上 下
79 / 161

79『スタートラック・19』

しおりを挟む
ミナコ転生

79『スタートラック・19』        


 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……目覚めると、今度は西暦2369年であった。ファルコン・Zでの旅、今度は「コスモス星」だった。



☆………コスモス星・2


「コスモンド抽出開始。アブストラクター(抽出機)インサート」

 ズゴン

 軽い衝撃があった。不安な顔をしていたんだろう、マーク船長が説明してくれた。

「大昔の注射針刺すようなもんや。コスモンドっちゅう鉱石が、この船のエネルギーでな。そのコスモンドをミクロン単位のサイズに砕いて、船の燃料庫に備蓄するんや」
「アブストラクターには、何重にもフィルターが付いているから、ソウルなんかは、入ってこないわ」
 ミナホが答える。
「ソウル?」
「アブストラクトチェック」
「オールグリーン」
「スタート」

 微かに音がしたが、それもすぐに消えた。作業は静かに流れるように進んでいる。

「ソウルというのは、このコスモス星の精神のようなものなの」
「星の精神?」
 星に精神があると、話が飛躍したので、ミナコは思わず声をあげた。
「そうや、この星には心がある。えらい寂しがり屋でな。この星に降りた船の多くが逃がしてもらわれへん。せやから、パッシブは全て切る。関心があると思われるさかいな」
「船長、重量変化に微妙な変化があります」
「……僅かに減っとるなあ。船体の熱膨張との差し引きは?」
「まあ、誤差の範囲です」
 船長は安心した顔になったが、ミナコは不安だった。
「どのくらい、違うんですか?」
「1グラムちょっとやな……気になるか?」
「なんだか胸騒ぎ……」

 それは、突然やってきた。

「アブストラクター停止!……あ、え? 再起動しました」
「船長、重量マイナス47キロ。異常です!」
「47キロ……コスモスのキャビンの閉鎖解除。モニターに出せ!」
「やられました、コスモスさんがいません!」
「星に取り込まれたか!?」
「解析……最初の1グラム減少は、コスモスさんを分子分解したときのものです。今アブストラクターが緊急停止したときに、分子分解したコスモスさんを一気に取り込んだようです!」
 
「そんなことって……」

 ミナコは愕然とした。そして、ミナコの家に迎えに来てくれてきてくれたときから、今までのコスモスの思い出が、懐かしさと共に蘇ってきた。

「全員、コスモスに関するメモリーをパージせえ!」
「あ……!」
 ミナコは怖気が走った。自分の指先が透け始めてきた。
「ミナコ、火星のコンサート記録のチェックと解析をしろ! 観客一人一人のデータまでな!」
「なんで、今!」
「言うこと聞け!」
 船長は、古典的なヘッドマウントアナライザーをミナコに付けさせ、火星ツアーのデータバンクに直結させた。奔流となってデータがミナコの頭に流れ込んできた。
「あと何分かかる」
「アブストラクト、80%。あと一分です!」

 ガクン

「アブストラクター緊急停止!」
「アブストラクターから、何かが上がってきます。圧縮情報のようです。フィルターが破られます!」
「ミナコ、目えつぶれ! ぜったい目ぇ開けるな! 何が聞こえても反応すんな!」

 コックピットにコスモスの3D映像が現れた。ニコニコ笑いかけながら、みんなに近寄ってくる。

「ミナコちゃん……」

 ホログラムは、実体化して、ミナコのヘッドマウントアナライザーに手を掛けた。

「アブストラクト完了」
「アブストラクター引き抜きました!」
「緊急発進!」

 ビュン!

 ファルコンZは、磁石が同極同士で反発しあうような速さで、コスモス星を離れた。
 実体化していたコスモスは3Dに戻り、星の重力圏を離れる頃には消えてしまった。

「ミナコ、ヘッドマウント外してええぞ」

「ああ、頭パンクするかと思った」

 ミナコは、解析情報を振り払うかのように頭を振った。
 
「コスモスの情報、各自インストール。バルス、コスモスのバックアップデータ復元」
「船長、コスモスさんは?」
「再生する。ちょっと時間はかかるけどな」
「船長、コスモスの外見は以前のままでいいですね」
「ああ、あれが完成形やさかいな」

 そして、十時間ほどして、コスモスがキャビンから現れた。

「ああ、よく寝た。船長、異常はなかったですか?」
「全て、順調。次いくぞ」

 ファルコンZは、次の宇宙を目指した。
 

しおりを挟む

処理中です...