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123《大和と信濃と・7》

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てんせい少女 

123《大和と信濃と・7》                   





「田能村中尉以下6名、横鎮分遣隊ただいま到着いたしました」

 艤装中の信濃に6機の黒い紫電改が着艦し、阿部艦長と細井中佐に着任報告をした。

 この6人は、細井といっしょに陸攻でやってきた者たちだが、その後横須賀に戻り、紫電改を受領していたのである。
 ちなみに、この6人は細井に擬態したミナが連れてきたアンドロイドたちであった。今回の任務は微妙な難しさがあるので、サポーターが必要なのである。

「錨泊中の空母に着艦するのにも驚いたが、なんで、この紫電改は黒いのかね?」

「近くに寄って見てください」

 細井に促され、阿部艦長は紫電改の傍に寄ってみた。

「……これは、どうしたことだ。傍によると生成りのジュラルミンのままだ!?」

「こいつは、太陽光を吸収してエンジンや機関砲の動力に使っております。太陽光エネルギーの吸収率は90%になります。つまり光をほとんど反射しませんので、よほど近くに寄らなければ、黒くしか見えません」

 そう言うと、細井中佐は拳銃を取り出し、紫電改の機体を撃った。

 ドギュン

「何をするんだね!?」

「ようく撃ったところをごらんください」

 拳銃の弾は機体の一メートル手前で静止していた……と思うと、ノッソリと5センチほど戻されポロリと落ちてしまった。

「光エネルギーを利用した軟性シールドです。大和の三式弾の直撃でも、こいつは墜ちません。爆発の衝撃も吸収されて自分の動力に変換してしまいます」

――電探に感あり。南東から、敵機140機あまり接近しつつあり!――

 ブリッジの防空見張り員がメガホンで叫んだ。

「松山の143空が撃ち漏らしたやつだな。中佐、空中退避させんでもいいのか?」

「ちょうどいい、実用試験をやりましょう。田能村、さっそくだが、かかってくれ」

「承知しました」

 6機は陸攻とともに飛び立った。信じられないほどの滑走距離の短さだった。

 電探は、細井中佐の中継機と連動しているので、硫黄島から発進した時点で分かっていた。源田実が隊長を務める343航空隊がまず迎撃したが、紫電改の配備が間に合わず、12機の撃墜に終わっていた。

 横鎮隊の6機は土佐湾の上空で会敵した。

「なんだ、たったの6機か、日本も追い詰められたもんだ」

 編隊長は、6機の紫電改を見くびっていた。

 黒い紫電改の活躍はめざましかった。光エネルギーを攻撃力に変換、見かけは20ミリの発砲と変わりなかったが、実態は光エネルギーなので、弾道は直進する。いわゆる小便弾になることがなく、照準器の中に入ったものに発射ボタンを押せば必中である。

 呉の上空に達した敵機は48機まで減っていた。敵の指令機はとっくに撤退を指示していたが、6機の紫電改に追いまくられて、前方に出ざるを得なかった。

「くそ、あいつら、どれだけ弾を搭載してるんだ!」

 編隊長は歯ぎしりした。光エネルギーの弾なので、太陽エネルギーがある限り撃ちつづけることができる。敵機は、ようやく20機が逃れ、120機が撃墜され、爆撃機と戦闘機合わせて500人以上が捕虜になった。

 米軍は機数を増やし、戦闘機の割合も増やし、その後二度の攻撃をしかけてきたが、その大半を撃ち落された。

「どうする中佐。もう捕虜の数が2000を超えてしまったぞ。広島の収容所は、どこも一杯だ」

 捕虜たちには携帯電話を渡してある。呉の軍事施設の充実ぶりや、大和や信濃の艤装の進捗も逐次報告されている。米軍としては放置できない状況である。しかし、攻撃に行けば8割は墜とされてしまう。

 ジレンマであった。

 捕虜たちも、家族と直に電話が出来るので里心はつのる一方で、国に残された家族たちも政府に「日本に早期解放を求める」ように圧力をかけ始めた。

  二月の終わりに、アメリカは捕虜の交換を提案してきた。

 細井中佐の思惑通りになってきた……。
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