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150≪国変え物語・10・五右衛門オネエになる!?≫

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てんせい少女

150≪国変え物語・10・五右衛門オネエになる!?≫



「五右衛門さん、また女の子のかっこうしてるの!?」

 大坂城の控室に現れた奥女中が五右衛門であることは、直ぐに分かった。

「つまんねえな。こんなに簡単に見破られちゃ」

 言葉遣いは伝法であったが、所作や表情は若い娘そのものであった。

「どうして、娘のなりばかりしてんの?」

 城中は病人も少ないので、持て余した時間つぶしに、五右衛門はもってこいだと思った。

「第一に、美奈に近づくのは、これが一番いい」
「どうして?」
「美奈は分かってねえだろうが、お前は、かなりイケた女だ。男のナリで近づいては皆が警戒する。第二に女子のナリは気持ちがいい」
「この変態!」
「怒るな怒るな。オレも美奈ほどじゃねえが、人の心が読める。もっぱら、所作や表情から読み取るんだがな。男のナリでは読めないものが読める。諜報だ。それに一つ発見した」
「なにを?」

 そう言いながら麦焦がし(麦茶)を入れてやった。

「男と言うのは、袴や股引を穿いている。脚の内側が直接擦れあうことがない。ところが女子は内股が絶えず触れ合っている」
「それが何か?」
「自分というものの感じようが違う。自分を愛おしく思う。これは新発見だ。ここから人に対しても肌の感覚で人を見るようになる……女子の直観の優れたところだ!」
「なるほど」

 そういいながら、五右衛門にはオネエの才能と好みがあると、美奈は確信した。嫌悪感と仲間意識が同時に感じられ、おかしくなった。

「おかしいか?」

「いいえ、去年は九州の平定が終わり、あとは坂東の小田原……でも、それは今年はないでしょう。戦が無いのは良いことです」
「海の方じゃやってる。秀吉が朝鮮に頼まれて倭寇の取り締まりにかかった。五島や対馬の船乗りは、これに忙しい」
「え、五島や対馬って言えば、倭寇の本拠地じゃない」
「そりゃ、誤解だ。倭寇の八割は、朝鮮や明国の偽物だ。日本の倭寇は元来は商人だ。相手が無法な時に多少手荒くなる。倭寇征伐は長い目で見れば、商いを盛んにして、双方の国も仲良くなれる。結構なことだ」

 多少同業者への身びいきがあるだろうが、五右衛門の感想は合っていると思う美奈だった。

「倭寇の大糞ってのを知ってるかい?」
「フフ、ううん」
「倭寇ってのは、仲間の糞を集めて太い竹に入れて、並の十倍はあろうかという大糞を港なんかに残していくんだ。明や朝鮮の連中は、最初は大蛇がとぐろを巻いているのかと、寄って見ると……」

 美奈は五右衛門といっしょに大笑いした。

「来年は、坂東の北条と大戦になる……でも、今の秀吉を見ていると、あまり人死にが出ない戦に思える」
「五右衛門さんだから、教えてあげる。この夏には秀吉さんに子供が生まれるわ」
「ほんとか!?」
「男の子。知っているのは、淀君と老女だけ。秀吉さんも知らないわ。五右衛門さんに言えば、広めてくれそうだから」
「広める広める。いい噂は広がったほうがいい!」

 それだけ言うと、五右衛門はあっさりと部屋を出て行った。廊下を曲がったところで五右衛門が慌てる気配がした。

「効いてきた……」

 美奈は、麦焦がしに下剤を混ぜておいた。オネエになった五右衛門の話は長くなりそうな気配がしたから……。

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