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73〔宇賀先生のお見舞い〕
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明神男坂のぼりたい
73〔宇賀先生のお見舞い〕
やっぱり餅は餅屋だ。
それまでは、美枝とゆかりの三人で、あーでもない、こーでもないと言い合いしていたんだけど。
「けが人さんのお見舞いに相応しい花を……」
と、今まで三人で話し合っていた候補を言おうとしたら、間髪を入れずに花屋さんに聞かれた。
「女性の方ですか? 目上の方? お友だち? お怪我の場所は? で、ご予算は?」と、矢継ぎ早。
待ち合わせのコーヒーショップで、話し合ったことが、みんな吹っ飛んでしまった。
「じゃ、こんな組み合わせでどうでしょう?」
それは、カスミソウの中に赤やピンク、黄色などの明るいバラのアレンジだった。
「いやあ、この時期にまだバラがあったんですね!?」
バラは宇賀先生に相応しいので、最初に候補にあがったんだけど、時季外れで無いだろうということで却下になってた。
値段の割にゴージャスに見える花束を抱えて病室をノックした。
ハーイという声がして、個室のドアが開いた。
声から、宇賀先生自身かと思ったけど、出てきたのは宇賀先生のお母さんと思しきオバサンだった。
「まあ、あなたたち生徒さんたちね。わざわざ、どうもありがとう。さ、中へどうぞ」
そうい言われて能天気三人娘は「お見舞いにきました!」
ただでも声の大きな三人が、いっぺんに言ったので、病室にこだまし、慌てて口を押えた(^_^;)。
「ありがとう、三組の元気印」
先生は明るい声で応えてくれたけど、あたしたちは後悔した。
あのベッピンの宇賀先生の顔が三倍ぐらいに腫れて見る影もなかった。
「あ、お見舞いなにがいいかと思ったんですけど、先生に相応しいのは、だんぜんバラだと思って、色は、お若い先生に合わせて子供っぽいぐらいの明るい色にしました。まわりのカスミソウがあたしたち生徒の、その他大勢です!」
「ありがとう。あたし幼稚園のとき薔薇組で、漢字で薔薇て書けるのが自慢だったのよ」
先生は、花束を抱きしめるようにして匂いを嗅いだ。
「いやあ、いい香り!」
「じゃあ、さっそく活けようね」
お母さんが、そう言って花束を活けにいかれた。
「ガンダム先生が、すごく心配してらっしゃいました。授業ほとんど一時間使って、宇賀先生と人生について語ってくれたんですよ。ねえ」
「はい、けっきょく体育の時間で体動かしたのは、体育館のフロアー五周しただけです」
「ハハ、なにそれ?」
「人生を一週間の授業日に例えて、人生感じながら走ってきました」
「ハハ、岩田先生らしい手の抜き方ね」
そんな調子で、バカで明るいことだけがテーマのおしゃべりして二十分ほどで帰った。おしゃべりの終わりごろ、おかあさんがバラを見事に花瓶に活けて持ってこられた。バラの健康的な明るさが、先生の痛々しさをかえって強調してるみたいだった。
廊下に出ると美枝が泣きだした。病室ではほとんど黙ったままだったけど、ロビーに出てから、やっと口を開いた。
「ありがとう明日香。明日香一人に喋らして。あたし、喋ったら泣いてしまいそうで、喋れなかった」
「ううん、あたしだって、なに喋ったのか、よく覚えてないし」
後悔していた。先生が怪我したんだからお見舞いは当然だと思っていた。だから親には「友達とお出かけ」としか言わなかった。言ってたら、お父さんもお母さんも止めていただろ。
駅まで行くと、偶然、新垣麻衣に出会った。
「地理に慣れておこうと思って、定期でいけるところ行ったり来たり。日本の電車って清潔で安全なんだね。もう麻衣電車楽しくって……あなたたちは?」
