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80『銀河連邦大使・1』

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ミナコ転生

80『銀河連邦大使・1』         


 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……目覚めると、今度は西暦2369年であった。ファルコン・Zでの旅……銀河連邦大使に出会った。



☆………銀河連邦大使

「嫌なやつと出会いそうやな……」

 チャートを見ながらマーク船長が呟いた。

「誰、嫌なやつって?」
「銀河連邦のオフィシャルシップ。無視してくれたらええねんけどな。バルス、不自然やない航路変更はでけへんかか?」
「1パーセクしか離れてません。航路変更は不自然です」
「無視してくれよなあ。こっちはイイ子にしてるさかいに……」

 直後、大使船がモニターに映し出された。緑の船体に連邦のマークが描かれている。

「カメラを強制指向させられました」
「ご挨拶で済んだら、ええんやけど……」

 やがて、モニターに絶世の美女が現れた。

『こんにちは、マーク船長。大使のアルルカンです。情報交換させていただければありがたいんですけど』
「敬意を持って……でも、ボロ船ですので、お越し頂くのは気が引けます」
『スキャンしているので、そちらの様子は分かっています。歴戦の勇者の船らしい風格です。ただ、手狭なようなので、私一人でお伺いします。いかがでしょう?』
「大使お一人でですか」
『ヤボなガードや秘書は連れて行きません。あと0・5パーセクで、そちらに行けます。よろしく』
「心より歓迎いたします」

 そこで、いったんモニターは切れた。

「切れましたね」
「あきれましたかもな。みんな、ドレスアップしてこい」
 みんな交代で着替えに行った。
「ミナコのも用意してあるから、着替えてくれ。ポチもな」
「めんどくさいなあ」
 そう言いながら、ポチもキャビンに向かった。

 やがて、みんなタキシードに似たボディスーツに着替えた。体の線がピッチリ出るのでミナコはちょっと恥ずかしかった。

「でも、大使ってきれいな人なんだ……」
「あれは、擬態や。赴く星によって、外交儀礼上替えてるそうやけど、オレはあいつの個人的趣味やと思てる」
「本来の姿は?」
「解放されたら教えたる。予備知識を持つとミナコは態度に出そう……」

 また、モニターに大使が現れた。

「ただ今より、そちらに移ります。タラップの横に現れますのでよろしく」
「お待ち申し上げております」

 全員がタラップに注目する中、大使が現れた。モニターに映る倍ほど美しかった。

「こんにちは、みなさん。連邦大使のアルルカンです。ベータ星からの葬儀の帰りなので、喪服で失礼します」
 大使は帽子を被れば、まるでメーテルのようだった。長いブロンドの髪と切れ長の黒い瞳が印象的だ。
「いっそう艶やかになられましたな、大使」
「ありがとう船長。でも擬態だから……あなたにはオリジナルを見られてるから、ちょっと恥ずかしいですね」
「航海日誌、ダウンロードされますか?」
「いいえ、直接船から話を聞きます」
 大使は、ハンベから直接ラインを伸ばし、船のCPUの端末に繋いだ。
「……そう、苦労なさったのね。マクダラと戦って、クリミアに……この情報は戦歴だけコピーさせていただきます。惜別の星……また墓標が増えていますね……三丁目じゃ、ホホ、いいことなさったわね……コスモス、あなた体を奪われたのね……」
「ええ、でもバックアップで、復元してもらいましたから」
「かわいそうなコスモス!」
 大使は、コスモスをハグした。とても悪い人には見えない。
「ありがとうございます、大使」
「ロイド保護法の改正を連邦に願ってみるわ。もっとも、連邦といっても、まだまだ名ばかり。少なくとも地球での地位向上には努力します」

 それから、大使は再び船との会話を再開した。

「船も、はっきりした目的地を知らないのね……クライアントの情報も無いわ」
「そういう契約なので」
「……このお二人を、私の船にご招待してもいいかしら」

 大使は、ミナコとミナホに目を付けた……。

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