銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお

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290『大使館炎上!』

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銀河太平記

290『大使館炎上!』 ツナカン 




 朝陽公園で、もう一度明細書を見るっス。

 よく見るとツナカンの名前は薄いシールになっていて、剥がすとちゃんと猫猫っス。

 明細書から足が付かないための配慮っスね(^_^;)。

 自分はオッチョコチョイっスからね、ちゃんとかけるさん分かってるっス。

 シンミリしてると、ハンベが『いまの気分』てロゴを映したっス。


 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも 


 なんじゃこれは?

 不思議に思ってると説明が続くっス。

――むかしむかし唐の時代、阿倍仲麻呂という日本人が留学に来ていましたが、大変優秀な人物で時の玄宗皇帝にたいへん可愛がられ、重く用いられて帰国を許されませんでした。それで月を見て「春日の三笠山の上に出る月もこんなだったなあ」と故郷を偲んだとさ――

 そ、そうか! ツナカンも優秀だから、ここで奮起してがんばれってことなんだ! がんばるしか無いっス!

 朝陽公園の林を山に見立てて振り仰ぐとおあつらえむきの早出のお月さまが出てるっス。

 ……なんか半日ボンヤリしてしまったみたいっス。

 あれぇ?

 月が微妙にかげってる……と思ったら、煙が立ち上ってるっス!

 あの方角は……三里屯の北側で大使館がいっぱいあるところっス!

――日本大使館で火災発生、炎上中!――

 ハンベが緊急速報を流して、自分は日本大使館に走ったっス!

 タタタタタタタタタタタタタ

 久々の全力疾走っス!

 胸の奥なのか腹の底なのか、このツナカンを急き立てるものが付き上げてきて、全力で走ってしまうっス!

 自分はヒンメルの副長っスから、常に冷静っス。そういう風に船長が鍛えてくれたからっス。

『おまえのガッツは人並外れてるが、八割に抑えておけ。残り二割の冷静さを失わなければ、このアルルカンの有能な副官が務まる』

 そう言われて奮起もし自重もしてきたっス。

 でも、北京に来てからは、ちょっとタガが外れてるっぽいっス。

 北京は取り澄ました外見をしてるっスけど、ファジーってのか横着ってのか融通きかしてるってのか、その時その時のノリとツッコミってところがあるっス。

 なんか、戦災孤児だったころ手下のガキを引き連れて走り回ってたころの呼吸になってるっス。

 そのころの感覚が――走れ!――って自分に言うっス!

 
 大使館は別館ぽいところから出火して、それがちょうど燃え盛ってるところで、大使館の自動消火システムが盛大に水のカーテンを張って類焼を防いでいるところっス! 北京市の消防車も何十台も来ていて、これも精いっぱい放水してるっス。

 続々と野次馬が集まって興奮してるっス。

 ここんとこ続いてる日貨排斥と不景気で日本への憎しみが溢れてるやつ。気の毒そうに眉をひそめてるやつ。そのどちらでもなく、本能的に恐れおののいてるやつ。

 そんな有象無象の中に一人オーラを放ってる少女が見えたっス。

 ほかの野次馬とちがって動物的な情念やら怖れは感じないっス。ひどく冷静なんすけど、目の前の事態をしっかり目に焼き付けて――なんとかしなくちゃ――と思ってる顔っス。
 時どき、傍の男たちに呟いて、そのつど男たちは畏まってよそに行き、また戻って来ては少女に囁いてるっス。

 え……劉宏大統領?

 そうっス! 現物は見たこと無いっスけど、あれはPIをやって以来、可憐な少女の義体に収まってる劉宏っス!

 ええぇぇぇ…………

 野次馬たちから盛大なため息があがったっス。劉宏に目を奪われてた自分はすぐに燃える大使館に目を戻したっス。

 ええ( ゚Д゚)!?

 今度は自分で声をあげたっス!

 なんと、別館からの火を防いでいた水のカーテンが無くなってるっス!

 火は勢いを増して、あっという間に本館に燃え移り、隣接するアメリカ大使館は自動的に防火システムが働いて、その国力を示すように盛大な類焼防止の水のカーテンが噴き上がったっス。

 その数秒後には反対側や裏側の大使館からも水のカーテンが立ち上がって、なんだか、日本が世界中から見放されたみたいな感じになってしまったっス。

 

☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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