宇賀先生のお見舞だというと、麻衣の顔が険しくなった。
「行った後になんだけど、行くべきじゃなかったわね。先生の顔……ひどかったでしょ?」
言葉もなかった。
麻衣の話によると、顔を怪我すると数日間は顔がパンパンになり、人相もよくわからないくらいになってしまう。そしてブラジルでは、よくそういうことがあるらしい。
麻衣は言わなかったけど、言い方やら表情から、身内でそういう目に遭った人がいるらしいことが察せられた。ガンダムが授業で先生の怪我の話をしたとき怖い顔になったのも、そういうことがあったからなんだろう。
「麻衣は、てっきり人生のこと考えて怖い顔になったと思ってた」
「ハハ、ラテン系は、そういうことは考えないの。その時、その場所が、どうしたら楽しくなるか。それだけ」
身内にえらい目に遭うた人が……とは聞けなかった。
「いいこと教えたげようか」
「え、なに!?」
麻衣は、うちが明るく話題を変えよとしてることが分かって、花が咲いたようなかわいい顔になった。
「あのね、定期というのは駅から出ない限り、どこまでもいけるんだよ!」
「ほんと!?」
「うん、うちのお兄ちゃんなんか試験前になると電車で遠くまで行って車内で勉強してたよ」
美枝がフォロー。
「ただし、急行までね。特急は乗れないから。それから新幹線も」
ゆかりが付け足す。
「ありがとう。じゃあ、今日は、どこ行こうかなあ!」
「そうだ、みんなで神田明神行こうよ!」
美枝が提案して、四人で神田明神を目指した。
こないだ、連れていってあげて、美枝は神田明神がお気になったみたい。
四人でお参りすると、ちょうどお宮参りが二組来ていて、その可愛らしさと目出度さに四人で目を細めたり、四人並んで、お作法通りのお参りしてると外人観光客の人たちに写真撮られたり。
巫女さんが、四人揃っての写真を撮ってくれて、最後はお決まりの明神団子で締めになった。
四捨五入しても、いい休日になった。さつきもだんご屋の店員に徹して邪魔しにこなかったしね。
73〔宇賀先生のお見舞い〕
やっぱり餅は餅屋だ。
それまでは、美枝とゆかりの三人で、あーでもない、こーでもないと言い合いしていたんだけど。
「けが人さんのお見舞いに相応しい花を……」
と、今まで三人で話し合っていた候補を言おうとしたら、間髪を入れずに花屋さんに聞かれた。
「女性の方ですか? 目上の方? お友だち? お怪我の場所は? で、ご予算は?」と、矢継ぎ早。
待ち合わせのコーヒーショップで、話し合ったことが、みんな吹っ飛んでしまった。
「じゃ、こんな組み合わせでどうでしょう?」
それは、カスミソウの中に赤やピンク、黄色などの明るいバラのアレンジだった。
「いやあ、この時期にまだバラがあったんですね!?」
バラは宇賀先生に相応しいので、最初に候補にあがったんだけど、時季外れで無いだろうということで却下になってた。
値段の割にゴージャスに見える花束を抱えて病室をノックした。
ハーイという声がして、個室のドアが開いた。
声から、宇賀先生自身かと思ったけど、出てきたのは宇賀先生のお母さんと思しきオバサンだった。
「まあ、あなたたち生徒さんたちね。わざわざ、どうもありがとう。さ、中へどうぞ」
そうい言われて能天気三人娘は「お見舞いにきました!」
ただでも声の大きな三人が、いっぺんに言ったので、病室にこだまし、慌てて口を押えた(^_^;)。
「ありがとう、三組の元気印」
先生は明るい声で応えてくれたけど、あたしたちは後悔した。
あのベッピンの宇賀先生の顔が三倍ぐらいに腫れて見る影もなかった。
「あ、お見舞いなにがいいかと思ったんですけど、先生に相応しいのは、だんぜんバラだと思って、色は、お若い先生に合わせて子供っぽいぐらいの明るい色にしました。まわりのカスミソウがあたしたち生徒の、その他大勢です!」
