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7『エスパー・ミナコ・2』
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みなこ転生・7
『エスパー・ミナコ・2』
昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が戦艦大和に乗って沖縄特攻に出撃して戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメて、死と時間の論理をすり替えて、三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ時間軸は崩壊して、湊子は時のさまよい人。時かける少女になってしまった……。
陛下のお声はよく聞き取れなかった。
でも、あの部分で全てが分かった。
――耐え難きを…………耐え、忍びがたきを忍び――
あの「耐えがたきを」の後の間に、あの方の真情が籠められている。
ミナコは思った。
あの大勢の人たちの死はなんだったんだろう。慟哭したい……そんなせき上げる思いも押さえ込み、あのお方は淡々と言葉を紡いでおられた、神官の霊静めの祝詞のように。
ミナコはおののいていた。あの日、ミヨちゃんのお人形と気持ちが通じ、氷室さんたちを敵の航空母艦に誘導した、してしまった。氷室さんたちの願いだったから。
敵は、ちょうど本土空襲のために出撃準備中だった。その飛行甲板の真ん中に氷室さんたちの飛行機が突っこんだ。
「生きて!」
ミナコは心で叫んだ。その瞬間、氷室さんたち三人は鎮守の森に戻ってきた。神さまのお陰……と思われたが、ミナコは知っている。
わたしがやったんだ……。
敵とはいえ、二千人近い人の命を、この手で奪ってしまった。敵も、航空母艦一隻沈められても、すぐに交代の母艦から攻撃隊を出撃させた。その規模は、復讐と志気鼓舞のため、倍近い勢力になり、当然、その損害も倍近くになってしまった。
ミナコは、ただただ怖ろしくて、防空壕で小さくなっていた。そして、そのうちに直撃弾の気配がした。
爆弾というのは、遠くに落ちるのはヒューって音がする。直撃弾は、機関車が落ちてくるように、シュシュシュー!という音がすると旅順で死にそこなったお祖父ちゃんが言っていた。
「だめだ、こりゃあ、直撃弾だ!」
在郷軍人のオジサンが、覚悟を決めたようにまわりの子供たちに覆い被さった。
「それろ、それろ、それろ、それろ……」
ミナコは、そう祈り続けた。すると……爆弾は、ヒューって音に変わり、かなり外れた場所に落ちた。
それでも空襲は止む気配がない。敵も復讐の鬼になっていた。
「いっそ、爆弾ごと、敵の飛行機は爆発しちゃえ!」
そう、恨みに燃えたら、上空のあちこちで、異様な爆発音が続いた。
「て、敵の飛行機が、空中で次々に爆発している!」
ようやく顔を上げた在郷軍人のオジサンがたまげている。
正直、その時はやった! と思った。
空襲が終わって分かった。ミナコの力で、空襲の効果は2/3ほどで済んだ。しかし、ミナコの大事な人がみんな死んでいた。ミナコの防空壕を逸れた爆弾、そのちの一発は、さっきの空間異動で助かったばかりの氷室さんたちも粉々にしていた。もう一発は、山の方に流れていって、松根油をとりにいっていた隣の中学校の生徒を皆殺しにしていた。
ミナコは、ポケットに入っていた不思議なメモの意味が分かったような気がした。
―― みなこ やまのちゅうい ――
このことだったんだ……。
他にも、空中で爆発した敵機の残骸をまともに体に受けて、カヨさんが首を飛ばされて死んでいた。
「わたしの力って、結局自分が助かるだけ。災いはみんな、他の人に行くんだ」
自分の力がイヤになった。
それでも、この玉音放送を聞くまでに、やまれず、力を使ってしまい、敵味方、仲間を数百人殺してしまった。あの神官の霊静めの祝詞のように言葉を紡いでいるお方も同じ気持ち……いや、もっと大きな苦しみと虚脱感に襲われているに違いない。そうミナコは感じた。
「……もう、消えてしまいたい」
そうポツンと独り言を言うと、蝉の声が一瞬途絶えた。
目の前が真っ白になり、ミナコは真っ白い空中に放り出された。まるで海の中か、重力のない空を漂っているようだった。
気づくと、垢じみたブラウスとモンペではなくなっていた。入学したてのころのように新品の制服を着て、髪も、お下げではなく、肩胛骨のしたあたりまでのサラサラの髪になっていた。
「わたし、死ねたんだろうか……」
神さまが憐れんでくださって、せめて入学したころのような清潔な姿にしてくださったんだろうか。
あまりの清楚さに、そう思ったとき、夏の終わり頃の、弱々しい蝉の声が聞こえ始めた。
そして殺気、ミナコは思わず身をかわした……!
