、フーちゃん。殿下がお目覚めになった時は、あなたがお側に居るようにしてもらえるかしら」
「はい、承知しました」
「尊宅さんは……」
「取りあえずは、庭番の詰所にでも居ります。このなりですから」
「そうね、身分の方はわたしが処理しておきます。夕方にはまた顔を出します。では……」
大統領は足早に執務室の方角に歩いて行き、数分後には大統領専用のオイドがヘリポートから飛び立っていくのが見えた。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー
テムジン モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン) 銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく) 輸送船の船長 大統領府参与
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 重要事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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