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78『旧制中学の制服』
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RE.乃木坂学院高校演劇部物語
78『旧制中学の制服』
スカートを繕って同窓会館の方に戻りかけると、理事長先生といっしょになった。
「さっきは、焼き芋の差し入れありがとうございました」
「なんのなんの、ちと多すぎやしなかったかね」
「いえ、先輩方も応援に来てくれたんで、ちょうどよかったと思います」
「そうか、そりゃよかった」
そこへ、みんなが、ゾロゾロ同窓会館から出てきた。
「整理完了したから、お祝いの買い出しに……あ、理事長先生。先ほどはありがとうございました」
一礼すると、里沙を先頭に、みんなで駅前のコンビニを目指して行った。
「ほう……綺麗になったね。いや、同窓生を代表して礼を言うよ」
「いいえ、とんでも。こちらこそ……」
理事長先生は、懐かしそうに部屋を一周すると、ピアノに向かい、静かに撫でてから弾き始めた。
「……先生、この曲なんていうんですか!?」
「『埴生の宿』だよ……知っているのかい?」
「はい……ここで聞きました」
「……そうか、君にも聞こえたのか」
「人影も見えました……一瞬、シャンデリアが一瞬点いたときに、ほんの一瞬……」
「……旧制中学の制服を着ていなかったかい?」
「それっぽかった……かな。きっとバルコニーのガラス戸に映った自分の影を……」
「僕も、一瞬だけ見たことがある……このピアノに寄っかかってるところを刹那の間」
「先生……」
「そのときも、かすかに『埴生の宿』が聞こえた。そうか……君にも見えたんだね」
「その人って……」
「悪いやつじゃないと思うよ。時々物音をたてたり、椅子の場所が変わっていたり。ごくたまにこの曲を聞かせてくれたり……それは、こないだ話したね……そうか、君にも見えたんだ」
理事長先生は、また、ゆっくりと慈しむように『埴生の宿』を弾き始めました。
それから、たった三人の稽古が始まった。
ほんとは、少し期待があった、先輩の誰かが見に来てくれないかって。
だって、演出も舞監も、わたしたち役者が兼務。出番の少ないノブちゃん役の夏鈴が、稽古ごとに立ち位置や、演技のきっかけをメモってくれる。それを基に三人で、ああでもない、こうでもない。
動画を撮ってやってみたけど、巻き戻して観るだけで稽古時間が無くなってしまう。帰りの電車の中で見ても、自分の未熟な演技って落ち込むだけだしね。
「ね、SNSに上げてコメントとかもらったら?」
「そ、そんな恥ずかしいことができるか!」
夏鈴の提案は、一言の元に里沙が切り捨てた。さすがのわたしも、公演前の芝居を流すのはアウトだと思うよ(^_^;)。
やっぱ、演出がいないとね……やってらんねえ! なんてヤケッパチのグチなどは言いませんでした……思っていてもね。
それにね、役者以外誰もいない、道具も何にも無しの稽古場……これも地味に落ち込む。
わたしだけ、もう一人分の気配を感じていたけど、それは言わなかった。
理事長先生には言ったけど、漠然としていて、二人に言うどころか、自分で思い出すのもはばかられた……だって、怖いんだもん!!
☆ 主な登場人物
仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
芹沢 紀香 潤香の姉
貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
貴崎 サキ 貴崎マリの妹
大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
まどかの家族 父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
78『旧制中学の制服』
スカートを繕って同窓会館の方に戻りかけると、理事長先生といっしょになった。
「さっきは、焼き芋の差し入れありがとうございました」
「なんのなんの、ちと多すぎやしなかったかね」
「いえ、先輩方も応援に来てくれたんで、ちょうどよかったと思います」
「そうか、そりゃよかった」
そこへ、みんなが、ゾロゾロ同窓会館から出てきた。
「整理完了したから、お祝いの買い出しに……あ、理事長先生。先ほどはありがとうございました」
一礼すると、里沙を先頭に、みんなで駅前のコンビニを目指して行った。
「ほう……綺麗になったね。いや、同窓生を代表して礼を言うよ」
「いいえ、とんでも。こちらこそ……」
理事長先生は、懐かしそうに部屋を一周すると、ピアノに向かい、静かに撫でてから弾き始めた。
「……先生、この曲なんていうんですか!?」
「『埴生の宿』だよ……知っているのかい?」
「はい……ここで聞きました」
「……そうか、君にも聞こえたのか」
「人影も見えました……一瞬、シャンデリアが一瞬点いたときに、ほんの一瞬……」
「……旧制中学の制服を着ていなかったかい?」
「それっぽかった……かな。きっとバルコニーのガラス戸に映った自分の影を……」
「僕も、一瞬だけ見たことがある……このピアノに寄っかかってるところを刹那の間」
「先生……」
「そのときも、かすかに『埴生の宿』が聞こえた。そうか……君にも見えたんだね」
「その人って……」
「悪いやつじゃないと思うよ。時々物音をたてたり、椅子の場所が変わっていたり。ごくたまにこの曲を聞かせてくれたり……それは、こないだ話したね……そうか、君にも見えたんだ」
理事長先生は、また、ゆっくりと慈しむように『埴生の宿』を弾き始めました。
それから、たった三人の稽古が始まった。
ほんとは、少し期待があった、先輩の誰かが見に来てくれないかって。
だって、演出も舞監も、わたしたち役者が兼務。出番の少ないノブちゃん役の夏鈴が、稽古ごとに立ち位置や、演技のきっかけをメモってくれる。それを基に三人で、ああでもない、こうでもない。
動画を撮ってやってみたけど、巻き戻して観るだけで稽古時間が無くなってしまう。帰りの電車の中で見ても、自分の未熟な演技って落ち込むだけだしね。
「ね、SNSに上げてコメントとかもらったら?」
「そ、そんな恥ずかしいことができるか!」
夏鈴の提案は、一言の元に里沙が切り捨てた。さすがのわたしも、公演前の芝居を流すのはアウトだと思うよ(^_^;)。
やっぱ、演出がいないとね……やってらんねえ! なんてヤケッパチのグチなどは言いませんでした……思っていてもね。
それにね、役者以外誰もいない、道具も何にも無しの稽古場……これも地味に落ち込む。
わたしだけ、もう一人分の気配を感じていたけど、それは言わなかった。
理事長先生には言ったけど、漠然としていて、二人に言うどころか、自分で思い出すのもはばかられた……だって、怖いんだもん!!
☆ 主な登場人物
仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
芹沢 紀香 潤香の姉
貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
貴崎 サキ 貴崎マリの妹
大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
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