「ありがとう。あたし幼稚園のとき薔薇組で、漢字で薔薇て書けるのが自慢だったのよ」
先生は、花束を抱きしめるようにして匂いを嗅いだ。
「いやあ、いい香り!」
「じゃあ、さっそく活けようね」
お母さんが、そう言って花束を活けにいかれた。
「ガンダム先生が、すごく心配してらっしゃいました。授業ほとんど一時間使って、宇賀先生と人生について語ってくれたんですよ。ねえ」
「はい、けっきょく体育の時間で体動かしたのは、体育館のフロアー五周しただけです」
「ハハ、なにそれ?」
「人生を一週間の授業日に例えて、人生感じながら走ってきました」
「ハハ、岩田先生らしい手の抜き方ね」
そんな調子で、バカで明るいことだけがテーマのおしゃべりして二十分ほどで帰った。おしゃべりの終わりごろ、おかあさんがバラを見事に花瓶に活けて持ってこられた。バラの健康的な明るさが、先生の痛々しさをかえって強調してるみたいだった。
廊下に出ると美枝が泣きだした。病室ではほとんど黙ったままだったけど、ロビーに出てから、やっと口を開いた。
「ありがとう明日香。明日香一人に喋らして。あたし、喋ったら泣いてしまいそうで、喋れなかった」
「ううん、あたしだって、なに喋ったのか、よく覚えてないし」
後悔していた。先生が怪我したんだからお見舞いは当然だと思っていた。だから親には「友達とお出かけ」としか言わなかった。言ってたら、お父さんもお母さんも止めていただろ。
駅まで行くと、偶然、新垣麻衣に出会った。
「地理に慣れておこうと思って、定期でいけるところ行ったり来たり。日本の電車って清潔で安全なんだね。もう麻衣電車楽しくって……あなたたちは?」
宇賀先生のお見舞だというと、麻衣の顔が険しくなった。
「行った後になんだけど、行くべきじゃなかったわね。先生の顔……ひどかったでしょ?」
言葉もなかった。
麻衣の話によると、顔を怪我すると数日間は顔がパンパンになり、人相もよくわからないくらいになってしまう。そしてブラジルでは、よくそういうことがあるらしい。
麻衣は言わなかったけど、言い方やら表情から、身内でそういう目に遭った人がいるらしいことが察せられた。ガンダムが授業で先生の怪我の話をしたとき怖い顔になったのも、そういうことがあったからなんだろう。
「麻衣は、てっきり人生のこと考えて怖い顔になったと思ってた」
「ハハ、ラテン系は、そういうことは考えないの。その時、その場所が、どうしたら楽しくなるか。それだけ」
身内にえらい目に遭うた人が……とは聞けなかった。
「いいこと教えたげようか」
「え、なに!?」
麻衣は、うちが明るく話題を変えよとしてることが分かって、花が咲いたようなかわいい顔になった。
「あのね、定期というのは駅から出ない限り、どこまでもいけるんだよ!」
「ほんと!?」
「うん、うちのお兄ちゃんなんか試験前になると電車で遠くまで行って車内で勉強してたよ」
美枝がフォロー。
「ただし、急行までね。特急は乗れないから。それから新幹線も」
ゆかりが付け足す。
「ありがとう。じゃあ、今日は、どこ行こうかなあ!」
「そうだ、みんなで神田明神行こうよ!」
美枝が提案して、四人で神田明神を目指した。
こないだ、連れていってあげて、美枝は神田明神がお気になったみたい。
四人でお参りすると、ちょうどお宮参りが二組来ていて、その可愛らしさと目出度さに四人で目を細めたり、四人並んで、お作法通りのお参りしてると外人観光客の人たちに写真撮られたり。
巫女さんが、四人揃っての写真を撮ってくれて、最後はお決まりの明神団子で締めになった。
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