『エスパー・ミナコ・2』
昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が戦艦大和に乗って沖縄特攻に出撃して戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメて、死と時間の論理をすり替えて、三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ時間軸は崩壊して、湊子は時のさまよい人。時かける少女になってしまった……。
陛下のお声はよく聞き取れなかった。
でも、あの部分で全てが分かった。
――耐え難きを…………耐え、忍びがたきを忍び――
あの「耐えがたきを」の後の間に、あの方の真情が籠められている。
ミナコは思った。
あの大勢の人たちの死はなんだったんだろう。慟哭したい……そんなせき上げる思いも押さえ込み、あのお方は淡々と言葉を紡いでおられた、神官の霊静めの祝詞のように。
ミナコはおののいていた。あの日、ミヨちゃんのお人形と気持ちが通じ、氷室さんたちを敵の航空母艦に誘導した、してしまった。氷室さんたちの願いだったから。
敵は、ちょうど本土空襲のために出撃準備中だった。その飛行甲板の真ん中に氷室さんたちの飛行機が突っこんだ。
「生きて!」
ミナコは心で叫んだ。その瞬間、氷室さんたち三人は鎮守の森に戻ってきた。神さまのお陰……と思われたが、ミナコは知っている。
わたしがやったんだ……。
敵とはいえ、二千人近い人の命を、この手で奪ってしまった。敵も、航空母艦一隻沈められても、すぐに交代の母艦から攻撃隊を出撃させた。その規模は、復讐と志気鼓舞のため、倍近い勢力になり、当然、その損害も倍近くになってしまった。
ミナコは、ただただ怖ろしくて、防空壕で小さくなっていた。そして、そのうちに直撃弾の気配がした。
爆弾というのは、遠くに落ちるのはヒューって音がする。直撃弾は、機関車が落ちてくるように、シュシュシュー!という音がすると旅順で死にそこなったお祖父ちゃんが言っていた。
「だめだ、こりゃあ、直撃弾だ!」
在郷軍人のオジサンが、覚悟を決めたようにまわりの子供たちに覆い被さった。
「それろ、それろ、それろ、それろ……」
ミナコは、そう祈り続けた。すると……爆弾は、ヒューって音に変わり、かなり外れた場所に落ちた。
それでも空襲は止む気配がない。敵も復讐の鬼になっていた。
「いっそ、爆弾ごと、敵の飛行機は爆発しちゃえ!」
そう、恨みに燃えたら、上空のあちこちで、異様な爆発音が続いた。
「て、敵の飛行機が、空中で次々に爆発している!」
ようやく顔を上げた在郷軍人のオジサンがたまげている。
正直、その時はやった! と思った。
空襲が終わって分かった。ミナコの力で、空襲の効果は2/3ほどで済んだ。しかし、ミナコの大事な人がみんな死んでいた。ミナコの防空壕を逸れた爆弾、そのちの一発は、さっきの空間異動で助かったばかりの氷室さんたちも粉々にしていた。もう一発は、山の方に流れていって、松根油をとりにいっていた隣の中学校の生徒を皆殺しにしていた。
ミナコは、ポケットに入っていた不思議なメモの意味が分かったような気がした。
―― みなこ やまのちゅうい ――
このことだったんだ……。
他にも、空中で爆発した敵機の残骸をまともに体に受けて、カヨさんが首を飛ばされて死んでいた。
「わたしの力って、結局自分が助かるだけ。災いはみんな、他の人に行くんだ」
自分の力がイヤになった。
それでも、この玉音放送を聞くまでに、やまれず、力を使ってしまい、敵味方、仲間を数百人殺してしまった。あの神官の霊静めの祝詞のように言葉を紡いでいるお方も同じ気持ち……いや、もっと大きな苦しみと虚脱感に襲われているに違いない。そうミナコは感じた。
「……もう、消えてしまいたい」
そうポツンと独り言を言うと、蝉の声が一瞬途絶えた。
目の前が真っ白になり、ミナコは真っ白い空中に放り出された。まるで海の中か、重力のない空を漂っているようだった。
気づくと、垢じみたブラウスとモンペではなくなっていた。入学したてのころのように新品の制服を着て、髪も、お下げではなく、肩胛骨のしたあたりまでのサラサラの髪になっていた。
「わたし、死ねたんだろうか……」
神さまが憐れんでくださって、せめて入学したころのような清潔な姿にしてくださったんだろうか。
あまりの清楚さに、そう思ったとき、夏の終わり頃の、弱々しい蝉の声が聞こえ始めた。
そして殺気、ミナコは思わず身をかわした……!
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