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124《大和と信濃と・8》
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てんせい少女
124《大和と信濃と・8》
「日本は、この戦争に勝とうとは思っていない」
収容所特性のポテトチップを小気味よく食べながら、細井中佐はウェンライト中佐に言った。
「しかし、ここのところの日本軍の精強さはなかなかのもんじゃないか。新規巻き返しを狙っているとオレは思ったが」
「たかが、500機あまりの飛行機を墜としても、アメリカは痛くもかゆくもない。今は攻撃してもほとんど効果がないんで、広島方面の攻撃を控えているだけだ。近々アメリカは関東地方に大規模な爆撃をする。これを見ろよ」
「……これはテニアンか?」
「ああ、硫黄島も取ったし、準備は万端、拡大してみろよ」
ウェンライトはパッドの画像を拡大した。
「おお、すごい数のB29だ」
「今は200機あまりだが、エプロンの空き具合を見ると、もう100機は増やすだろう」
「カーチスルメイの東京大空襲だな」
「呉に配置している艦艇や戦闘機は超一流だが、数が無い。呉を空にして東京の守備に戻ったら、その隙に呉がやられる」
「悩ましいところだな」
「それに、アメリカはマンハッタン計画を完了寸前だ。これを見ろよ」
細井中佐はパッドの画面を切り替えた。
「これは、どこの日本の街だね?」
「ネヴァダ砂漠の真ん中だ」
「え……?」
「ハワイの日系人に作らせた。日本家屋と街の一番効率のいい爆撃方法を立案するためにな。アメリカらしいプラグマティズムだ」
「東京は見捨てるのか?」
「それは秘密だ、ただ黙ってやられるわけでもない。それより、いい知らせだ。日本とアメリカで君らの釈放が決まった」
「おお、捕虜交換か!?」
「いいや、油との交換だ」
これが、細井中佐の狙いだった。
2000人のアメリカ人捕虜は、携帯電話で自由にアメリカの家族と話させている。捕虜には里心がつき、残された家族は、早期釈放をアメリカ政府や地元の議員に働きかけていた。日本人の捕虜はアメリカにいる。交換となると、早くても二か月はかかる。
そこで細井中佐は重油やガソリンとの交換を提案した。米軍は最初は渋ったが、ダメ押しのように細井中佐はアメリカの潜水艦二隻を陸攻で撃破、新たに200人の捕虜を確保。ようやく米軍も承諾した。重油20000トン、ガソリン10000トンである。
「チャンスがあったら上の方に言ってくれないか、日本はアメリカに勝つつもりはない。しかし、負けるつもりもない。アメリカが全力でかかってきたら、日本には勝ち目はない。ただし、世界的なパワーバランスではソ連が優位に立つ。それぐらいにはアメリカ軍の肉をえぐることはできるぜ。君のポテチは美味かった、これが食べられなくなるのは寂しいがね」
「この三日で一年分ぐらいのポテチを作っておくよ」
捕虜と油の交換は相模沖で行われた。交換は船ごと行った。米軍は2隻のタンカー、日本側は4隻の輸送船。乗組員が移り変わるだけで済む。
米軍が驚いたのは、日本が護衛に艤装工事の終わった大和と信濃を連れてきたことである。アメリカ側の駆逐艦とは大人と赤ん坊ほどの違いがある。大和が礼砲を撃ったときはアメリカ兵は腰を抜かした。一斉射だけだったが、衝撃でブリッジの窓ガラスの半分にヒビが入った。
細井中佐の計画は、次の段階に入ろうとしていた……。
124《大和と信濃と・8》
「日本は、この戦争に勝とうとは思っていない」
収容所特性のポテトチップを小気味よく食べながら、細井中佐はウェンライト中佐に言った。
「しかし、ここのところの日本軍の精強さはなかなかのもんじゃないか。新規巻き返しを狙っているとオレは思ったが」
「たかが、500機あまりの飛行機を墜としても、アメリカは痛くもかゆくもない。今は攻撃してもほとんど効果がないんで、広島方面の攻撃を控えているだけだ。近々アメリカは関東地方に大規模な爆撃をする。これを見ろよ」
「……これはテニアンか?」
「ああ、硫黄島も取ったし、準備は万端、拡大してみろよ」
ウェンライトはパッドの画像を拡大した。
「おお、すごい数のB29だ」
「今は200機あまりだが、エプロンの空き具合を見ると、もう100機は増やすだろう」
「カーチスルメイの東京大空襲だな」
「呉に配置している艦艇や戦闘機は超一流だが、数が無い。呉を空にして東京の守備に戻ったら、その隙に呉がやられる」
「悩ましいところだな」
「それに、アメリカはマンハッタン計画を完了寸前だ。これを見ろよ」
細井中佐はパッドの画面を切り替えた。
「これは、どこの日本の街だね?」
「ネヴァダ砂漠の真ん中だ」
「え……?」
「ハワイの日系人に作らせた。日本家屋と街の一番効率のいい爆撃方法を立案するためにな。アメリカらしいプラグマティズムだ」
「東京は見捨てるのか?」
「それは秘密だ、ただ黙ってやられるわけでもない。それより、いい知らせだ。日本とアメリカで君らの釈放が決まった」
「おお、捕虜交換か!?」
「いいや、油との交換だ」
これが、細井中佐の狙いだった。
2000人のアメリカ人捕虜は、携帯電話で自由にアメリカの家族と話させている。捕虜には里心がつき、残された家族は、早期釈放をアメリカ政府や地元の議員に働きかけていた。日本人の捕虜はアメリカにいる。交換となると、早くても二か月はかかる。
そこで細井中佐は重油やガソリンとの交換を提案した。米軍は最初は渋ったが、ダメ押しのように細井中佐はアメリカの潜水艦二隻を陸攻で撃破、新たに200人の捕虜を確保。ようやく米軍も承諾した。重油20000トン、ガソリン10000トンである。
「チャンスがあったら上の方に言ってくれないか、日本はアメリカに勝つつもりはない。しかし、負けるつもりもない。アメリカが全力でかかってきたら、日本には勝ち目はない。ただし、世界的なパワーバランスではソ連が優位に立つ。それぐらいにはアメリカ軍の肉をえぐることはできるぜ。君のポテチは美味かった、これが食べられなくなるのは寂しいがね」
「この三日で一年分ぐらいのポテチを作っておくよ」
捕虜と油の交換は相模沖で行われた。交換は船ごと行った。米軍は2隻のタンカー、日本側は4隻の輸送船。乗組員が移り変わるだけで済む。
米軍が驚いたのは、日本が護衛に艤装工事の終わった大和と信濃を連れてきたことである。アメリカ側の駆逐艦とは大人と赤ん坊ほどの違いがある。大和が礼砲を撃ったときはアメリカ兵は腰を抜かした。一斉射だけだったが、衝撃でブリッジの窓ガラスの半分にヒビが入った。
細井中佐の計画は、次の段階に入ろうとしていた……。
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